第175話 ドミー、アリの少女を仲間にする

 レムーハ記 モンスター図鑑より


 【シオドアリ】は広大なレムーハ大陸の地下深くに生息する昆虫である。

 通常のアリと同じく、女王を頂点としたコロニーを形成している。

 だが、滅多に地上に出てこないため、それ以外の生態には謎が多い。


 


 と言われてきたが、王が接触することで、さまざまな新事実が明らかとなった。



==========



 ーずんぐりとした胴体。

 ーほっそりとした6つの脚。

 ー2本の触覚。

 ークリクリとした目。


 何の変哲もない黒いアリだが、こうして見ると意外と可愛いものである。


 ただし、体格は人間の4~5倍以上だ。

 レムーハ大陸に生息するモンスターの中でも、なかなかの大物である。


 「キュキュキュキュキュ!!!」


 平原にいた【シオドアリ】は金属をこすり合わせるような金切り声を出し、包囲している【ドミー軍】総勢50名を精一杯威嚇した。

 自重もかなりのものらしく、脚を使って移動するたび、大地に足跡ができた。


 ただし、直接攻撃はしてこない。

 どうにか包囲の輪を抜け出そうとするもー、


 「【ヒュージ】!」

 「キュキュッ!?」


 【ドミー軍】の1人が剣を巨大化するスキルを発動して牽制。

 驚いた【シオドアリ】は後退し、包囲網の中をさ迷う。


 「キュキュキュ…」

 困ったような鳴き声をあげ、周りをきょろきょろを見まわしていた。

 

 「暴れだした時は驚いたけど、こうして見るとなかなか可愛いじゃない」

 「ペットにしようよ!」

 「何言ってるんだか。この巨体じゃ、人にぶつかったらすぐお陀仏よ」


 意外と狂暴性の低い姿に、【ドミー軍】も手をこまねいているようだ。

 この場にいるのは新規入隊したものが中心なので、まだのほほんとした空気がある。


 「将軍」


 そんな姿を離れていたところで眺めていた俺に、アマーリエが進言した。


 「少しかわいそうですが、駆除するほかありますまい。早急に命令を」

 「まあ待て。試したいことがある」

 「と、いうことは…」

 「ああ」


 事前に確認済みである。


 ーナビ。あの昆虫、メスか?

 ーはい。

 ー【支配】できるんだろうな。

 ーもちろんです。


 「アマーリエ、肩を出してくれ」

 「はっ!」


 アマーリエの【クイック絶頂ポイント】に手を伸ばす。




 「今日はお前のスキルを存分に活用しよう」

 


==========


 「キュウ…」


 【シオドアリ】は初めて見る生物の壁を突破できず、困り果てていた。


 小さな生物たちだったが、火、風、刃物をどこからともなく繰り出してくる。

 怖い。


 でも、巣の危機を誰にも伝えられないまま死んでいくのだけは嫌だ。


 「…」

 だから、覚悟を決める。

 細い脚に力を入れ、この生物たちの包囲網を突破する!


 「キュキュキュキュキュキュ!!!」


 もう少しで包囲網に当たろうとしたその時ー、


 「【ウォール・アドバンス】!!!」


 目の前に黒い壁が出現した。

 「キュッ!?」

 反射的に足を止めてしまう。


 前方だけではない。

 

 ー左。

 ー右。

 ー後方。


 四隅を壁で塞がれ、移動できなくなってしまった。

 この脚では餌としている【ジョオウサマバッタ】のように跳躍はできないので、逃げ場所がどこにもない。


 どうしよう。

 助けて、女王様…

 

 「待ってろ。今助けてやる」

 その時、誰かの声がした。


 左側の壁に小さな穴が穿たれ、そこから小さな生物の一部、おそらく手が侵入してくる。


 その手が、身動きが取れない【シオドアリ】の脚を掴んだ。

 3つある左脚の内の真ん中。


 「キュッ!!!」

 

 【シオドアリ】は身震いした。

 今まで感じたことがなかった感覚に。

 壁に閉じ込められて逃げることもできないまま、まさぐられる。


 「キュ…キュキュッ!?」


 体の震えが来た。

 でも恐怖は感じない。

 懐かしさと暖かさを感じる。


 「…アリってこういう欲求はあるんだろうか。まあ、いいか」


 【シオドアリ】はそのまま全身が震えだしー、




 「キュウウウウウウンンン…!!!」

 種としておそらく初めての感覚に包まれた。




 「キュ…♡」

 そして、意識を失った。



==========



 「アマーリエ。もういいぞ」

 「はっ」


 【ウォール・アドバンス】を解除すると、地面に横たわる【シオドアリ】の姿があった。

  

 「最小限の力での無効化。さすがです」

 「アマーリエのスキルはなかなか応用が効く。今後も頼りにしているぞ」



 女王を救いたい少女(【強化】後)


 種族:シオドアリ

 クラス:働きアリ

 ランク:C

 近接:81

 魔法:0

 統治:0

 智謀:12

 スキル:なし

 個性:【独立】【精神感応】【魅惑】

 一口コメント:人間の世界で言う個体名は存在しない

 服従条件:女王を救うのに協力してくれる方募集

 

 どうやら何かしらの事情があるらしい。

 話が聞ければ良いのだがー


 (だ…だれですか?)




 その心配はなさそうだった。

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