第223話 ライナは誘う

 


 イラートの墓は、【ランデルン・ホール】のほど近くにひっそりと建てられた。


 ランデルン・フォン・ローゼマリー


 ただそれだけが記された簡素なものであるが、恐らく、豪勢な墓など本人も望まぬであろう。

 とにかく、一部の人物のみで内密に葬ることにした。


 無事に終了し、【ドミー軍】全体がヴィースバーデンに帰還した時ー、






 ライナは熱を出して寝込んだ。

 


 ==========



 「はぁ…はぁ…みんな、ごめん」

 「何をいうのですライナ、今ドミーさまが料理をお持ちしましたよ」

 「待たせたな!どんな病もたちまち癒えるドミー特製スープだぞ〜ってあちちち!」 

 「もう、ドミーったら…病人の私より、そそっかしいわよ」

 

 というわけで、ホテル【フォンタナ】の部屋で療養中のライナを、俺とミズアの2人で看病している。

 呪いの類ではなく、純然たる風邪だ。

 ここ数日のことを考えれば無理もない。


 触れればたちまち完治するのだが、ライナはそれを望まなかった。

 理由はある程度予想はつくが、深く詮索しないことにしている。


 ライナには、友を弔う時間が必要なのだろう。


 「ミズア、一緒にスープをフーフーするぞ!」

 「はい!ふぅ、ふぅ」

 「ふーっ!ふーっ!」

 「あはは、そんなに吹いたら、冷めるわよ」 

 「おっと悪い、じゃあ、食べてみてくれ」

 「うん…おいしい。やっぱり、ドミーの料理は安心するなぁ。田舎の小さな宿屋でおばあちゃんが作ってくれそうな味」 

 「それ、褒めてるの?」


 俺もミズアも、努めてライナの前では明るく振る舞うようにしている。


 コンコン。


 ライナに朝食を食べさせている時、部屋の扉がノックされた。

  

 「入れ」

 「将軍、朝早くから堪忍な。うちもそろそろ出発しようと思いまして」


 【使番】のレーナだった。

 ここ数日出番がなかったが、とある役目を与えている。

 彼女にしかできない重大な任務だ。


 「もうそんな時間か。レーナの働きが【ドミー軍】の今後に重大な影響を与える。期待してるぞ」

 「将軍に褒められると、なんか緊張するわぁ」

 「大丈夫だ。レーナならきっとできる。ただし無理はするなよ」

 「分かってますって!じゃあ…」

 

 彼女のふくらはぎをさすり、力を与える。

 

 「あっはぁ…久々のこれ、ええわぁ。じゃあ行ってくるで!」


 レーナはいつものように、疾風のごとく去っていった。

 


 ==========



 「それでは、兵とヴィースバーデンの巡回に行って参ります」


 昼になり、ミズアは数名の兵士と去っていく。

 イラートがいない今、見知らぬ暗殺者を必要以上に恐れる必要はない。


 安心がもたらされたわけだが、どこか寂しさも感じた。


 「じゃあライナ、今日はどうして過ごすか?チェスでもするか?俺渾身の一発芸という手もあるぞ!」

 「そう、だなあ」


 寝台に横たわるライナは、療養用の白い衣服に身を包んでいる。

 汗を少しかいており、息が荒い。

    

 「特に、して欲しいってことはないけど。ドミーと一緒に、いたい…」

 「それなら心配ないぞ!お前が回復するまであらゆる公務は中止にしてるからな!ふははははは!」

 「そう、じゃなくてさ」

 「うん?」

 「あなたと離れた時、イラートに別れを告げた時…とても寂しくて、悲しくて…もう、誰かと、別れたり、永遠に会えなくなるのは、嫌…」


 瞳には悲しみの色が宿り、両手をぎゅっと握りしめる。

 

 「だから、私が死ぬまで、一緒にいて。離れないで」


 俺にできるのは、ただ彼女の想いに応えるだけだ。


 「案ずるな。俺とお前が死ぬのは同年同月同日同秒と決まってる。今後は、絶対にお前のそばから離れたりしない」

 「ほん、と?」

 「レムーハ大陸の神に誓って」

 「じゃあ、手、繋いで…」


 直接触れれば、ライナは回復してしまう。

 腕に布を巻き、彼女の右手の指と、俺の右手の指を絡めた。


 「…すぅ、すぅ」


 しばらくすると、彼女は眠りの世界へと入っていく。 

 少しだけ表情が晴れやかとなった気がした。


   


 結局、その日は1日中彼女に寄り添うのだった。



 ==========



 「大分良くなったわ!ドミーとミズアのおかげね。ありがとう」


 夜までには、ライナの体調は復調の兆しを見せた。

 まだ寝台からは抜け出せないが、血色は良くなり、表情にも力が戻りつつある。


 「ライナは必ず良くなると信じておりました!ドミーさまがつきっきりで看病したおかげですね」

 「まあ、ちょーっといびきがうるさかったけど」

 「おい、それは言わない約束だろ!?」

 「だってドミーの寝顔可愛かったし」

 「ミズアも見たかったのです。じゅるり…」

 

 いつもの3人の状態に戻り、一安心であった。

 数日後には、いよいよムドーソへの帰途に就けるだろう。


 そしていよいよー、


 「体調も戻ったことだし、そろそろ始めよっか」

 

 国盗りの野望に胸躍らせていた俺を、ライナが現実に引き戻す。


 「?何をだ?」

 「もう、とぼけちゃって。あなたと私がやることといえば、一つしかないでしょ?」

 「俺とライナで、やること?」

 「もう。とぼけちゃって」


 ライナはいたずらっ子のような笑みを浮かべ、少し服の胸元を開ける。


 「セックスよ」


 

 

 

 

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