第192話 次世代を作るもの
【ドミー軍】はローブの暗殺者たちの襲撃を受けることもなく、滅びた街プレーンラインからヴィースバーデンに帰還した。
ムドーソ王国の前進エルーデ王国時代に整備された古い街並みを通過し、宿泊地としているホテル【フォンタナ】へと戻っていく。
すでに【シオドアリの巣】で起きた事件の頓末は広まっているらしく、多数の住民から出迎えを受けた。
「ランデルン地方を解放したドミー将軍万歳!」
「ヴィースバーデンにずっと留まってください!」
「うちのホテルにも宿泊しませんか?今なら宿泊費用は半額でいいですよ!」
「私たちの店にもぜひ寄ってきてください!おいしいソーセージが食べ放題です!」
「【シオドアリの巣】が観光地になると聞きました!つきましてはこのアリをモチーフにした民芸品をぜひ宣伝して…」
多くの人間に歓迎され、好意を持たれ、喜ばれる。
何度か体験したことだが、嬉しいことに違いはない。
ここに来た初日に街の住民をあらかた【支配】し従順にした、という点を差し置いてもだ。
(【支配】した分実益を与えれば、俺の行為は正当化される…というのは暴論だろうな)
他の人間には言えない想いを抱えつつ、ゆっくりと旧市街を移動していった。
「キュキュキュ…」
自分の足を利用して、ではない。
出会ったばかりの巨大生物に乗ってである。
黒い触角をぴょこぴょこさせながら、6本の脚を交互に動かして移動する【シオドアリ】、シオに乗ってからだ。
(ここがゔぃーすばーでんですか。よいところですね)
「これからもっと栄えていくぞ。人間と【シオドアリ】の間に協定が結ばれたからな…しかし良かったのかシオ。巣から離れて」
(かまいません。じょおうからはゆうよをもらいましたし、どみーさまをせなかにのせるのがしおのよろこびです!)
シオは気にも留めていないようである。
「やれやれ…ま、蟻を馬代わりにする英雄が1人ぐらいいてもいいか」
その姿を見て苦笑し、ライナが倒れてから現在に至るまでに起こったことを回想するのであった。
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「ライナ!?しっかりしろ!ライナ!」
「ライナ、どうしたのですか?目を開けてください!」
時間は、ライナが突然倒れた時までにさかのぼる。
当然ながら、俺とミズアは取り乱していた。
「ドミーさま、治癒を!」
「分かってる…ダメだ、変化がない」
「そんな!」
手で触れて治癒を試みるが、ライナの意識は戻らなかった。
絶望が俺の心を支配する。
「お前にもしものことがあったら、俺は…!」
そんな時、ナビに脳内で呼びかけられた。
(ご安心ください。ライナは無事です)
「本当か!?」
( 一時的に意識を失っているだけです)
「しかし、いつまで経っても目を覚まさないぞ」
(コンチさまとナビで責任を持ってお助けします。ひとまず、あなたは目の前の任務に集中してください)
「…分かった、信じる」
ナビとの会話を打ち切り、ミズアに任務を与えることにした。
「ミズア。【ドミー軍】数人とライナを安全なところまで運んでくれ。ナビによると、彼女は無事だそうだ」
「ナビが…分かりました。ライナはこのミズアが命に代えても」
「お前の命も大事だ。無理はするなよ」
「はい…!」
ライナを【ドミー軍】数人と慎重に抱え、ミズアは去っていく。
(すぐに向かうからな、ライナ…)
本当は俺も追いかけたかった。
だが、その前に果たすべきことがある。
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「【ゲトアリ】たちよ。命は取らぬゆえ、しばらくは【シオドアリ】の巣の一員となって復興を手伝え!一段落したら、他人の巣を乗っ取ろうするのはやめ、自ら巣を作って真面目に働くのだ!」
「「「ギュギュギュ…」」」
まず、【ゲトアリ】の集団を女王を含め【支配】し、今後の指針を命じた。
敵とは言え、【ゲトアリ】の習性に従っただけの彼らを殺傷するのは俺の好むところではない。
意気消沈した【ゲトアリ】たちは、渋々といった表情で従った。
傍らにいたシオは、それをじっと見つめている。
「すまないな、シオ。少し甘いかもしれない」
(いえ…まさかこのようなかたちでけっちゃくするとはおもいませんでした。どみーさまにしかできないことです)
「お前と俺が出会ったのも、運命かもしれないな」
(うんめいだなんて、そんな…)
【シオドアリ】の少女は恥ずかしそうに身をよじった。
「キュキュ!?ドミー将軍!発見された女王ですが、負傷しているようです。将軍のお力が必要でしょう」
【シオドアリ】と話していたアマーリエが報告を上げてくる。
すっかりアリ語?を使いこなしているようだ。
「…ただの負傷なら効果が見込める、か。急がねばな。頼むぞ、シオ!」
(はい!)
「【ドミー軍】各員はゼルマの指揮のもと、【ゲトアリ】の警護に当たれ!アマーリエは数人を率いて俺の後についてこい!」
「「「はっ!」」」
ライナを想いながらも、俺は自分の任務に集中した。
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【シオドアリの巣】の最上階に、女王はいた。
通常の【シオドアリ】より体格が大きく、シオとほぼ同サイズだ。
「キュ…」
【ゲトアリ】の女王の毒牙に傷つけられたせいか、赤い斑点が所々に浮かんでいる。
肩で呼吸をしており、今まで生きていられたのが不思議なほどだ。
シオから下馬、ならぬ下蟻し、女王の下に駆け寄る。
「じっとしてくれよ」
「…」
もはや見知らぬ俺を拒絶する気力もないようだ。
患部に素早く触れ、傷をいやす。
「キュ…?キュ…♡」
そのまま【支配】まで持ち込んだ。
でないと、【ゲトアリ】が報復の対象となってしまう。
その代わりと言ってはなんだが、彼女に新たな生命を与えた。
信じられないといった表情を浮かべる女王だったが、やがて俺およびシオと精神感応を開始する。
(あなたは、にんげんですか?それに…)
(じょおうさま!たすかってよかったです。こちらのひとはいのちのおんじんどみーです。わたしは、どみーさまにしおというなまえをつけられました)
(そうですか…)
【シオドアリ】の女王は、意外な言葉を口に、いや、心にした。
(やはり、あなたをじだいのじょおうとしたのはただしいはんだんでしたね。しお)
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