第185話 2人の敵

 「兵士たちよ!来るぞ!」

 「「「はっ!」」」


 【シオドアリの巣】の入り口付近で、私は【ドミー軍】250名を率いている。

 ドミー将軍率いる突入部隊が安全に【ゲトアリ】の成体を無力化できるよう、【シオドアリ】をおびき出して引き付けるのが任務だ。


 250名で整列し、数百匹の大軍を迎え撃つ。


 「キュキュッ!」

 「キュ~~~!」

 「キュ…!」


 巣から大挙して現れ、侵入者を排除せんと襲い掛かる【シオドアリ】。

 狭い入り口を抜け広い地上へ出ようとする姿を確認した後、スキルを発動した。


 「【ウォール・アドバンス】!」


 巣の入口を封鎖するため現れる、5枚の盾。

 直前で発動するとオーク騎兵隊のように玉突き事故を起こすため、距離に余裕をもって出現させる。


 【シオドアリ】は突如出現した盾をいぶかしながらも、少しスピードを落として突撃していく。


 (普通の固い盾でも防げるが、それでは【シオドアリ】の負傷は免れない)


 なのでー、




 衝撃を吸収して弾き返せるよう、弾力性を持たせた。


 「キュキュキュッ!?」

 「キュ?」

 「キュ~?」

 

 困惑と疑問。


 【シオドアリ】は鳴き声をあげ大挙して壁を破ろうとするが、ぶよぶよと柔らかい盾の前に、突撃も牙も通じない。

 次々と弾き返され、盾の前で立ち往生する。


 高度な知能と社会性を持っている(ドミー将軍の解説によると)ため、すぐに壁を破れないと気付いた【シオドアリ】の群れは停止。


 「「「キュ~~~…」」」

 対策を相談しているようだが、良い案は出ないようだった。



 作戦成功。

 

 (ドミー将軍なら短時間で目標を達成するだろう)


 首尾よくことが進んで安堵したときー、




 大地が揺れた。


 

==========



 「アマーリエ!巣の一部が崩落した!かなりの規模!」


 数分続いた大地の揺れが収まったころ、内部に突入した【ドミー軍】を監視していたゼルマから報告が入る。

 声の調子からすると、切羽詰まった状況らしい。


 「なに!ドミー将軍は無事なのか?」

 「分からない!鳥が巻き込まれて壊れちゃった!もう一度生成する!」

 「頼む!」


 まずい状況になった。

 助けに行くには巣に突入する必要があるが、入り口を塞いでいるのは私自身のスキル。

 

 「このままでは内部の者たちが危険です!」

 「アマーリエさま、ドミー将軍を救援に行きましょう!」


 【ドミー軍】の面々も進言するが、【ウォール・アドバンス】を解除すれば【シオドアリ】が襲い掛かってくるだろう。


 (…付け焼き刃だが、やってみるしかないか)


 ードミー将軍。念のための策、というより個人的な好奇心なのですが…

 ーん?

 ーシオに教えていただきたいことがありまして。

 ー何をだ?

 ーそれは…


 「【ウォール・アドバンス】解除!」


 入り口を封鎖していた盾を解除する。


 「「「キュキュキュキュキュ!!!」」」


 当然【シオドアリ】が突撃してくる。


 黒い津波が迫る中、私は叫んだ。




 「キュキュキュ!キュキュキュキュ!」


 『止まれ、味方だ!』と言う意味…らしい。




 ー【シオドアリ】の言葉です。

 

 ドミー将軍一行を救うため、私は【シオドアリ】と交渉を試みた。



==========



 「ドミーは、あんたみたいな小物にやられはしないわよ」


 【ルビーの杖】を、ローブの暗殺者に向けた。

  

 「…腕の一本ぐらいはもぎ取っても構わんか」


 どうやらプライドを傷つけられたらしい。 

 ローブの暗殺者は虚空に手を伸ばすと、【魔術書】がどこからともなく現れた。


 「ライナ」

 「ええ」


 ミズアが【竜槍】を携えて前に出る。


 一瞬静寂が流れた後ー、


 「【ファイア・バースト】!!!」

 「【刺突】!!!」


 私たちはローブの暗殺者を仕留めにかかった。

 数十もの火炎球による援護のもと、ミズアが槍を構えて突進する。

 エンハイムで襲われたときはできなかった、2人による同時攻撃。


 「【魔術防壁】!」

 

 ローブの暗殺者は【魔術書】のページをめくり、スキル名を叫んだ。

 【魔法系】スキルに対し強力な防御効果を発揮する防壁。


 「ははは!【魔法系】スキルの扱いで我に叶うと思うなよ!」

 

 光の渦が数十個現れ、私の火炎の前に立ちふさがる。

 火は渦に吸い込まれ、たちまち消え失せた。


 でも、攻め手はもう一つある。


 「覚悟っ!!!」


 ミズアが突進し、ローブの暗殺者に対し必殺の一撃を仕掛ける。

 【魔術防壁】に物理防御はないため、光の渦を難なく通り抜けた。


 これならー




 「ジーグルーン、それがしはこの槍使いをいただきたい」


 聞いたことが無い声。

 ミズアとローブの暗殺者の間に、新たな人物が現れる。


 手に握るはー、




 東の国の戦士が使う特殊な剣、【和刀】。

 それを瞬時に抜き、ミズアに襲い掛かる。


 「…!」


 ミズアはそれを辛くも防ぎ、後退した。

 

 「ふん、マトタの輩は相変わらず野蛮な斬りあいが好きだな」

 「貴様も少しは体を動かすことを考えたほうがよいぞ。斬り合いはいい…」


 2人の人物の声には余裕すら見られる。




 ローブの暗殺者は、2人いた。


 



  

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