【ドラマCD付・新約】新50話 メルツェルの見た夢
Youtubeに公開したドラマCD(広告なし)
【小説家になろう】ビクスキ!50話「メルツェルの見た夢」 ドラマCD
https://www.youtube.com/watch?v=VjNLOL5OX9Y&feature=youtu.be
本小説50話「メルツェルの見た夢」をドラマCD化し、音声とともに楽しめる2.1次元小説としました!
同時にお楽しみください。
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「被害甚大、行動不能、稼働停止の危険あり」
思考回路の中枢に【竜槍】を受けたメルツェルは、自らの状況を冷静に判断していた。
100年間ムドーソ王国を守り続けた戦闘兵器の任務は、王国に害をもたらす武器、【竜槍】を受け継いだ少女の抹殺。
しかし、あと一歩のところで力及ばず、撃破された。
停止まで残り数分。
「任務、失敗」
メルツェルは、自らの停止を受け入れようとする。
「…記憶?」
だが、先ほどから思考内に流れ込んでいたノイズがそれを妨げる。
ぼんやりとしていたノイズが形を帯びていき、メルツェルは自らの記憶を取り戻していった。
もしメルツェルに知識があれば、こう表現しただろう。
人が人生の最後に見るとされる、走馬灯であると。
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ーうーん、ここをこうすれば起動するはず…あっ!まさかもう起きてる?
ーやったあ!今日が君の誕生日だね!おめでとう!
ーあたしが誰かって?ああ、ごめん。自己紹介が遅れたね。
ーあたしはカエナオ!歳は18。偉大なるムドーソ王国の大臣、チディメの腹心にして建築士なるぞ!
ーなーんてね。チディメとは幼馴染なんだ。最近はツンツンしてるけど、本当は優しい人なの。
ーこほん。せっかくだから、あなたに名前を付けましょう。
ーあなたの名前は、今日からメルツェルね!
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ーいつみても綺麗ね!ここの景色は。メルツェルも気に入った?あれは朝日っていうの。
ーここは、レムーハ大陸。私たちの住む、美しい世界。メルツェルには、色々な世界の風景を見て欲しいな。
ー自分がどうして生まれたのかって?ふふふ。いきなり、確信を付いちゃうか。さすが我が子よ。
ー少し真面目な話をしてもいい?この世界は美しいけどね、色々な不条理や悲しみにも満ちてるんだ。みんなが幸せになるためには、足りない要素がたくさんある。
ーだからねメルツェル、あなたには人々の生活を手助けしてもらいたいの。東に行って腰の曲がったおじいちゃんの労働を助け、西に行って人手の足りないパン屋さんを手伝う。
ーそうやって、色んな人の苦労を取り除いて欲しいんだ。
ー…自分にはできない?ううん、大丈夫!あたしが、メルツェルに色々な知識、言葉を教えてあげるから!
ーあたしのスキル、【創造】で最も時間を掛けて作ったあなたなら絶対できるわ!
ー…まだ外で活動するための素体がない?本当ごめん!予算の都合で、思考回路をつかさどる中枢しか作れなかったの。
ーいずれは素体も、メルツェルの友達もどんどん作るから、少しだけ我慢してね…
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ーさて、クイズです。この果物の名前は何でしょう?…りんご?おしい!オレンジでした。でも、画像認識能力は着実に上がってきてる。頑張ろう!
ーおはよー。さて、今日の天気は…雨!当たってる!10年分の天気の傾向から予想を成功させるなんてさすがねメルツェル。このカエナオも鼻が高いぞ!なんちて。
ー腕を使った動きは難しいよね~人間も、言葉で言い表せない分野だから…でも!あたしの動きを何度も覚えさせれば、行けるはず…!
ーさーて、いよいよこの日がやってきました!じゃーん!素体の完成でーす!ちょっと小さめなサイズだけど、おいおいは人間台のサイズにしてあげるから…
ーすごい!腕や足の動きも、完璧に再現できてる。…あたしのおかげで?
ー違うよ、メルツェルが頑張ったんだよ。あたしは、手を貸しただけ。
ーこれで、チディメも喜んでくれるかな…
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ーというわけでチディメ!予算は少ないながらも、なんとかメルツェル第1号を完成させました!あとは発声器官をつければ人間とー、
ーカエナオ。悪いが、この計画は中断する。
ーえっ…
ーエルムス王の方針だ。国境地帯がなにやらきな臭い。戦争に備えるため、この計画は破棄する。その素体も破棄するように。
ー…悪いけど、自分でお金を出すから、研究だけ続けさせてくれないかな。
ー仕方ないな。だがエルムス王にバレない範囲でやれよ。あの王は、おもちゃの類は好かないからな。
-うん…ねえ、久しぶりに食事にでもー
-悪いが、貴族との会食の予定が入ってる。また今度な。
ーあーあ、最近のチディメさんはつんけんしちゃってさ…せっかく研究が軌道に乗ってきたのに。
-大丈夫よ、メルツェル。あなたは、あたしが責任をもって完成させるから。そしたら、チディメをぎゃふんと言わせてあげるんだから。
ー…チディメがどんな人かって?ふふーん、あの人はね。あたしを救ってくれた人なの。
ー誰にも理解されなかった私の【創造】の価値を、子供の頃から唯一理解してくれた人。あの人のおかげで、【ムドーソ水道】も完成させることが出来たんだよ!
ーだから、あたしは、あの人の力になりたいの…
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ー頼んだものは、完成したな?
