第193話 ドミー、シオを仲間とする

 (じょおう!?しおがですか?)


 シオは当然ながら驚愕したが、俺はそこまで驚かなかった。


 何となく、シオは他の【シオドアリ】とは違うと思っていたからである。


 通常の【シオドアリ】より大きな体躯は、女王として大切に育てられてきた証拠。

 【シオドアリ】のオスを瞬時に従えた【魅惑】も、ただ1人【ゲトアリ】の影響下に置かれなかった【独立】も、女王として活動するための個性。


 今回の騒動を解決する立役者となれたのも、ある意味必然だったのだ。

 シオなら、さぞかし立派な女王となるだろう。


 「キュキュ…」

 シオは混乱しているのか、その場で固まっている。

 

 その間に、俺は女王と話をつけることにした。


 「【シオドアリ】の女王よ。俺は先程シオの紹介を受けた男性ドミーだ。早速だが、いくつかあなたにお願いしたいことがある」

 (あなたは、われらのすのおんじんです。おききしましょう)


 要求事項は以下の3つである。


 ーランデルン地方の巣はそのままでいいが、人は襲わないと約束すること。

 ー【シオドアリの巣】の一部を観光地として開放すること。

 ー【ゲトアリ】たちを傷つけないこと。


 最後の条項に女王は難色を示したが、それは俺の思っていた理由とは違った。


 (しかし、げとありはわたしたちのこどもをなんびきかくろこげにしたようです。そのぶんのばつはあたえなければ…)

 「黒こげ?」

 (はい。どのようにやったかはしりませんが、ひめいをききました)

 「それは、恐らく【ゲトアリ】の仕業ではありませんね」


 この巣の中でそのようなことが行えるのは、もちろん1人、いや2人しかいない。

 ローブの暗殺者のことを語り、【ゲトアリ】に罪がないことを主張した。


 (そうですか…)

 「どちらかといえば、それは俺の方に責任がある。さっさとそいつらを捕らえていれば、そのような事態は起きなかった。ここは穏便に済ませてくれないか」

 (わかりました。そのようにいたしましょう)


 【シオドアリ】は、平和を愛する種族のようだ。

 シオや女王と話をしてみて、そう感じた。


 「あ、そうだ」

 (?)

 「オスたちも褒めてやってください。彼らがいなければ、俺もシオも危ないところでした」

 (ふふふ。そうですね。わたしのほうからうんとほめてあげます)


 これで、少しは【シオドアリ】の性別バランスを改善する…かもしれない。


 

==========



 「さて!俺から話すことは以上だ。【ドミー軍】も、巣の復興を手伝ってからここを立つことにする」

 (わざわざてつだっていただき、ありがたい…)


 女王との会談も終わり、俺はシオの方に向き直った。

 じっとしていた【シオドアリ】の少女は、触覚をピクリと動かす。


 「シオ。短い間だが世話になった。お前のことは忘れないぞ。俺が王になった時、女王となったシオに会いにいくからな」

 

 本当は少し名残惜しいが、シオの蟻生を邪魔してはならない。


 (…いやです)

 「うん?」

 (しおはどみーさまと離れたくなりません!」

 「えええええ!?」

 「じょおうではなく、どみーさまのおんなとなります!」


 思いがけぬ告白であった。

 蟻と人間の恋なんて世界広しといえどないぞ!?


 (やめなさいしお!)

 流石に女王が割って入る。


 (どみーさまのおんなはわたしがなります!)

 そっち!?


 (ぐぬぬ…)

 (むむむ…)


 アリとはいえ女は女。

 俺という男を手に入れるため、互いに火花を散らす。

 俺はどうすればいいんだ!?


 (…といいたいところですが、じょおうであるわたしはすからはなれられませんね)

 

 睨み合いの末、先に女王が折れた。


 (しかししお、あなたもしゅぞくのかべはこえられません。こればかりは、どみーさまにもどうしようもできない)

 (しゅん…)


 シオもそれは分かっているようで、あからさまに元気がなくなった。


 成り行きとは言え、一度は生死をかけた戦いを共に乗り越えた仲である。

  

 なんとかしてあげたい気持ちが勝った。

 

 「こほん。シオよ、流石に夫婦となるのは難しいが、お前の移動力はすごく頼りになった」

 (ほんとうですか!?)

 「ああ。本音を言えば、お前を【ドミー軍】の仲間に迎えたいのだが…どうかな」

 (ぜひ!)

 

 シオは嬉しそうに頭を振る。

 だが、すぐに女王の方をちらりと見た。


 (じょおうさま…)

 (…しかたありませんね。ただし、さんねんだけです。さんねんごには、あなたがじょおうとなるじゅんびがととのいます。それまでにはかえってくるのですよ)

 (あ、ありがとうございます!!!)


 【シオドアリ】は、通常のアリと比べはるかに長命らしい。

 なんにせよ、これで決まった。

 

 「シオよ!それでは、お前を仲間とするにあたって特別な誓いを結びたい!」

 (はい!)

 



 「将軍ドミー!【シオドアリ】のシオを愛蟻とし、移動を共にすると誓う!」

 (【しおどあり】のしお!どみーさまのあいぎとしたかつやくし、いどうのたすけとなることをちかう!)




 「「この誓いは、何者にも破られることはない!!!」


 ムドーソ王国には馬のような移動に利用できる動物が存在しないため、シオの存在が俺の助けとなる。

 段差や急斜面など、馬が通れない場所も楽々通行可能だ。


 【シオドアリの巣】の次期女王として、人間と【シオドアリ】の礎にもなってくれるだろう。



 レムーハ記 人物伝より


 愛蟻シオ


 功臣序列第11位。レムーハ歴100年12月、巣の危機を救った王の臣下となる。

 王は「彼女がいなければ、俺は愛する人を救うことができなかった」と述懐し、彼女が女王となった後も交流を欠かさなかった。




 このようにして俺は【シオドアリ】をめぐる騒動を収拾し、【ランデルン・ホール】で目覚めたライナを出迎えるのであった。



==========



 ヴィースバーデンに帰還した【ドミー軍】は、年末ということもあり、この街で歳を越すことにした。


 久しぶりにまったりとした日常が…と思ったが、さまざまな変化に見舞われることになる。




 「ドミー将軍!お話があります」

 「ん?なんだ?」


 「このアマーリエ、ゼルマに結婚を申し込みます!」



 口火を切ったのは、アマーリエであった。

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