第194話 アマーリエ、プロポーズの準備を整える
「結婚!?」
ホテル【フォンタナ】の客室で、俺は【ドミー軍】の指揮官の申し出を聞いた。
アマーリエとゼルマが2人で借りている部屋だが、ゼルマは所用で部屋にいないようだ。
その間に、話を付けてしまいたいらしい。
「はい。何かおかしいでしょうか」
「いや、おかしくはないが…いつだ?25日の聖夜か?」
レムーハ大陸では、12月25日を聖夜と呼んでいた。
何が聖なる夜なのか?はさまざまな説があり、定説を得ていない。
コンチに見せられた別世界の風景によると、クリスマスと呼ばれていた。
「いえ、明日です」
「明日!?」
「明日がゼルマの誕生日でして。用意は一通り済ませました」
「そうか。ならいいんだが…」
「ムドーソに帰城すれば、恐らく忙しくなるでしょう。その前にこの想いを伝えておきたい」
「…想い、か」
俺は迷った。
この世界では、女性同士が結婚するのはなんら不思議なことではない。
【生命降臨の儀式】を経てどちらかが妊娠し、子孫を残す。
数千年間行われてきた命の営みだ。
だが、その法則は崩れつつある。
アマーリエとゼルマが結婚しても、恐らく子供は生まれないだろう。
それを言うべきか言わないべきか、判断が付かない。
「…」
「将軍、何か隠し事をしていますな?」
「…そうだな、している」
「長い付き合いではありませんか。水臭いですぞ」
「それが、残酷な現実であってもか?」
ここまで言えばもう半ば白状したようなものだ。
が、アマーリエはひるまない。
「もし残酷な現実が待ち受けるとするならば、私はゼルマを全力で守らねばなりません。だから、教えてくだされ」
「…分かった、話す。この世界の真実を」
俺はライナから聞いたことを洗いざらい話した。
【生命降臨の儀式】は実態が伴わないフェイクであること。
この世界の出産を手助けしていた神は、その機能を失いつつあること。
今後は、俺が子孫繁栄の役割を担う必要があること。
…最後に、実際に子孫繁栄を行う方法を。
それを聞いたアマーリエはー、
「なるほど、それは私とゼルマでは難しそうですな」
ふにゅ~となる…ってあれ?
どうやら普通らしい。
【ドミー軍】大人担当は伊達ではないということか。
俺も見習わなければならない。
「とにかく、俺が知っていることはこれで全部だ。…すまないな、せっかくの祝い事に水を差して」
(俺がもう少し腹芸に長けていれば、何も告げぬに済んだのだろうか…)
一瞬後悔の念がよぎるが、もはやどうしようもなかった。
腹心を騙す判断が一瞬で出来るほど、俺は冷淡にはなれない。
そんな俺を尻目に、アマーリエは冷静である。
「…そんな顔をなさいますな。むしろ安心しております。ゼルマに危険が及ぶものではありませんから」
「俺も可能な限り協力しよう。ライナやミズア、いや、【ドミー軍】みんなも呼ぼうじゃないか」
「ははは!将軍、これは私とゼルマによる私事ですぞ?盛大に祝う必要ありません」
「なら、せめて幹部たちだけでも。お前には世話になったし、少しでも恩を返したい」
「もったいないお言葉、痛み入ります。それでは、少しだけお願いいたします」
その後、いくつかプロポーズの具体的な内容に関する話し合いを終え、俺とアマーリエは別れた。
「ま!ゼルマに断られたら終わりですがね!ははははは!」
「何をいってる。お前とゼルマの仲じゃないか。絶対成功するに決まってる」
「将軍に励まされたら百人力ですな!」
アマーリエは謙遜しているが、ゼルマと特別な情で繋がっているのは俺でもわかる。
大丈夫だ。
==========
「じゃあ、明日を楽しみにしてるぞ!」
「はい。本日はごゆっくりお休みください」
ドミー将軍は意気揚々と部屋を出て行った。
恐らく、自室に戻ってライナやミズアに話すのだろう。
足音が完全に遠ざかるのを確認して、
「ふにゅ〜…」
人生で初めて出す声を出した。
顔がかあっと赤くなる。
「ま、まさかそんなことをするなんて。ライナ補佐官は上手くやれるのだろうか…いや、あの2人なら上手くやるだろう」
世界を救うための任務は、適任者に任せるとしよう。
まずは、自分がやるべきことをやる。
「あ〜いい湯だった。ん?どうしたのアマーリエ」
ゼルマが入浴を終え、部屋に戻ってきた。
いつもの聖職者の服からガウンに着替えている。
可愛い。
「こほん。ゼルマ、お前に伝えたいことがある」
将軍には言わなかったが、今ここで想いを伝えることにする。
ぶっつけ本番でプロポーズというわけにはいかない。
もし断られた場合、将軍やライナ補佐官に恥をかかせてしまう。
それに、ゼルマの気持ちはきちんと確かめておきたい。
2人きりで。
「…良いわ、聞きましょう」
長い夜が始まった。
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