第220話 【ドミー団】は再会する

 イラートを抱き抱えながら、俺は【ランデルン・ホール】地下から地上へと向かう。

 

 「いってぇ…回復魔法使いってあんまりいないんだよな」


 【透明な刃】で両腕を切られたのでかなりキツイが、置いていくわけにはいかなかった。

 最終的にどのような罰が下るにせよ、ライナと話す時間を与えてあげたい。


 (ライナは、かなり近いな。ミズアは少し距離がある)


 ミズアとライナは、どちらも生きているのを感じる。

 両名とも、マトタとジーグルーンに打ち勝ったのだ。


 だが、かなり衰弱している。

 早く助けてあげないと危険だ。


 「急がないと」


 歩く速度を早めた時ー、


 「ドミー将軍!ご無事でしたか!」

 「ライナとミズアさまが重症です!早く治療を!!

!」


  【ドミー軍】の面々と出会った。



 ==========



 「先輩!」


 おぼろげな景色の中に、昔のイラートがいた。

 悲しみを秘めた瞳をしているけど、感情は表に出さず、優しい笑顔を浮かべている。

 

 なんだか放っておけなくて、傍にいてあげたくて、一緒に行動を共にした。


 懐かしい記憶。


 それとは別に、私が体験したことがない記憶も流れ込んでくる。


 (これは、イラートの記憶?)


 ランデルン地方を滅ぼし、自らの秘密を知ったものを殺し、私に呪いをかけ、【アーテーの剣】の面々を自らの欲望のため犠牲とした。


 イラート、いや、ランデルン・フォン・ローゼマリーが隠し続けた、自らの人生。

 私がずっと知りたかったもの。


 (ごめんね、イラート。あなたを助けてあげられなくて。私が引っ叩いても、あなたを止めるべきだった…)


 ふと、体がひどく冷えていくのを感じる。

 全身があちこち痛み、血がとめどなく溢れていく感覚もあった。


 どうやら、私は死が近いらしい。


 (ドミー…ミズア…み、んな…) 


 意識が完全に闇に包まれていく。

 ふわふわとした感覚に包まれ、そのまま気を失いそうになった時ー、




 「ライナ!無事か!」

 「ライナ!しっかりしてください!」


 会いたかった2人が、私の目の前に現れた。 



 ==========


 

 俺が手で触れると、ライナを覆う死の影は一瞬で消え去り、彼女の頬に生気が戻る。

 ボロボロになった【炎魔導士のローブ】は元に戻らないため、【ドミー軍】の一員が持ってきていた毛布を被せていた。

 

 「ドミー?ミズアも…きゃっ!」


 彼女が目を覚ます姿を見て、安堵感と愛おしさが押し寄せ、抱きしめてしまう。


 「すまない、お前を1人にして。俺が馬鹿だった。許してくれ…!」

 「私こそ、ごめん。あなたにも、ミズアにも心配かけた」

 

 もう、二度と彼女と離れたくない。

 永遠に一緒にいたい。


 その想いを再確認できたのが、この事件で唯一前に進めた部分であった。


 「良かった、良かったです…!」

 「ミズア。お前もこっちに来い。一緒に抱き合おう」  

 「ミズア。あなたも頑張ったのね。ありがとう」

 「はい…!」


 号泣しているミズアと共に、3人で互いの体温を確認し合う。

 ここまで感情を昂らせるのは、3人でケムニッツ城のゴブリン500名を討伐した以来だった。


 「いでででで!」

 「ドミー!?あなたよく見ると腕を怪我してるじゃない!」

 「早く医者を呼ぶのです!」

 「何のこれしき…大した傷ではないわ!」

 「何強がってるの!ミズア、応急処置よ!」

 「了解です!」

 「あ、この流れは嫌な予感…あひいいいいん!」


 このあとめちゃくちゃ応急処置した。

  

 

 ==========



 「将軍!ご無事で。ゼルマも泣いて喜んでおりました」

 「ばっ…変なこと言わないの!こほん、あたしたちを襲っていた自動人形も機能を停止したわ。腕を負傷したと聞いたけど大丈夫なの?」


 【ドミー軍】が集結しているところに戻ると、アマーリエとゼルマから報告を受ける。 


 「先ほど回復魔法使いに治癒してもらったから大丈夫だ。幸い毒は仕込まれてなかったらしい。負傷者はいるか?」

 「軽症者が数名ですが、ドミーさまのお手を煩わせるほどではありません」

 「周りに敵影は?」

 「ないわ。ただ、報告にあったマトタとジーグルーンの遺体は確認できない」

 「ミズアとライナが討ち果たしたと報告を聞いている。念のため捜索しろ」

 「「はっ!!!」」


 その時、少し離れたところから、黒い体躯をした生物がこちらに向かってくるのが見える。


 「キュキュ〜〜〜!」


 シオドアリの巨躯を揺らし、シオがこちらへと向かってきたのだ。

 その黒い眼から、涙があふれているのを見て、こちらも泣きそうになる。

 

 (どみーさま!いきてる!うれしい!) 

 「お前がいなければ、ライナを探し出すことはできなかったよ。ありがとう」

 (じゃあ、これからもしおにのってくれますか?)

 「もちろんだ!」


 頭をワシワシと撫でると、より一層嬉しそうに飛び跳ねた。

 

 「キュキュキュ♡」

 「おそらく、残り数時間でここから引き上げる。【ドミー軍】の作業を手伝ってくれ」

 「キュ!」


 どしどしと体を動かし、元気よく去っていった。


 「あと決断すべきことは、1つか」


 俺はその足で、ライナとミズアが向かった場所へ向かう。

 



 すなわち、【ドミー軍】によって囚われたイラートがいる所だ。






 

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