第190話 戦いは終わり、新たな段階へと進む

 「キュ…!」

 「キュキュキュ!」

 「ギュギュッ!?」

 「ギュギュギュ~~~…」

 

 俺が編成した【ドミーアリ軍団】は、【ゲトアリ】の幼体と激しい戦いを繰り広げていた。

 互いに牙を突き合わせ、致命の一撃を食らわせようとする。


 (ほぼ互角だな…)


 後方で待機しながら、俺は戦況を分析する。


 【ドミーアリ軍団】の中核をなす【シオドアリ】のオスはひ弱だが、【ゲトアリ】の幼体には負けていない。

 【ゲトアリ】陣営は約50匹、【ドミーアリ軍団】も約50匹と数も同じ。


 巣の危機を救わんとする【ドミーアリ軍団】は士気面で勝っている。

 毒の牙を持つ【ゲトアリ】陣営は戦闘力でやや勝っている。




 その均衡を覆すのが、俺とシオであった。


 「いくぞシオ!」

 (はい!)


 体格で勝る【シオドアリ】のメスが、地面を踏み荒らしつつ突撃を開始する。

 強靭な外骨格を持つ【ゲトアリ】の幼体が、続々と蹴散らされていった。


 「隙ありっ!」

 「ギュッ!?ギュウ…♡」

 「ほあああ!」

 「ギュギュ…♡」

 「どりゃどりゃあああ!」

 「ギュ~~~♡♡♡」

 

 もちろん、バランスを崩した個体を一匹ずつ【支配】するためである。


 「お前たち、早速だが同胞たちを取り押さえろ!案ずるな、殺しはしない!」

 「「「ギュ…ギュギュッ!」」」


 続々と【ゲトアリ】の幼体は寝返り、【ドミーアリ軍団】はその数を増やしていった。

 1匹寝返るごとに、戦力差は2匹分広がることになる。

 俺とシオに対する対抗策を持たない【ゲトアリ】陣営が不利になるのに、さほど時間はかからなかった。

 

 「ギュ、ギュギッ!」

 

 隊長格らしき幼体が悲鳴のような声を上げるとー、


 「ギュギュ~~~ギュギュ~~~!!!」


 やがて残った幼体全体が退却を開始する。

 さしずめ「女王様~~~!」といった所か。


 「ようし、敵は崩れた!怪我人…ならぬ怪我アリはその場で待機!」

 

 数匹の負傷者のみで、【ドミーアリ軍団】は勝利を収めた。


 (さて、この後をどうするか…いや、それを考える必要はなさそうか)


 後方と前方から、気配を感じる。

 アリではなく人間の気配だ。


 「ドミー将軍。お助けに上がりましたぞ!…ってあれ。もう終わっているぞゼルマ」

 「あたしはとっくに確認済みよ」

 「「「さすがは将軍!」」」


 後方からはアマーリエ率いる【ドミー軍】新参約200人。

 

 「ドミー!」

 「ドミーさま!ご無事で!」

 「「「ドミー将軍、補佐官2人の指揮の下役目は果たしました」」」


 前方からはライナとミズア率いる【ドミー軍】古残約50人。


 「「「ギュウ…」」」

 …ついでに居心地悪そうな【ゲトアリ】の成体と幼体20匹程度。

 幼体はさきほど遁走した個体も混じっている。


 ぐうの音も出ないならぬ、と言ったところか。 

 半ば偶然だが、俺と【ドミーアリ軍団】が幼体の大半を引き付けていたため、スムーズに制圧できたらしい。



 とにかく、戦いは終わった。

 1つの謎を残して。

 


==========



 「…なるほど、ローブの暗殺者は2人いたと。そして狙いはライナだったか」

 「うん。なんとか撃退したけど、あれはかなりの使い手だよ」

 「ライナがいなければ、こうして3人再会することもありませんでした…」


 ライナとミズアの報告から、大体の事情は分かった。

 正体そのものは不明だが、敵の戦力をある程度把握できたのは収穫だ。


 「それはいいんだが…2人ともあんまり抱きつかれると恥ずかしいぞ。兵が見ている」

 「だって…ドミーと離れ離れになった時すごく怖かった」

 「ドミーさまと再会できて、ミズアは幸せです」

 

 ライナは俺の胸に埋まり、ミズアは俺の背中に抱きついている。

 こういう所はなんだかんだ変わっていないが、今だけは大目に見てやろう。

 俺も、無事に合流できてほっとしている。


 「キュキュキュ!」


 その時、アマーリエの背後に【シオドアリ】のメスが一匹現れた。


 「そうかご苦労!ドミー将軍。女王を捜索していた者たちから報告がありました。負傷していた女王が上層の一室で発見されたようです」

 「…いや、今ので分かるのか?」

 「先ほどから幾度か会話していますゆえ」

 「そ、そうか。新たな才能に目覚めたのだな」

 「ゼルマにも習得させます!」

 「いやいらないから!」


 アマーリエとゼルマはいつも通り息ぴったりだ。

 ただ、ゼルマの顔がなんとなく赤い気がする…


 「よおし!反省会は後で行うとして、勝どきを上げるぞ!」

 「うん!」

 「わかりました!」


 ライナとミズアをいったん離し、兵士たちに呼びかけた。


 「ザマーーーーー!」

 「「「ザマーーーーー!!!」」」 

 「ザマーーーーー!」

 「「「ザマーーーーー!!!」」」

 「ザマーーーーー!」

 「「「ザマーーーーー!!!」」」

 

 「「「キュキューーーー!!!」」」

 

 【シオドアリ】たちも見よう見まねで声を上げる。

 幸い、どの陣営にも目立った死傷者が出なかったのは幸いだった。

 例え人間でなくても、生きとし生けるものが死ぬのを楽しむ人間はいない。


 あの暗殺者たち以外は。


 「それでは後始末だ!とりあえず【ゲトアリ】の残りの連中をー」




 「ライナ!どうしたのですか!ライナ!」

 一瞬の安堵を覆す、ミズアの悲鳴。


 「う…」

 ライナが倒れこんでいた。

 お腹のあたりを抑え、痛みに顔を歪めている。




 太ももをつたって、鮮血が流れ出していた。

 

  

==========



 「ま、これでも少しは動きやすくなるだろう。あやつをさらうのは、呪いが完成してからでいい」

 「…本当にやるのだな」

 「当然だろおおお!?マトタよ、お前も少しは協力しろ!」




 「主の願いを叶えるためにな!!!」

 

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