第208話 ミズア、追い詰められる
「はっ!やあっ!たあっ!」
攻撃、攻撃、攻撃。
ー急所を差し貫く刺突。
ー回転を加えての殴打。
ー足元を狙った払い。
あらゆる攻撃方法を使い、マトタに一撃を加えんと食らい付きます。
「ははははは!一本調子すぎるな!」
ですが、全て紙一重で回避されます。
まるで踊るように飛び跳ね、体を捻り、笑いながら。
ほとんどが命中しません。
やがて付き合うのに飽きたかのように、大きく飛び跳ねて後退しました。
「何故スキルを使わないのですか!逃げずに戦いなさい!」
「使わないのではない、使えないのだ」
【和刀】で虚空を薙ぎながら、マトタは肩をすくめます。
「我のスキルは【泡沫の生】のみ。それ以外は、鍛え上げた肉体だけが武器ゆえ」
マトタの頭上に灯る数字が点滅し、106となりました。
ミズアの数字も、45となります。
「その気になれば、逃げ続けるだけでそなたを倒せるな。倒せるというより、そなたが勝手に死ぬという方が近いか。ははははは!」
「そんなことはさせません!」
再び突進し、【幻影】を発動。
虚像は左、ミズアは右からマトタに迫り、マトタの視界を撹乱します。
しかしー、
「もうその技は見切った!」
「ぐっ…」
足に痛み。
本体を看破したマトタがミズアの首を狙った刺突を紙一重でかわし、返す刀でミズアの腿をわずかに切ります。
幸い軽症ですが、少しでもずれていれば重要な血管をやられていたはず。
このままでは、ライナとドミーさまが…
「隙あり!!!」
(しまった!)
一瞬の隙を付き、マトタが一気にこちら側に接近。
己の鍛え上げた肉体のみとは思えないほどのスピード。
「せやあ!!!」
「きゃああああっ!」
必殺の袈裟斬りをなんとか槍の柄で防ぐも、衝撃までは殺しきれません。
バランスを崩し、地面に叩きつけられます。
何度も、何度も、何度も転がり、視界が赤く染まります。
「ぐあ…」
プレーンラインの家屋に激突し、勢いはようやく止まります。
なんとか【竜槍】を手放さずに済んだものの、全身に痛みが走りました。
脇腹の痛みは特に痛く、焼けるようです。
(こんなに…力の差があるなんて)
呼吸を整えて立ち上がった時、マトタは哀れみの表情を浮かべながらこちらに歩み寄ってきました。
「苦しいだろう。使命を果たせず、愛する者を守れず、敵を倒せず死んでいくのはな」
「まだ、負けていません…くっ」
「肋骨が何本か折れたはずだ。もういい。楽になれ」
【和刀】を突きつけ、殺気をみなぎらせます。
「どんな想いも、死ねば終わりだ。一瞬であらゆる想いは消え失せる。後には何も残らない。だからー」
「いやです!」
右腕で握りしめた【竜槍】に左手を添え、ミズアも攻撃体制をとります。
「ミズアは諦めません!たとえそれがどんなに苦しくても、痛みが激しくても!」
【紫毒】で何も成せないまま死んでいく身だったミズアを救ってくれた人のために。
同じ人を愛し、支え、苦楽を共にした友人のために。
「最後まで愛する人たちのために戦います!!!」
痛む体を叱咤して突撃を敢行。
体力を考えれば、【高速】状態となれるのはこれで最後。
「そうか!なら死ぬがいい!」
マトタも凄まじい速度で距離を詰めます。
勝負は一瞬。
マトタが【和刀】を振り降ろし、ミズアの右腕を切り落とそうと迫ります。
「ぐあっ!貴様…!」
ですが、マトタはのけぞりました。
ミズアが右脚で地面を蹴り、砂埃を巻き上げたからです。
視界を塞ぎ、剣士の動きが一瞬鈍ります。
ーミズア。強敵に勝つには、必ずしも正々堂々である必要はない。絡め手を使いこなしてこそ、真の優れた戦士だ。
ライナがイラートに攫われる前日、ドミーさまと特訓の最中に練習した技の1つ。
一本調子なミズアだからこそ敵も油断しやすいはずと、太鼓判を押されました。
(ありがとうございます。ドミーさま)
「覚悟っ!」
感謝の想いと共に突き出した【竜槍】で、マトタの肉体を差し貫きます。
「ぐうっ!」
マトタがかろうじて体を動かして心臓への致命傷は避けられますが、【和刀】を握っていた右腕に命中。
肘の先が【和刀】ごと吹き飛び、マトタは戦闘力を喪失します。
これでー、
「がっ…!?」
視界が暗転。
息が苦しくなり、切った唇から血が流れ始めました。
首に強烈な圧迫痕。
「くくく、単純な戦士とみくびって不覚をとったわ…しかしこの肉体は痛覚が鈍くての、生身の貴様と違って立て直しも早い」
マトタの残った左腕が、ミズアの首を捉えているのめす。
ぐいぐいと絞めあげられ、左腕だけで空中に持ち上げられます。
凄まじい腕力。
「は、放して…いやっ…」
両足で抵抗しつつ【竜槍】で攻撃を加えようとしますが、マトタにさらなる一撃をもたらすには握力が足りません。
穂先を向けるのが精一杯です。
(あれを使うには、集中力が…!)
「諦めろ」
「あ…ぐ…」
カラン。
さらに力を込められ、意識が遠くなる中で、【竜槍】が地面に落ちる音が聞こえました。
徐々に音も遠くなり、絶望が心の中を包み込みます。
「悪いが、我も力を入れにくいのでな。少しの間苦しんでもらうぞ。まあ、その後には何も感じぬさ」
「い…や」
「楽になれ。それが、生きる苦しみから逃れる術だ…」
「…ぁ」
(ラ…イナ。ドミー…さ、ま。ごめん、なさい)
とめどない涙が、両目から溢れます。
(ミズ、アは…約、束を…守れ…)
世界は暗黒に包まれ、何も分からなくなりました。
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