第176話 ドミー、配下の女性にぬるぬるになるよう命じる

「ほお。【シオドアリ】は普段仲間と【精神感応】で対話をしていると…」

 (そ、そうですどみーさま。でもこんなことばをしったのははじめてで…ほんらいならもっとげんしてき、です…)

 「精神レベルでのつながりが成せる業か…モンスターと会話をするのは、レムーハ大陸でも俺が初めてかもしれんな。ははははは!」

 「…将軍は独り言がお好き、と」

 「アマーリエ、そのメモは没収な。あと、このシオと話がしたいから下がっていろ」


 というわけで、【シオドアリ】の少女ことシオから事情を聞くことにする。

 【ドミー軍】の包囲も解かせ、平原で2人きりだ。


 コンチに見せられた風景で学んだことだが、精神感応とはテレパシーのことらしい。

 【シオドアリ】は人間と同レベルの高い知能及び社会性を保有しており、俺との対話へすんなり移行できるようだ。

 

 「さて。事情を話してもらおう。女王を助けてほしいそうじゃないか」

 「キュキュッ!?」


 シオが驚きの声を上げ、触角をぴくぴくと動かした。


 (い、いつのまに…)

 「気にするな、そういうものだと思ってくれ。で、俺たちに何かできることはないか?」

 (みずしらずのしおにここまで…どみーさま、おねがいします!)

 

 シオは俺にぐっと顔を近づけた。

 その黒い目に浮かぶのは、悲しみと恐怖。


 (てんてきの【げとあり】にのっとられたすと、じょおうさまをおすくいください!」



==========



 シオの話を整理するとこうなる。


 レムーハ大陸の地中には、未だ人間には観測されない数千種の巨大生物が生存競争を繰り返す環境【常闇の世界】が広がっている。


 巨体を持つ【シオドアリ】も、その中では小さな品種に過ぎないらしい。

 比較的地表近くに住むことで競争に巻き込まれないようにしているが、1種類だけ【シオドアリ】を付け狙う天敵がいる。

 

 それが【ゲトアリ】だ。


 「その【ゲトアリ】が、シオが住んでいる巣にも襲ってきたと…」

 (はい。すにたったひとりでしんにゅうし、じょおうさまをおそいました)

 「仲間たちは何もしなかったのか?」

 (【げとあり】はじょおうのにおいをからだにぬりました。なかまはみんな【げとあり】をじょおうだとおもっています)

 「匂いで仲間同士識別しているというわけか…」


 女王は辛くも【ゲトアリ】の魔の手から逃れたが、負傷して動けないらしい。

 その間に、【ゲトアリ】は自らの卵の産卵に入った。


 【ゲトアリ】の卵から生まれた子供を、【シオドアリ】は自らの子供だと思って育てる。


 【ゲトアリ】はどんどん数を増やしていくが、新たな子孫が生まれない【シオドアリ】は減っていく。




 そして、乗っ取りが完了するというわけだ。




 (しおは、においにまどわされないせいしつがあるようで、なんとかだまされずにすみました)

 「【独立】の個性はそれか。なるほど、大体の事情は分かった。だが、巣を出て助けを求めようとしても、この近くに【シオドアリ】の巣は恐らく存在しない」

 (そ、そのようです…)

 「だから、俺たちと手を組まないか?」

 (よいのですか!?)

 「ああ。シオを見捨てられないからな…いや、むりにカッコつけても【精神感応】があるから仕方ないか」


 俺はいまだに連絡を寄越さないムドーソ王国の連中に想いを馳せる。

 弱体化して滅亡寸前だと思っていたが、まだしぶとく生き延びようとしてるらしい。

 待つだけではつまらんから、そろそろ行動を起こそう。


 「詳しい事情は後で話すが、俺はもう少し功績が欲しい身分でね。俺のお願いを聞いてくれれば、シオの女王救出に全力を尽くす」

 (ど、どんなじょうけんですか?)

 「【シオドアリ】の出没で放棄されたランデルン地方の安定を約束してもらう。それだけだ」

 (そんなことでしたら、じょおうさまもうなずいてくれるはずです!)

 「なら、話は決まりだな」


 元々地方領主ランデルン一族が収めていたランデルン地方。

 4年前に一族全員が惨殺される【満月の謎】という事件が発生し、その直後に【シオドアリ】が地中から這い出してきた。

 領民は不気味がって全員が土地を捨てて移住し、現在は無人の荒野となっている。

 そこを取り戻したとなれば、俺は英雄としてさらに格が上がるだろう。


 そうすれば、さすがにムドーソの連中も無視できまい。

 それで…


 「なーんて、俺も一端に野望を抱くチンケな人間になっちまった。すまないなシオ、男ってのはそういう生き物だ」

 (いえ…)

 「?」

 (どみーさまのこころに、いろいろなのひとのすがたがみえました。まもりたいのですね、そのひとを…)

 「…恥ずかしっ」

 (?)

 「いや、なんでもない」


 次の目標は決まった。

 とにかく、ヴィースバーデンへ戻ろう。



==========



 「と、いうわけで!!!」

 ホテル【フォンタナ】に用意された庭園。

 そこに集結した【ドミー軍】の面々の前で、俺は語る。


 「このシオと共に【シオドアリ】の巣に潜入するわけだが、当然ながら普通に行くと攻撃される!!!なので!!!」


 傍のシオが、口から透明な液体を出した。

 ドロドロとしていて、粘度が高い。


 「彼女の匂いを体に塗って潜入することにする。そして奥地にいる【ゲトアリ】を撃破し、女王を救出する!」




 「略して、【ぬるぬる作戦】だ!!!」

 

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