第217話 イラート、支配される

 「死ねええええっ!」


 イラートが戦斧を振り下ろし、俺を一刀両断しようと切りかかる。 

 盾で致命的な一撃を防ぎ、短刀で素早く反撃。


 だが、素早く察知したイラートが後方に退避したため、短刀は虚しく虚空を切った。


 「なかなかやりますね。だが…!」

 再び戦斧を持って突撃し、今度は横に薙いで俺の体を裂こうとする。


 すんでのところで回避するが、イラートの攻撃は止まらない。

 連撃を繰り返し、俺をこの世から抹殺しようとする。


 「お前さえ、いなければ、先輩は、僕のものだったのに!」

 「…」 

 「お前さえ、お前さえ…!!!」


 攻撃は正確だが、力は非力であった。

 オーク兵の一撃を受けてきた俺にとって、防げない攻撃ではない。


 「はあっ、はあっ、はあっ…」

 「それでは俺は殺せないぞローゼマリー。どうやらお前自身はスキルを使えないようだな。【降霊の儀】

 「うるさい!あなたも、早く攻撃しろ!」

 「しないさ。俺は、お前を殺したくない」

 「…!馬鹿に、するなあああああ!」


 だが、こちらの攻撃を当てるのも難しそうだ。

 一時的とはいえ、【アーテーの剣】に名を連ねていた者である。


 何の策もなく無傷で制圧することはできない。

 全力でかからなければ、俺が殺されてしまう。


 何の策もなければ。


 「くそっ!」

 「やれやれ、これでは埒があかないな」

 

 イラートの何度目かの攻撃をかわし、俺は覚悟を決めた。

 今まで温存していた敵を制圧するための秘策。


 それを今披露するとしよう。


 「イラート」

 「僕の名前を呼ぶなっ!汚らわしい男風情がー」

 「先程から言ってるが、俺はお前を支配したい」

 「な、何…?」

 「だからこうしよう」


 短剣を捨てる。

 盾も放り投げた。

 鎧もほとんど外す。




 「俺は【奇跡の右腕】を持つ男だ。お前も知っている通り、右腕で触れた人間を支配下に置ける」


 戸惑うイラートを見つめながら、両手を伸ばす。




 「だから、お前もそうするとしよう」



 ==========



 「…ははははは!遂に気が狂ったようですね。いいでしょう!」


 疲弊していたイラートが、狂ったような笑い声をあげる。

 目は赤く染まり、斧を握る手からは血が滲んでいた。


 「望み通り殺してあげます!なぶり殺しにして、苦痛に苛まれ死んだあなたの顔を、先輩に見せつけてやりますよ!」


 イラートは最後の突進をかける。

 斧を振り上げ、俺の右腕を胴体ごと両断しようとした。


 「甘いぞ!!!」


 だが、それより早い速度で俺は右腕を突き出し、イラートの振り上げた斧を弾いた。


 斧がイラートの背後へと飛んでいき、壁面へと突き刺さる。


 これでー、


 「…甘いのはあなただ、ドミー!」

 「ぐっ!」


 右腕に痛み。

 さらに左腕にも。


 突然の痛みに、思わず俺はうずくまる。


 「【透明の刃】。すごいでしょ?人間の目には見えない刃です」


 勝ち誇った表情を浮かべるイラートは、右手の先にあるものをチラつかせる。

 一見何もないように見えたが、俺の血が付着することで、透明なナイフの全体像が浮かび上がっていた。


 「神経を切った以上、あなたはもう腕を動かせない。念のため左も潰しておきました。終わりだー」

 

 その一瞬を俺は待っていた。




 手が使えないなら、足を使えば良い。

 イラートの頭部を狙う後ろ回し蹴り。 


 「ぐっ…!」


 不意を付かれたイラートは、俺の蹴りを右腕でガードし、かろうじて後退する。


 「悪あがきを…!でもこれで…」


 悪態をついて俺を切り刻もうと前進するイラートだが、やがて自らの違和感に気づいた。

 

 体を一歩も動かせないのである。

 腕が震え出し、【透明の刃】がからりと床に落ちた。


 「な、なにを…」  

 「俺は、今までずっと自分の能力を隠してきた。常に【奇跡の右腕を持つ男】として振る舞い、部下たちにも手でしか触れたことがない」

 「まさか、手以外も…!?」

 「そういうことだな」


 野望の一歩となった【ラムス街】で1000人を支配した時から、俺は全身どこで触れても女性を【支配】できるという条件を話さないでおくことにした。

   

 もしそれが知れ渡れば、敵は俺を何が何でも殺そうとするだろう。

 だが、右腕だけと思い込ませれば、最悪右腕を失うだけで済むかもしれない。


 この世界に住む女性を【支配】できる能力は、可能な限り入手したいと誰もが思うはずだからだ。


 「そん、な…!」

 「ひざまづけ」

 「ぐあっ!」


 すでにイラートからは敵意を奪った状態である。

 あとは、【絶頂】させれば【支配】は完了だ。


 「そうだな…ライナには怒られるかもしれないが、ある意味意趣返しになるだろう。悪く思うなよ」

 「な、にを…」

 「こういうことさ」


 最後に残った腕の力でぐいっとイラートの顎を持ち上げる。


 「ま、まさかー」

 「そのまさかさ」


 そしてー、




 イラートの唇と、自分の唇を合わせた。

 

 「…!?やめ…んむっ…!」

 みるみる顔を赤くしていくが、俺は構わず、舌を這わせていく。


 かなり力を込めてだ。

 ライナにもしたことがないほど強引に舌をねじ込み、口内を蹂躙する。





 「っっっ…!〜〜〜〜〜!!!」


 だから、イラートは容易く【絶頂】した。

 

  

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