第227話 ドミー一行、帰還する

「ドミー将軍は、この国を守るために立ち上がったんやで!」


 ドミー将軍の命を受け、ムドーソに単身使者としてやってきたうちは、ギルド本部に通される。


 中にいたのは3種類の人間や。


 1つ目は、どうしていいか分からず怯えているだけの無能。

 ぶくぶくと太った貴族たち。

 こいつらは大した存在やないな。


 2つ目は、うちに明らかな敵意を向けている者。

 蒼白な顔で睨みつけてくれる重臣のランケ、表面上は穏やかやけど殺気をみなぎらせた【道化】が該当する。

 もしこいつらが襲ってきたら、うちは一貫の終わり。


 3つ目の人間は、うつろな表情で玉座に座り、ぼーっとしている幼い少女。

 他ならぬこの王国の女王、エルンシュタインや。


 このエルンシュタインに、うちは言葉を投げかけた。


 「ドミー将軍は突発的に巻き込まれた【カクレンの乱】を見事鎮圧した!それだけでなく、各地の諍いや争いも調停し、ランデルン地方もムドーソ王国のもとに取り戻してる!それが正当に評価されないとしたら、何のためにこの国は存在するんや!」

 「きききき貴様!Cランクの分際で、ムドーソ王国の権威を蔑ろにするとはなんたるー」

 「ランケ!【カクレンの乱】が鎮圧されてからノコノコとやってきたあんたに用はない!」

 「な、なんだとおおおおお!」

 「もう一度言うでエルンシュタインさま!この国のために無償で功績を立てたドミー将軍を評価するのかしないのか!王であるあなたの素質を問う!」


 もちろん、初めからこんな調子だったわけやない。


 最初はあくまで低姿勢でドミー将軍に内戦を起こすつもりがないことを伝え、穏便にお願いする姿勢を取ったんや。


 でも、のらりくらりとかわされるだけでまったく効果がない。

 交渉3日目、ついに攻勢に出たと言うわけや。


 「なんと不遜な…この使番の首を刎ねよ!誰かおらぬか!ええい、おらぬならこのランケ自ら…うひゃあああああ!」


 さて、どうする?


 王が折れるならそれでよし。

 うちが殺されるのも、それはそれでよしや。  

 いずれにせよ事態は動く。


 


 うちの才能を見出してくれた将軍のためなら、悔いはない。


 「…分かった」


 その時、玉座に座る王がぼそりとつぶやいた。


 「ドミーを将軍に任じ、ムドーソへの入場を許す」

 「王よ!それではこの国がー」

 「このままでは国が完全に2つに割れる。それで被害を受けるのは、他ならぬ民じゃ…ただし」


 王の瞳に力が宿り、【守護の部屋】が赤く染まっていく。

 

 「みだりに乱を起こせば、この【守護の部屋】と対峙することになる。そのことを、ゆめゆめ忘れるなよ…」

 「もちろんです!」


 【守護の部屋】をこの王が扱えないのは分かっている。

 でも、うちはあえてそこを突かなかった。


 「【ドミー軍】はムドーソの民を一人たりとも傷つけません」




 それでも、この王は聡明に違いない。



 ==========



 「レーナの命がけの交渉により、【ドミー軍】はムドーソ入城が可能となった!彼女には後日褒美を取らせる!」

 「ありがたき幸せ!」


 レーナは恭しくお辞儀をした後、隊列の中に戻る。

 彼女は【カクレンの乱】に引き続き多大な貢献をしてくれた。


 彼女のランクはCだが、人の評価はランクだけで決まるわけではない。

 もし俺が王となれば、人を適正に評価し、働きどころを与えられるような国にしたいものだ。


 それが、ムドーソの民全体の幸せにつながるだろう。


 「先発はアマーリエとゼルマに任せる!周辺の町を慰撫しながら、ムドーソまでの道を切り開け!」

 「「はっ!!!」」


 ここに至るまで、部下には随分と苦労をかけたから、それにも報いなければなるまい。

 大変な道だが、必ずやり遂げてみせる。


 「いよいよここまで来たね、ドミー!」

 「ドミーさま、ミズアが命をかけて護衛致します!」


 心から愛する女性たちのためにも。


 「【ドミー軍】進発!」


 俺は【シオドアリ】のシオにまたがり、全軍に号令した。


 「「「全ては将軍のために!!!」」」

 ここまで集めた部下、およそ1000人がヴィースバーデンを発ち、続々とムドーソへと向かっていく。




 その道を阻むものは、もはや何一つ存在しなかった。

 


 ==========



 「半年ぶりだね、ムドーソに帰るのは」


 シオに乗るドミーに付いていきながら、私はドミーに話しかけた。


 たかが半年、されど半年。


 ムドーソを出る頃は少し少年っぽさを残していたドミーも、今やかなり威厳が出てきている。


 「そうだな!ま、予定よりゆっくりだが、俺も一端の人物になってきた!これならも成り上がってみせるぞ!わはははははは!」

 「キュキュ!」

 「どわあああああ!?こらシオ、俺はお前に乗るのにまだ慣れてないんだからな…」

 「キュキュ〜〜〜」


 …前言撤回。

 ドミーはドミーだ。


 どれだけ偉くなっても、ドミーはあんまり変わらない。

 そんな所が、私はたまらなく好きなんだ。


 「ふふふ。ドミーさまったら。ミズアとライナが、これからも支えてあげなければなりませんね」

 「そうね。ドミーは結局、戦闘能力が皆無だし」


 きっとミズアも同じ気持ちなんだろう。

 

 「これからもお前たちの力を借りることになる。今後も頼むぞ!」

 「「喜んで!」」




 私たちの旅は、まだ道半ばだ。



 ==========



 レムーハ記より抜粋


 ヴィースバーデンを出発した王の軍勢はー、




 約2週間後、王都ムドーソへと入城した。

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