第179話 【ドミー軍】、ランデルン地方へと旅立つ

 私とミズアはドミーの【因子】の採集に成功した。

 小さいけど、着実な一歩。

 今後も段階を踏んでいこう。


 世界を救うため。


 いや…


 ドミーを男にするために。



==========



 彼女は汚れた。 

 自分の意思で。


 それが、何よりも耐え難い。



==========



 「ぶくぶくぶく…」

 【ゲオルギーネの湯】で、私は顔まで水中に浸かっていた。

 何故かは言うまでもない。


 (ダメだ。思い返すだけで恥ずかしくなってくる)


 羞恥心にもだえそうになりながら、時を過ごした。

 

 ーお、おはよう。良い朝だね!

 ーああ。

 ードミーさま、昨日の夜は申し訳ありませんでした。

 ーいや、ミズアが悪いだけではないさ。

 ー… 

 ー…

 ー…お風呂行ってくるね!ミズアも行こっ!

 ーいえ、ミズアはこのままドミーさまのー

 ーそれはダメだから色々と!!!早くこっちに来るっ!

 ー…しゅん、です。


 ぎくしゃくした雰囲気は、しばらく続きそうだ。

 

 「ライナ。そろそろ出ませんと…」


 隣でお湯につかっていたミズアが立ち上がった。

 相変わらず綺麗で、女性らしく美しい体をしている。

 肢体に貼りついた水滴が朝日に照らされ、いつもより輝いて見えた。


 「え、ええ」

 私も立ち上がろうとするのだが、何故か体に力が入らない。

 むしろ湯の中に沈んでしまいそうだ。


 「大丈夫ですか?つかまってください」

 ミズアの右手が、私の手を掴んで引き起こす。

 【竜槍】の使い手らしく、しなやかで力強い手だった。


 私はミズアの力を借りて立ち上がり、一糸まとわぬ姿の彼女と対面する。


 「…ねえ」

 「はい。どうしましたか?」

 「私だけ、良いのかな。ミズアと私は、同格なのに…」

 「…」

 「昨日もミズアの力を借りなかったら最後まで出来なかったし。情けないね。私」

 「そんなことありませんよ」


 ミズアはほほ笑んでいる。

 

 「ミズアは、ライナの背中を押しただけです。ミズア1人では、ドミーさまのおそばにたどり着くこともできませんでした。もっと自信を持ってください」

 「そう、かな」

 「それにー」

 「あ…」


 不意に抱きしめられる。

 ドミーと同じぐらい暖かく、そして柔らかい。


 「ミズアはドミーさまと同じぐらい、ライナを大切に思っています。ドミーさまもそう思っているはず。順番や序列を気にするなど、ライナらしくありません」

 「ミズア…」

 「だから乗り越えましょう、2人で」

 「…うん」


 私の甘えをミズアは優しく包み込んでくれた。

 そのまま、2人でしばらく抱き合った。



==========



 「さあ、整列しろ!」

 「各自食料は5日分だ!途中でつまみ食いしても補充は効かないからな!」 

 「出撃だあああ!」

 ホテル【フォンタナ】から出た【ドミー軍】は、出撃準備を整えている。

 もう少しでドミーの演説が始まり、ランデルン地方へと向かうのだ。


 演説を行おうと待機していたドミーだったが、私の姿を見ると歩み寄る。

 

 「昨日は、その、すまなかった」

 「私が勝手にやったことよ、気にしないで」

 「それが申し訳ないと、そう思ってる」

 「ふふーん、じゃあドミーの方から私をビクンビ〇ンさせてくれるんだ?」

 「ああ!」

 「言いきっちゃった!?」

 「…ライナの覚悟に、俺も報いたいから」

 

 ドミーは、いつの間にか顔を赤くしていた。

 こんなに赤くするのを見るのは、初めてかもしれない。


 「うん。待ってるね」


 ライナとドミー。

  

 自分のことを想っている人が2人もいるなんて、私は幸せ者だな。

 

 


…いや、きっともう1人いる。

 そのもう1人と、私はまだきちんと向き合っていない。



==========


 

 「何もない田舎ですけど、綺麗ですね~ランデルン地方は。ね、先輩」

 「そうねぇ。【シオドアリ】と友好関係が結べれば、人も増えると思うわ」


 ランデルン地方は、多くの淡水湖が存在する風光明媚な地方だった。

 すでに2日経過しているが、モンスターが現れる気配はない。

 【ドミー軍】は順調に行軍している。


 私は、イラートと共に行軍していた。

 黒の短髪と小ぶりな戦斧が特徴の戦士。

 自分を先輩と慕う、かつて行動を共にした仲間。


 おそらく、私を好いている人。


 「あれは…街かしら」

 前方に、ぼろぼろになった建物が複数見えてくる。

 「…確かプレーンラインという名前だったはずです」

 「くわしいのね」

 「あの看板に書いてありました。うっすらですけど」

 確かに、街の入口に小さな看板が立っていた。

 ただ、かなりの距離があり、肉眼では見えない。


 「生命力と引き換えに肉体を強化する【ストレングス】だっけ。あんまり乱用しちゃだめよ」

 「分かってますって」

 「…ねえイラート」

 「なんです?」


 「この任務が終わったら、あなたに伝えたいことがあるの」

 「…奇遇ですね、僕もです。お互いに伝え合いましょう」

 「分かったわ」


 その後、私とイラートとの間に、会話はなかった。



==========



 プレーンラインに到着した【ドミー軍】は、周囲を探索中にとあるものを発見する。




 それは、行方不明となっていた【アーテーの剣】の遺体だった。





 

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