第180話 ライナ、【アーテーの剣】を弔う
プレーンラインからほど近い街道上に、かつてのムドーソ王国Bランク冒険団【アーテーの剣】の遺体17体は放置されていた。
深夜に発見した【ドミー軍】からの報告によると、まるで獣が捨てていったかのように無造作に捨てられていたらしい。
ただし、遺体に付けられていた傷は明らかにスキルによるものである。
傷は2種類存在した。
1つ目は、斬撃。
かつてのリーダーエリアルを初めとして、7人が斬撃による致命傷を負わされていた。
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報告を受けた俺が現場に到着したのは、朝になってからだった。
遺体は【ドミー軍】によって1つに固められ、見分が行われている。
数時間後には埋葬される予定だ。
「皆、腕を切られている…」
俺と共に現場へ赴いたライナは、斬撃を受けた遺体を目にしてつぶやく。
致命傷を負わされた箇所は違っても、腕に傷を負っているのは同じだ。
「いわゆる【防御創】という奴だな」
「【防御創】?」
「ああ。人間は刃物で襲われたとき、とっさに腕で自分の体を庇おうとする。生物に備わった防衛本能だ」
「…」
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない。なんでもないの」
ライナは、並べられた遺体の内の1体に歩み寄った。
自らを迫害したエリアルである。
表情は恐怖に満ちており、目が大きく見開かれていた。
その目をライナはそっと閉じ、頬に手を添える。
「あんたは嫌な奴だったわ。でも、こんな死に方をするほど、悪い人間ではなかったはずよ…」
「だが、【奇跡の森】でお前を殺そうとしたのも事実だ」
「ええ。それでもよ…」
ライナはエリアルの頬に手を添えている。
少し、背中が震えていた。
その背中に手を添えることしか、俺にはできなかった。
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2つ目の傷は、魔法。
火で炭化するまで焼かれた遺体。
全身が凍り付いた遺体。
毒を浴びたのか紫色に膨れ上がった遺体。
ありとあらゆる魔法を行使され、無残な状態となっている。
「恐らく、ミズアたちを襲撃したローブを着た暗殺者でしょう。あの者も、ありとあらゆる【魔法系】スキルを行使しておりました」
魔法スキルによる遺体を確認していたミズアが、そばにやってきた。
「何のためだと思う?」
「恐らく…」
【竜槍】を握る手に力がこもる。
「楽しんで人を殺すため。でなければ、複数のスキルを行使する必要などありません。あの時、ミズアが討ち取っていれば…」
「ミズアが責任を感じる必要はない。いずれ、あいつにはこの罪を償わせる」
「次は必ず…しかし、解せない点があります」
「なんだ?」
「まったく別系統のスキルを、どうやって操っているのでしょうか」
俺も疑問になっている点であった。
この世界にはさまざなスキルが存在しているが、大きく分けると【近接系】、【魔法系】、【憑依系】、【支援系】の4種類に分けられる。
基本はこの中で1種類のスキルを取得して極めていくことになるのだが、ローブの暗殺者は【近接系】と【魔法系】の2つを使いこなしているようだ。
それも、両方Aランククラスまで。
「分からないな。ただ1つだけ言えることがある」
「それは…?」
「人智を越えた力を発揮するとしたら、それなりの代償を支払っているはずだ。神の助けを借りているのでないとしたら」
その時、とある人物が目の前を歩いているのが見えた。
イラートである。
遺体の1体1体に寄り添い、悲しみの表情を浮かべている。
その振舞いに、おかしな所はみられなかった。
少なくとも表面上は。
「ドミーさま」
ミズアがぽつりとつぶやく。
「分かっている。だが疑わしきは罰せずだ」
イラートの頭上を、1体の鳥が飛んでいた。
一見本物の鳥のようだが、よく見るとその瞳に光はない。
「念のため、監視は強化する」
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「【アーテーの剣】の方には、お世話になりました…僕はあまり恩を返せませんでしたけど」
埋葬が終わった後、イラートに会いに行った。
イラートは【ドミー軍】のほとんどのメンバーと共に、プレーンラインでひときわ大きな屋敷に宿泊している。
この一帯の領主だったランデルン一族が住んでいた【ランデルン・ホール】だ。
「いよいよ明日初陣だな…」
「武者震いがするねえ!」
「あんまり張り切っていると怪我するわよ」
ホールでは明日の出撃を控えた新兵たちが思い思いの時を過ごしているが、イラートはその輪には入らない。
「優しいのね、イラートは。私は、そこまで彼女たちを許せない」
「ライナ先輩…」
「でも、ローブの暗殺者には、必ず報いを受けさせるわ…」
「僕もそのお手伝いをします」
「ありがとう…この話はそれぐらいにしましょうか!今日は、久々にイラートと話をしたいと思って」
「いいですねえ…【ドミー軍】の今の雰囲気は、【アーテーの剣】に入ったばかりの頃を思い出します」
「そうねえ。あの時は、みんな仲が良かったわ…」
自分の果たすべき使命。
【シオドアリ】の女王を救う任務。
ローブの暗殺者。
旧友と話している間だけ、重苦しい雰囲気を忘れた。
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「では行くぞ諸君!シオの一族の命運を左右する戦いに勝利し、歴史に名を残そう!!!」
翌日、【ドミー軍】は再編を終え、プレーンラインから出発していく。
シオの案内のもと、【シオドアリ】の巣に通じる入口へと向かう。
300名まで増えた【ドミー軍】初の実戦が始まった。
イラートは、後方待機となった。
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次回予告 新第181話 【ドミー軍】、ぬるぬるとなって【シオドアリの巣】に向かう
「【シオドアリの巣】は、天高くそびえる巨大な土の塔であった」
巨大な建造物には、誰もが惹かれます。
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