第181話 【ドミー軍】、ぬるぬるとなって【シオドアリの巣】に向かう

 (ここです)


 プレーンラインを出発してから数時間後。

 案内役のシオに導かれ、【ドミー軍】は【シオドアリの巣】の周辺に到着する。

 後方待機で50名を残したため、総勢250名だ。



 【シオドアリの巣】は、天高くそびえる巨大な土の塔であった。


 【シオドアリ】が地中で活動するため掘り進めた土を粘液で固め、ひたすら積み上げたものらしい。

 いわゆるアリ塚と呼ばれるものだが、【シオドアリ】の巨大さも相まって、天高く登らんとする勢いである。

 よく見ると大小無数の穴が開いており、そこから多数の【シオドアリ】が顔を覗かせていた。


 (あのあなは、なかのおんどやしつどをたもつこうかももっています。なので、なかはかいてきです)


 シオは自慢そうに語る。


 「なかなか高度なんだな…しかし、【シオドアリ】の中で地上に巣を作っているのはここだけだそうじゃないか」

 (そうです。ほんらいはちちゅうのなかにすをつくります。ですが、すうねんまえにちじょうのあかりをしりました)


 話をまとめるとこのようになる。


 本来ほとんど明かりのない【常闇の世界】で過ごす【シオドアリ】は、狩りも地中で行うため、地上の世界を知ることはほとんどなかった。

 シオの一族もその例に漏れず、地中で生活を送っていたらしい。


 だが、丁度ランデルン一族が滅んだ【満月の謎】が発生した夜、巣の天井に謎の大穴が空き、地上世界の存在を知った。


 光ある世界に憧れを持った女王は天空に伸びるアリ塚の建設を開始し、現在に至るのだそうだ。


 「この騒動がひと段落したら、ムドーソ王国の新たな観光地にできそうだな…ゼルマ、中の様子はどうか?」


 聖職者の服装をした家臣に呼びかける。


 鳥(スキルが生み出した人工物)の目から見た風景を映し出すスキル【サイト・ビヨンド・:サイト】を用いる【天網のゼルマ】だ。

 映し出した風景を、自動的に地図にすることもできる。


 「うーん…巣の構造は把握したけど、女王や【ゲトアリ】がいる場所は分からないわねー。とりあえず地図にしておくー」


 ゼルマが映し出した風景を見てみた。


 ーうごめく【シオドアリ】。

 ー土でできた細い通路の壁。

 ー餌置き場なのだろうか、巨大な昆虫の死骸が積み上げられている空間。


 断片的な情報は得られるが、決定的なものはなさそうだ。


 (じょおうのいばしょはわかりませんが…【げとあり】はおうしつにいるはずです)

 「王室?」

 (ほんらいじょおうがいるはずのへやです)


 シオは頭に生えた触角で、ゼルマの作り出した地図を指さした。

 多数の通路で連結された部屋が数十存在する【シオドアリの巣】のほぼ中央。

 ほかの部屋より2倍ほどのスペースを持つ部屋だ。


 (ここでじょおうになりすまし、めいれいをだしているとおもわれます)


 「よし!ではまず【ゲトアリ】を退治するとしよう。女王はそのあとでゆっくり探せばいい」


 背後に控える【ドミー軍】に命じる。


 「各員、ぬるぬるになる準備をしろっ!」

 「「「はっ!!!」」」


 それぞれ懐からシオの粘液を保存した瓶を取り出す。

 現地で一々シオに出してもらうのは効率が悪いので、事前に300人分出してもらった。

 …最後の方はちょっと薄くなっている気がするが、まあ問題ないだろう。


 その粘液をー


 「んっ…服がべたべたになるのはもう仕方ないわね」

 「ちょっとお!変な所触らないでよお!」

 「いいじゃない、減るもんじゃないし♡」

 「お前たち、これは任務だぞー」

 「エディト隙あり!」

 「ちょっとヘルガ!?この任務が済んだら覚えていなさいよ…」


 古残新参の区別なく、ある者は自分で塗り、ある者は他人に塗ってもらい、ぬるぬるとなっていった。


 服が粘液によって張り付き、体のラインが浮き上がる。

 未知なる感覚に顔を赤くし、謎の羞恥心に苛まれる。

 互いの姿を見て興奮し、粘液を塗る手に力が入っていく。


 妙齢の女性300人が織りなす饗宴。


 「ドミー!私にも塗ってよ!」


 ライナがこちらに近寄り、瓶を差し出した。

 いたずらっぽい笑みを浮かべている。


 了承し服に塗っていく。

 が、恐らくライナが期待したであろう部分には触らなかった。


 「…せっかく美少女が体を委ねてるんだから、もう少し大胆に塗ってもいいんじゃない?」

 「そういうのはー」

 「ひゃっ」


 耳を少し触る。


 「任務が終わってから。心配するな、俺はいつまでもライナにリードされる男じゃない」

 「…期待していい?」

 「もちろん」

 「じゃあ、待ってるね」


 ライナは一度目を閉じー、


 「行きましょうか」


 少女から戦士の目になった。



==========



 準備を終えた【ドミー軍】300人は、シオを先頭として【シオドアリの巣】に接近する。


 巨大なアリ塚の入り口の手前まで来ると、【シオドアリ】の1匹が顔を出した。


 「キュキュキュ…」

 こちらの様子をうかがっていたが、粘液の匂いが自分と同じであると気づいたのか、すぐに引っ込める。


 「上手くいきそうだな」

 (めがあまりよくないので、においでなかまをはんべつしています)


 擬態は成功しているようだった。


 「アマーリエ、頼んだぞ」

 「将軍もお気をつけて」


 ここで、【ドミー軍】は2手に分かれる。

 俺が率いる古残を中心とした50名と、アマーリエが率いる新参を中心とした200名。


 巣に直接突入するのは、俺が率いる50名が担った。 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る