第203話 【ドミー軍】、進発する
【リースの調べ】を外から監視していた俺とミズアが現場に急行した時には、全てが終わっていた。
ライナとイラートが食事を取っていた部屋は攻撃を受けたかのように荒れ果て、誰もいない。
近くにいた【ドミー軍】の一員から詳細を詳しく聞いた。
「イラートの傍に2人の男が現れて、ライナを拉致したわけか」
「部屋の内部にすでにいたとは思わず、対応が遅れました。面目ありません」
「いや、お前たちが気にやむことではない。下がれ」
「はっ…」
風が吹き荒ぶ部屋の中で1人になる。
「くそっ!!!」
壁を叩きつけ、己の不甲斐なさを叫んだ。
(下手に冒険せず、イラートを直接捕らえればよかった。俺としたことが…ライナにもしものことがあれば、俺は…)
ーねえドミー。私、もう一度だけイラートと話してみたいの。
ー危険すぎる。却下だ。
ーイラートは、人に言えない悩みを抱えてるかもしれないの。だからお願い…
ー…分かった。だが、少しでも怪しい動きを見せたら捕らえる。
後悔の念が心の中をかき乱され、思考がまとまらない。
ライナを最後まで制止するべきだった。
俺の不甲斐なさが全ての事態を招いた。
いや、悪いのは全てイラートとかいう女だ。
イラートが憎い。
八つ裂きにしてやりたい。
殺してやりたい。
床に座り込み、憎しみに囚われそうになる。
「ドミーさま!!!」
俺の混乱した思考は、1人の女性によって救われる。
ミズアだ。
【竜槍】を携え、髪を乱し、息を荒げている。
だが、俺の姿を見ると深呼吸し、冷静さを取り戻した。
「ドミーさま。【ドミー軍】はアマーリエの指揮のもと集結を終えています。さっそく奪還に向かいましょう」
「ミズア、俺を笑ってくれ。ライナ1人守れない不甲斐ない俺を…」
「イラートと向き合いたいと願ったのはライナです
。それに、ライナも簡単にはやられないとミズアは信じます」
「…」
「立ってください、ドミーさま」
ミズアが俺に手を差し出した。
「どんな危機の中でも、ドミーさまは自分を見失わず乗り越えてきたではありませんか…」
まっすぐな瞳が、俺に訴えかけている。
立ち上がれと。
(そうだ…俺が取り乱してどうする)
ライナは俺の助けを信じて待っているはずだ。
俺がこんな状況じゃ、ライナに笑われる。
「すまない、ミズア。もう大丈夫だ」
ゆっくりとその手を取り、立ち上がった。
「俺もライナも、最近はお前に支えられっぱなしだな」
「良いのです。ミズアは、ドミーさまとライナの役に立つことが生きがいなのですから…」
冷静になった思考で、次の行動を考える。
部屋の片隅に指輪が1つ転がっていた。
「【共有の指輪】は、ライナの予想通り抜き取られているようだな」
「はい。ですが、もう1つの手段で見つけられるはずです」
「ああ」
それは人間では感知できない手段で、スキルに依存しない。
それゆえ、スキルを絶対視している人間ほど裏をかきやすいとライナは踏んでいた。
「シオを呼んでこよう」
その鍵を握っているのは、【シオドアリ】の少女であった。
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(どみーさま。たしかにねんえきのにおいがてんてんとつづいています)
【リースの調べ】の周囲を調べていたシオから連絡が入る。
「やはりか。どの方向に向かっている?」
(このほうがくは、らんでるんちほうです)
「ランデルン地方…分かった、引き続き調べてくれ」
(わかりました!)
雪が降りしきる中、シオはクンクンと匂いを嗅いだ。
ライナが用意したのは、シオの粘液だ。
粘液を貯めた小瓶を懐に隠し、危険な時に開封して転々と地面に垂らす。
その跡をたどり、シオに自分の居場所を見つけてもらうという作戦だ。
「お前のおかげで、俺は愛する人を救えそうだ。感謝する」
「キュ…♡」
シオの体を撫で、感謝の意を示す。
俺の冒険は、常に誰かの支えによって成り立っているのだ。
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「【ドミー軍】の兵士たちよ!俺はローブの暗殺者たちの影にずっと苦しめられてきた!その因縁を、今こそ断ち切る!!!」
やがて集結した【ドミー軍】一同の前で、俺は宣言した。
「詳しくは言えないが、ライナには世界の命運もかかっているのだ!助け出したもの、功績があった者に褒美は惜しまないぞ!」
「「「ドミーさまの愛するライナ補佐官を必ずお救いします!!!」」」
留守居部隊50名はレーナに預け、残り250名は進発する。
決戦の地は、ランデルン地方。
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