第182話 ローブの暗殺者、ぼやく

「行くぞ」


 アマーリエ率いる250名を【シオドアリの巣】の入口に残し、俺が率いる50名は突入を開始する。

 

 ー先頭は道案内を行う【シオドアリ】の少女シオ。

 ーシオの後ろに俺、ライナ、ミズアの3名。

 ーその後方に【ドミー軍】の残り47名。


 薄暗い土の坑道を進んでいくと、この巣の住人が大量に姿を現した。


 「キュキュキュ…」

 「キュッ!」

 「キュ~…」

 「キュキュキュキュキュ?」

 「キュキュキュ!」

 

 【シオドアリ】である。

 体色が黒なのも相まってぼんやりとした見えないが、その立ち振る舞いは興味深い。

 

 ー掘り進めた土や仕留めた昆虫を運ぶ者。

 ー個体同士触角をこすり合わせる者。

 ー子供らしい小さな【シオドアリ】に餌を与える者。


 人間の数倍の体格を持つ巨大アリが、様々な蟻生を繰り広げていた。

 こんな任務の途中でなければ、巣の至る所を探検したいところである。


 「キュ?」

 「キュキュキュ」

 「キュキュッ!」


 さすがに何匹かは俺たち【ドミー軍】に不信感を抱いたようだが、シオに言いくるめられたらしく、すぐに去っていく。


 「しかし、みなシオより体格が小さいな…」

 ほとんどがシオの半分ほどのサイズであった。

 えさの量でも違うのだろうか。

 「キュキュ!」


 俺の疑問にシオが応える。

 (なぜかわかりませんが、みなしおよりちいさいです。うまれたときからそうでした)

 「ふーん…お?あの個体はもっと小さいぞ。何匹もいる…というかこっちにやってくるぞ」


 途中の道で、通常の【シオドアリ】よりさらに小さなサイズの個体が群れを成していた。

 その数数十匹。


 「キュ…」

 

 何匹かがシオに寄ってくるがー


 「キュッ!」

 「キュウ…」


 巨体を持つ少女に軽くあしらわれ、退散した。

 

 (あれはおすです。いつもはすうひきしないないのですが、さいきんすうじゅっぴきまでふえています。しおをみると…みんなよってきます)

 「シオが魅力的なのだろう。なんせ【魅惑】の個性を持っているからな。ははははは!」

 (もう…どみーさまったら)

 


==========



 「ねえミズア。ドミーはシオと何を話してるんでしょうね」

 「恐らく、作戦について真面目な話をしているものかと」

 「【魅惑】がどーたら言ってるし、絶対不純な話ね…」


 私とミズアは、シオと話すドミーの背中を眺めながら歩いた。

 スキルによってシオを【支配】したドミーしか、彼女と直接話せない。

 だから仕方ないんだけどー、




 ちょっぴりシオが羨ましかった。




 「ライナ補佐官、妬いてるんですか?」

 茶々を入れてきたのは、すぐ後ろを歩いていたエディトである。


 「大丈夫ですよ!ライナ補佐官の美しさはレムーハ1ですから!」

 アルビーナもそれに同調する。


 「ふ、ふん。別に嫉妬してなんかないし」

 「ライナ。顔が赤いですよ?」

 「なっ、ミズアまで…」

 「ふふふ…冗談です」


 「「「ライナ補佐官、どうかドミー将軍を寛大な心でお許しください」」」

 変な時だけ団結力の強い【ドミー軍】であった。


 「おーい、何してる。そろそろ例の地点だぞ」

 茶番を繰り広げているうちに、ドミーが引き返してきた。

 少し距離が離れてしまったらしい。


 「ごめん、今行く」

 「レムーハ大陸1の【魔法系】スキルの使い手、【蒼炎のライナ】の出番だ。頼んだぞ」

 「…うん!」


 少し足取りが軽くなる。


 「嬉しそうだな、ライナ補佐官」

 「なんだか微笑ましいのよね~」

 「結婚しちゃうかも?」


 戦士たちの軽口も、今は気にならなかった。



==========



 シオの案内のもと、【ドミー軍】は第一目標にたどり着いた。

 数十ある土の部屋の中でも、現在は使われていない1室。

 最終目標の王室からほど近いところにあり、他の【シオドアリ】はほとんど入ってこない。

 【ドミー軍】の隠れ場所としてうってつけだった。


 「じゃあ、行くね」

 「ああ。このルートで頼む」


 ゼルマに作ってもらった地図を見ながら、ライナがスキルを唱える。


 「【グリント】!」


 【ルビーの杖】から一筋の光が現れ、室内を1瞬で飛び出していく。


 ほどなくしてー、

 

 「うん。【シオドアリの巣】の外まで届いた。アマーリエたちにも見えているはずよ」 

 「でかした」


 その言葉が嘘でない証拠に、地面が揺れだした。

 アマーリエ率いる250名が、スキルを派手に発動して注意を引いているのだ。

 もちろん、【シオドアリ】に当たらないようにである。


 「キュキュキュキュキュ!!!」

 「キュッ!?」

 「キュ~~~~~!」


 巣の中の【シオドアリ】が体を揺らし、外敵を排除するため一斉に巣を出ていく。

 王室方面からも多数の【シオドアリ】が現れ、巣の入口へと出ていった。


 あとは無防備の【ゲトアリ】を仕留めるだけ。


 (楽に終われそうだな…)


 一瞬の気の緩みが生じたときー、


 


 想定よりもはるかに大きい衝撃と揺れに襲われた。



==========


 「…」


 【地震の呪い】の発動を確認し、ローブを着た人物は【魔術書】を閉じた。

 周辺には、【シオドアリ】の死体が数匹転がっている。

 【インビジブル】で姿を隠していたが、匂いで気付かれたのだ。


 坑道がグラグラと揺れ、崩壊が始まる。

 大掛かりな仕掛けだが、狙いはただ1人。


 ローブを着た人物は再び【魔術書】を開き、新たな呪いを発動する。

 

 「面倒なことを…」

 低い声でつぶやき、その体は黒い霧に包まれるのであった。


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