第226話 ライナは別れを告げる

 「…朝、か」


 ホテル【フォンタナ】の一室。

 寝台の上で、俺は新たな1日がやってきたことを知る。

 何の変哲もない朝だったが、俺にとっては特別な日だ。


 すなわちー、




 男になった日!

 色々な意味で!


 「すー…すー…」

 「おっと、起こしたら悪いな」


 隣で金髪を振り乱して寝ている少女に気がつかなければ、飛び上がって喜んでいたところだった。

 少し気分を落ち着かせ、彼女の枝毛1つない綺麗な髪をそっと撫でる。


 「頑張ったな、ライナ…」


 昨日の彼女の様子を思い出す。

 少し慣らしたとはいえ、初めての経験が痛くないはずがない。

 俺も精一杯配慮したとはいえ、至らぬところもあっただろう。


 ードミー、私、幸せだよ…ようやく、あなたのものになれた…だから、止まらないで。


 それでも、彼女は一度も泣き言を言わなかった。

 痛みをぐっとこらえら、小さな体で俺を受け止め続けてくれた。


 もしこれで人類を救われるとすれば、その功績は全てライナのものに違いない。

 ライナは間違いなく、人類種の母だ。


 「ドミー…?」


 その時、ライナがくりくりとした瞳をゆっくりと開けた。 

 

 「おはよう、ライナ。昨日はお疲れ様」

 「どうして裸なの…?

 「えっ、ああ。なんというか。ライナも裸だぞ?」

 「…あ、そっか。私とドミーは、1つになったんだったね。ミズアは?」

 「今日だけ別室で待機だ。後で、お礼を言いに行こう。彼女にも賞賛を受ける権利がある」

 「そうだね。ミズアと私とドミーは、一心同体だから」

 

 ふう、と息をついたライナが半身を起こす。

 体を覆っていたシーツがふぁさりと落とされ、彼女の上半身が露わになった。

 少女から大人になる過程をなぞっている途中、熟す寸前の瑞々しい肉体。


 「ねえ気づいてる?私、あなたに触られても強制的に【絶頂】しなくなってる」

 「そうだな。何故かは分からんが、コンチが手を回したんだろう」

 「きっと、私が完全にあなたのものになったからだと思う。私、今のあなたならどこをどう触られても気持ち良いし」


 そのまま、互いの顔を少しの間見つめ合った。

 

 「…綺麗だよ、ライナ。愛してる」

 「私も、ドミーを愛してる」

 「いつまでもお前と一緒にいると誓うよ」

 「私も、あなたから永遠に離れないから」


 下腹部を愛おしそうに撫でながら、ライナは微笑んだ。


 「あなたの子も、私が産んであげるからね…」






 「というわけでもう1回戦行くぞー!おー!」

 「え!?昨日は6回もしたのに、これ以上は俺の体がー」

 「大丈夫だよドミーの体は頑丈だから。というわけで、久々のルパンダイブゥゥゥゥゥ!!!」

 「頑丈とかそういう問題じゃ、あんぎゃああああああああ!!!」




 


 このあとめちゃくちゃセックスした。

 

  

 ==========



 「ライナ、おめでとうございます!ミズアも嬉しいです!」


 その2時間後。

 流石に疲れた私とドミーは、一旦解散する。


 ベトベトになった体を洗おうと【ゲオルギーネの湯】に行くと、ミズアが先客として湯に入っていた。


 「ありがとう。でも私1人じゃ絶対に成し遂げられなかったわ。ミズアのお陰よ」

 「そんなことはありません。でも、褒めていただけるのが嬉しいです…」 


 2人で抱き合い、ミズアと永遠に破られないであろう友情を確認する。

 ドミーのがっしりとした肉体とは違って、ミズアの肉体を丸みを帯び、ぷにぷにとしていた。


 死闘を乗り越えた今、ドミーとミズアと抱き合えることが、何よりも嬉しい。


 「そういえば、なんでこんな時間にお風呂に?」

 「それが…」

 「?」


 ミズアは、不意に体をモジモジし始める。


 「ミズアにも、印が現れたのです」

 「印って言うと…」 

 「ライナにも出たではありませんか。…からの出血が」

 「ああ!なるほど」


 私は途端に嬉しくなり、心のつかえがすーっと取れた気分になった。


 「あなたもドミーとセックスできるのね!」

 「ラ、ライナ!あまり、大きな声で言わないでください…」

 「大丈夫よ、慣れてしまえばすぐだから。私も教えてあげる」

 「もう、ミズアをからかわないでください…」

 「ごめんごめん。さ、体を洗ってさっぱりましょう」


 顔を真っ赤にする彼女を見てくすくすと笑い、私は体を洗い始める。

 



 今日中に、行っておきたい場所があるからだ。



 ==========



 「イラート。もしかしたらヴィースバーデンを発つかもしれないの。だから挨拶に来たわ」


 廃墟となった【ランデルン・ホール】のそばにひっそりと建てられたお墓。


 そこで私は目を閉じ、祈りを捧げた。


 ー先輩!今日は僕が援護しますからね!

 ーせんぱ〜い、好きな人とかいないんですか〜?

 ー僕も、先輩みたいにみんなのために行動できる人になりたいです。


 思い出すのは、【アーテーの剣】で一緒だった時のイラートだった。

 それは、彼女にとっては本物の自分ではなかったのかもしれない。

 

 でも、全てが偽物だったわけではないはずだ。

 もし皆がイラートの悪口を言っても、私だけは擁護し続けたい。


 それが、旧友として私ができる最後の友誼なのだから。


 「落ち着いたらまた帰ってくるね。ドミーがムドーソを掌握すればここも賑やかになる。あなたのお墓ももう少し綺麗にできるはずだから、もう少し我慢してね…」


 ここ数日間の汚れを払い落としながら、私はイラートに語りかけた。

 汚れを払い落とすたびに、彼女との想い出がより鮮明になっていく。


 過去に少しだけ逃避して、イラートとの日々を懐かしんだ。


 ほんの少しだけ。

 

 「…あなたとの日々は忘れないわ。死ぬまで忘れない」




 そして、私はゆっくりと【ランデルン・ホール】を去っていった。



 ==========


 

 「ついにこの時が来たぞ!」


 数日後。


 俺は【ドミー軍】全軍に告げる。

 2日前、ムドーソに派遣されていたレーナが帰還し、交渉の首尾を伝えに来たのだ。


 結果は、俺たちのムドーソ入城の許可。




 「全軍をもって、いよいよムドーソへ帰還する!」

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