旧約第11章 ドミーは王を目指す
第228話 ドミーは地上、ロザリーは地下
レムーハ記より抜粋
年が明けて2月15日。
【ドミー軍】がついに首都ムドーソへと入城する。
ヴィースバーデンを発つ際に1000人だった軍勢はさらに志願者を増し、3000人を越えようとしていた。
ムドーソ王国の統治に不満を覚えていた一般市民は歓呼の声で出迎えたが、貴族や王に近しいものにとっては恐怖でしかなかったであろう。
しかし、入城した王は兵士に殺戮や略奪を禁じたため、大きな混乱はなかった。
比較的穏便に行われた政権交代だったが、王はとある懸念を示したと伝わっている。
「あの女がいない、探せ」と。
==========
チチチチチチ…
ムドーソ城の中でも王族や貴族の住まう内郭【エルムスの館】。
その中の1室【ディアナの間】で俺は目覚める。
豪華な調度品に囲まれた豪勢な部屋だが、目を見張ることはない。
「所詮は滅びゆくムドーソ王国の遺品だしな…それに」
俺は体を横たえる寝台のシーツをめくる。
どんな宝石や絵画よりも美しい、全裸の2人の少女がそこにはいた。
「ドミー…次は私の番よ…むにゃむにゃ」
1人は、金髪で小顔の炎魔導士【蒼炎のライナ】。
口をにへら、と開け、少しだけよだれが出ている。
「ドミーさま、ミズアにも愛をお与えください…すぴー」
もう1人は、さらりとした白い髪と巨乳が特徴の槍士【竜槍のミズア】。
上品に体を丸め、口もきちんと閉じて眠りについている。
2人とも16歳の誕生日を迎え、大人の女性になる一歩手前の瑞々しさを備えている。
どちらがより美しいか、などという野暮な話はするまい。
いずれも、俺にとって大事な愛する人だ。
…最近求められすぎてちょっと体がもたないのは内緒だ。
簡素な服に着替え、俺は2人を寝かせたまま寝台を出る。
すぐそばに寝ずの番が控えていた。
【ドミー軍】の古株から選出された、親衛隊を率いるエーディトである。
風魔法の使い手として成長著しく、【強化】なしでもAランク相当の力を得るに至った。
「ドミー殿下、おはようございます」
「ご苦労。いつも通りだ。遠目からで良いから数人護衛を付けてくれ」
「かしこまりました。ですが、城外も安全とは言えないのでお気をつけて」
「その時には」
俺は後ろで夢の世界を楽しむ2人の少女をチラリと見る。
「彼女たちが電光石火で駆けつけてくれるさ」
==========
「「マッスルマッスルゥゥゥゥゥ!!!」」
ムドーソ城外の平野で、2人の人物の声が響き渡る。
1人は俺、もう1人は門番のアメリアだ。
「今日はいいマッスル日和ね!でもいいの?こんなしがない門番と毎日鍛錬なんて」
「いいさ!最近は体を鍛える暇もなくてな、お前とこうしてないと太ってしまいそうだ!これからも頼むぞ!」
「嬉しいお言葉だわ❤️それでこそあたしが認めたオ・ト・コ」
「悪いが嫁は2人で間に合ってるぞ!」
「あら残念」
「で、どうだった?」
俺はアメリアに頼んでいたことを聞いてみる。
すなわち、この城を出入りする人間の監視。
その中から、特定の人物を発見すること。
「いなかったわ。殿下の指定した特徴に該当する人は」
筋肉門番が力なく首を振る。
「もう逃げちゃったんじゃない?いくら伝説のAランクと言ったって、3000人の軍勢には敵いっこないよ」
「だといいがな。さ、もう1度だ!」
「了解!マッスルマッスルゥゥゥゥゥ!」
(そんなはずはない…おそらくどこかに潜んでいるはずだ。俺を狙うために…)
内心の懸念をアメリアに伝えず、朝の鍛錬を続行するのだった。
あいつの捜索はひとまず棚上げにしよう。
最近増えた新しい家臣と共に、今日も政務に邁進せねばなるまい。
==========
ムドーソ水道。
2代目国王チディメに仕えた天才建築士カエナオが首都ムドーソに水を供給するため建築した大規模な水道。
地上にある石造の水道が有名だが、大半は地下に建造されていた。
地下の方が動物の死骸などで汚染されにくく、敵からの攻撃も防ぎやすい。
その地下水道の一角に、あたしは潜んでる。
人を雇い、密かに作らせた特別な一室の中で。
入り口には偽装が施され、近くを横切っただけではわからない仕組みとなっていた。
寝台、テーブル、鏡台、食料庫、温浴施設など、地上とほぼ変わらない生活ができるようになっている。
いわば、あたしだけのお城だ。
「【ディアナの間】よりは窮屈だけど、まあいいか」
一応、部屋の中で気に入った調度品はいくつか運ばせてある。
許可もちゃんともらったわ。
ー貴様!逆賊ドミーがムドーソに押し寄せるというのに、逃げるじゃと!この恩知らず…ひいいい!
ーうるさいわね、金で雇われた傭兵なんて信じる方が悪いのよ。後、この部屋の中のものいくつか持っていくからね。
だから、問題ない。
「さて、向こうの方はどうなってるかしらね…」
あたしは【ディアナの間】にあった調度品の1つ、紫の水晶玉に手をかざした。
名前は【千里玉】
2つで1対になっていて、離れた場所同士でも交信ができる優れものだ。
ムドーソ水道と同じくカエナオが開発したものだが、誰と交信するものなのかは分かっていない。
どうやら、使って欲しい相手に受け取ってもらえなかったようだ。
「…ロザリーさんですか?」
「ええ、そっちの進捗はどう?」
向こう側に、眼鏡をかけた少女が姿を見せる。
【魔法士】のレイーゼ。
【拳闘士】ルギャと同じく、あたしと同じパーティだった人物。
眼鏡をかけているが、片目は潰れていて隻眼だ。
なぜかって?
他ならぬ、あたしが潰したからだ。
「順調です。もう1週間すれば完成すると思います」
「結構。完成したら、参加している職人はみんな殺しなさい」
「っ!それは余りにもー」
「あたしの言うことが聞けないの?」
「…分かりました」
「じゃあそのままお願いね」
「ロザリー、さん」
レイーゼが震えながらあたしに懇願する。
「この施設が完成して、ドミーを手に入れたら、約束を果たしてくれますよね…?」
「ええ、もちろんよ」
あたしは微笑み、懇願に応えた。
「【アレスの誓い】を復活させてもいいわ。死んだルギャも喜ぶでしょうね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます