第199話 ライナ、対策を講じる

 ヴィースバーデンの道具屋は【アスカロン】という名前だった。

 【アスカロン】とは、昔聖人がドラゴンを退治する時に使った剣の名前らしい。 


 大層な名前だが、扉を開けて中を確認すると、ラムス街の【ミョルニル】と大差はなかった。

 狭いスペースに剣、斧、槍、杖、盾などがところさましと並べられているが、半分は埃をかぶっている。

 

 「あんまり大したことないかも?」

 「平和な温泉街だから、武器の需要が薄いのかしらね」

 「こら、あんまり失礼なことは言わないの」


 私もたしなめはしたものの、残念そうな評価を下す【ドミー軍】の面々と同じ気持ちだった。

 だががっかりするのはまだ早い。

 中に入り、奥にいる店主らしき人物に声をかけてみる。

 椅子に座り、眼鏡をかけて熱心に本を読んでいる老婆だ。


 「すいません。魔導士向けの武器や道具を探しているのですが…」

 「ああん?珍しいねぇ。久しぶりの来客だ。あたしゃエーレントラウト。あんたは?」

 「ライナ。ドミー将軍に仕える魔導士よ…一応ね」


 最後の言葉には、私のコンプレックスが少しこもっている。

 【ドミー軍】の面々は、ドミーの【強化】を繰り返し受けることで、ランクやステータスが少しずつ上上昇していた。

 いつかは【強化】なしでもAランク相当の実力を手にするだろう。

 だが、【成長阻害の呪い】を掛けられている私には無縁の話で、いつまで経ってもCランクから脱却できないでいた。

 そのため、【シオドアリの巣】で【強化】の効果が切れた時、危うく拉致されるところだったのである。


 ミズアは実力を磨くため鍛錬に励んでいるようだけど、私にはその道を選べない。

 と言うわけで、今回【アスカロン】に足を運んだ。


 「とにかく杖とローブを色々と見せて欲しいわ。少しでも強くなりたいの」 

 「いや〜、あんたは多分そのままでいいね」

 「…え」


 道具屋の店主と思えない言葉をかけられ、面食らう。


 「その杖とローブ、愛してる人物に贈られたもんでしょ?」

 「そ、そそそそんなの分かるわけないでしょ!?」

 「図星だねぇ。確かに質的には大したことないけど、あんたはその装備を使うことで実力を最大限に発揮できる。目には見えない相性ってやつさ。うちにはそれを超えるほど上等なもんが置いてない」

 「そ、そんなあ」


 がっくし。

 どうやら無駄足だったらしい。

 

 「あの杖とローブって、確かドミー将軍のものだったよな…」

 「どうりで

 「あたしも買ってもらいたいなあ」


 【ドミー軍】のヒソヒソ話が後ろから聞こえ、顔が赤くなるのを感じる。

 まさかの羞恥プレイであった。


 でも、少しほっとしている部分もある。

 ドミーが選んでくれた装備は、確かに馴染んでいる気がするからだ。


 「…じゃあ、【アイテム】を見せてくれないかしら」

 「【アイテム】をかい?珍しいねぇ。真っ当な使い手は欲しがらないもんだけど」

 「私は真っ当な使い手じゃないから心配無用よ」


 【アイテム】は、以前利用した【縄抜けの鍵】のように、自分が会得していないスキルを一時的に行使できる道具だ。

 スキルが絶対視されるレムーハ大陸では『【アイテム】を使うのは軟弱者』という風習があり、重視されていない。


 だからこそ、そこに隙がある。

 自分のスキルに絶対的な自信を持っていたジーグルーンに不意打ちを喰らわせるのだ。


 「それなら、色々あるよ。見ていってくれ」


 エーレントラウトは、店の奥の棚からいくつかの【アイテム】を取り出して、私の前に並べた。


 「うーん、これはいいわね。後これと、これと…」


 指輪を3つ。

 腕輪を1つ。

 玉を5つ。

 靴を1足。


 合計1568ゴールド。


 多種多様な【アイテム】を買い揃え、満足して私は店を出るのであった。

 どんな【アイテム】かって?


 それは使ってからのお楽しみ。


 「じゃあ、色々観光していきましょうか!」

 「「「喜んで!」」」


 用事を済ませた後、10名の護衛と共に観光へと向かうのであった。



==========



 色々観光を済ませてホテル【フォンタナ】への帰途についた時、すでに夜となっていた。


 護衛10名を解散させ、ドミーの部屋に、と言いたいところだが、とある人物に用事があった。

 【フォンタナ】の庭で飼育されている【シオドアリ】の少女、シオにである。


 「キュキュ…?」

 「力を借りたいの。欲しいものがあって…」


 身振り手振りでメッセージを伝えると、シオに伝わったらしい。

 私が欲しいものを、彼女が用意し始めた。


 これも、いつか役に立つだろう。 

 用心に越したことはないのだ。



==========



 このようにして、私なりのジーグルーン対策が進んでいった。

 最後に残った対策は、スキルの強化である。

 【成長阻害の呪い】と一見矛盾しているように見えるが、私には1つの武器があった。


 すなわち、【集中】の個性である。


 

 

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