第186話 時間の制約

 「一度地上に出るぞ、シオ!アマーリエと合流して、ライナたちを助け出す!」

 (わかりました!)


 俺は【シオドアリ】の少女の背につかまりながら、巣の出口を目指した。

 確証はないが、おそらくライナとミズア含む【ドミー軍】は無事だ。

 スキルで繋がった者同士、互いの状況はおぼろげながら分かる。

 崩落した巣をかき分けて救出するには、人手が必要だ。


 「しかし、このまま背にしがみつくのは格好悪いな…」


 少し慣れてきたので、騎乗するように半身を起こしてみる。

 その途端、ぐらりと体が揺れる。


 「うわっ!足を固定する鐙(あぶみ)がないとやはりバランスが…ええい!男としてやってみせるっ!」


 脚でシオの胴体をしっかりと挟み、なんとか制御を保つことに成功した。

 

 (ど、どみーさま…締め付けが強いです♡)

 「ん?嫌か?」

 (そのままでおねがいしますっ♡)

 「その意気だ!どんどん行くぞ!」


 そのまま巣の中を前進していく俺とシオだったが、やがて足が止まる。


 「ちっ、ここも崩落か…」


 前が土砂で埋まっていたのだ。

 ほかに代替できるルートもない。

 

 「シオ、ここから土を掘り進めて出口まで行けるか?」


 (行けなくはありませんが、かなり時間がかかります)


 「まずいな、もうじき30分になる」


 俺の【強化】が終了する時間が迫っている。

 終了したからすぐやられるほどヤワではないが、想定外の事態が発生しないとは言い切れない。

 特に、【疎外の呪い】を掛けられたライナは。


 (やはり、【ゲトアリ】の成体を先に倒して女王を捜索するしかないか…?)


 問題はどう倒すかだ。

 さっきのように幼体1匹を【支配】するのは簡単だが、大勢で襲い掛かられるのはまずい。

 シオの負傷は俺が治癒できるが、俺が負傷すればアウトだ。

 【ゲトアリ】の牙には毒があるというし、かすり傷でも致命傷となるかもしれない。

 成体は幼体より強力な戦闘力を有しているだろうし、危険が大きい。

 

 「…ュ」


 遠くでかすかな金切り声が聞こえてくる。

 その声はどんどん大きくなり、こちらに向かってくるようだ。

 恐らく【ゲトアリ】の群れ。


 「…時間稼ぎは長続きしなかったか。シオ、お前は地面を掘り進めてアマーリエたちに合流しろ。俺は戻って【ゲトアリ】を食い止める」

 

 (それではどみーさまがー)

 「それしか手はなさそうだ。安心しろ、簡単にやられるつもりはない。だから頼む」

 (…わかりました。どうかぶじで!)


 シオが穴を掘り始める。

 俺は、シオからできるだけ遠い位置で敵を迎え撃つために走る。


 やがて、数十匹分の黒い塊がこちらに向けて移動するのが見えた。

 立ち止まり、両腕を広げて大声を上げる。


 「さあ来い!俺はこの大陸を制することになる男、ドミー!不用意に近づく奴はたちまちビクンビ〇ン…ん?」


 すぐそこまで近づいてきた黒い塊に違和感を覚えた。

 小さいが、【ゲトアリ】の幼体ではない。


 「キュ…」

 「キュキュ…?」

 「キュ~…」


 【シオドアリ】のメスと姿形は似ているが、それより小さく弱弱しい個体。


 「もしかしてー」

 俺は潜入の途中で目撃していた存在に声を掛ける。




 「【シオドアリ】のオスか?」

 


==========



 「で、お前はどうやってあの槍使いを甚振りたいのだ?マトタよ。腹に【和刀】でも突き立てるか?」

 「お前と一緒にするなジーグルーン。いや、アードルフ」

 「その名で呼ぶなと言ってるだろおおおん?次言ったら消し炭にしてくれるぞ!!!」

 「やってみるがいい。とにかく、それがしはあの槍使いと斬りあいがしたいだけだ」

 「ふん…じゃあ、我はあの小娘の金髪を燃やしてしまいたいのお。さぞかし、良い声で泣くだろうて」


 【和刀】を持ったマトタ。

 【魔術書】を持ったジーグルーン。いや、アードルフ?


 2人ともローブを被っていて、姿形は良く見えない。

 でも、私は1つ気付いたことがあった。


 「あなたたち…もしかして男性?」

 「ほお。流石に気づくか」 

 「ジーグルーンは女性名だけどアードルフは聞いたことが無い。多分、男性に使う名前ー」

 「…そのアードルフという名前をもう一度叫べば殺す」


 アードルフは凄んだ。

 【魔術書】のページを再びめくり、叫ぶ。


 「【ファイア・バースト】!」


 私のスキルと同じだが、火炎球の数がより多い。


 「我は呪いを用いるのが本分じゃが、このように【魔法系】スキルも簡単に扱える。お前のような小娘よりもな。ぬはははは!」


 アードルフには、ドミーのような暖かさはなかった。

 ローブで表情は良く見えなかったけど、おそらくニタニタと笑っているのだろう。


 「…ミズア」

 「…ええ」


 私とミズアは、再び戦闘態勢を整える。

 

 この2人が私たちより優れた使い手だとしても、ここで負けるわけにはいかない。



==========



 でも、1つ忘れていたことがあった。

 私とミズアには、があることを。


 「…そんな」


 それに気づき、私は足を止める。

 ミズアも、はっとしたような表情を浮かべた。


 「やれやれ、つまらんな」

 「うん?どうした、マトタ」

 「力の気配が消えた」


 マトタは【和刀】を鞘に戻した。



 「この女2人、力が弱まっている。恐らく【強化】とやらの効果が切れた」



==========


 

 次回予告 第187話 単独と連携


 「もう少し、あのマトタとかいう男と歩調を合わせるべきだったわね」

 コンビネーションの差が勝敗を分けます。


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