ーうん。でも、この【アシリアの火】はかなり強力だから、気を付けて使ってね。国境のモンスター退治用に調整したから、人間に使ったらだめ。エルムス王にもそういってもらうと助かるな…
ー分かった。そうしよう。
ーねえ、今日はメルツェルに発声器官を取り付ける日なの!良かったらー
ーまだ作っていたのか。悪いが、私も国境遠征に随伴する。その準備で忙しい。
ー…うん。
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ーカ…エ…ナ…オ
ーやった!遂に喋った!よかったねえメルツェル。
ーこれから、色々な言葉を教えてあげるからね…
ーチディメにも、見てもらいたかったなあ。
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ーなんだお前から用事なんて。手短に済ませろ。
ーねえ…
ーなんだ。早く言え。
ー【アシリアの火】で、エルムス王が戦争捕虜数百人を焼いたって本当…?
ー…
ー国境から帰ってきた人たちが噂してたの。嘘だよね?
ー…本当だ。
ー…!!!
ー最初からその予定はなかった。だが、偶発的に発生した紛争でエルムス王がー
ーどうして止めてくれなかったの!あれだけ言ったのにー
ーカエナオ!無礼だぞ!
ーご、ごめんなさい…
ー…すまない、かっとなった。だが、お前と私が【臣従の誓い】を結んだのは何のためだと思う?お前は才能の全てをこのチディメに捧げ、私はお前に才を振るう場所を提供する。そうじゃないのか?
ー…そうだよ。
ー少しはこちらの苦労もわかってくれないか。エルムス王は猜疑心に囚われ、粛清の刃を家臣に向けている。そこから生き残り、この国の政治を安定させるのが私の仕事なんだ。
ー…チディメ。でもねあたし、本当はー
ー今日は帰る。エルムス王が、自分の墓所に関する相談があると言ってきたからな…
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ーどうしたのメルツェル!一人勝手に出て行って。
ーナ、カ、ナ、イ、デ…
ー花?あたしのために、取りに来てくれたの?
ー優しいね、メルツェルは…ありがとう。
ー…ねえ。一つだけ秘密を教えてあげる。
ー私、チディメのことが好きなの。
ーでも、チディメは私の才能しか愛していないんだろうな…
ーカエナオ!そこにいたか。今エルムス王が亡くなった。お前も忙しくなる。
ー亡くなった?!でも忙しくなるってー
ー王の養子、ラカゲーが私を抹殺し王位に就くと主張している。すでに地方の軍を動かしてるようだ。…内乱になるぞ。
ーそんな…
ーお前に作ってほしいものがある…【守護の部屋】だ。
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ー…それだけは聞けない!!!
ー何故だ、理由を言えカエナオ。エルムス王の遺骸を守り、無事葬儀を執り行うことで私は勝利できるんだ。そのために必要なのが【守護の部屋】だ。
ー…【守護の部屋】に強力な防壁を備えるのはわかる。でも、Aランク相当の殺傷兵器まで装備するのはおかしいよ。どれだけの血が流れるか…
ーカエナオ。内乱はすでに始まっているんだぞ?ラカゲーは養子を名乗っているが、元々他国から人質として来た女だ。王に就く以外、自分が生き残る道などない。防壁だけでは不十分だ。
ー防壁を破れる人物は、ラカゲー陣営にはいないわ。戦意を失って降伏するかもー
ー甘い!!!甘いぞカエナオ!
ー…
ーお前には、矛盾がある!平和を好むくせに流血を嫌う点だ。平和というのはすなわち、敵対者の抹殺に他ならない!!!偽善者なんだよお前は!
ー…変わったね、チディメ。もう、昔には戻れないのかな…
ーとにかく、殺傷兵器だけは使わせない。それが、【守護の部屋】を設計したあたしのー
ーそうか…なら仕方ないな。
ー…?何をー
ーカエナオ、死んでくれ。
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ー…少しぐらい、抵抗してもいいじゃないかカエナオ。何度刺しても、表情一つ変わらない。
ー…ごめんね、チディメ。
ー…!
ーあたし、あなたに重荷を背負わせちゃった。
ー…
ー自分が手を汚したくないから、研究に没頭したいから、あなたに手を汚させてた…ごめんなさい。
ー…
ーねえ、メルツェル…わがままかも知れないけど、あたしより長生きして。
ーそれと、チディメを、守ってあげて…
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ー友人よ、なぜ私の下を離れなかった。
ー権力を欲する私についていけば、いつかこうなると分かっていただろうに。
ーお前は興味の関心が狭いだけで、そこまで愚かな女じゃなかっただろう…
ーカ、エ、ナ、オ…?
ー…人形か。創造主が死んで寂しかろう。私が、この私が代わりに仕事を与えてやろうではないか。誰か!
ー…そうだ、カエナオは私のために自害した。いずれエルムス王とともに葬儀を行う故、遺体は清めておけ。
ーあとこの人形は兵器に改造しろ。なにやら複雑な思考ができるようだが、単純な命令を遂行できればいい。素材は、この研究室にいくらでもある…
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ーエルムス王は亡くなられた!そして、我が親友カエナオも自害した。だが、私は止まるわけには行けない!
ー今こそ王国に平和をもたらし、皆に幸せをもたらすと約束しよう!
ーカエナオの設計図を受け継いで完成した【守護の部屋】があれば、ラカゲーの軍も遅るるに足らず!
ーここでもう一つ諸君らに披露するものがある。カエナオが残した最後の遺産ー
ー戦闘用兵器、メルツェルだ!
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「再起動」
メルツェルは薄れゆく思考の中で、最後の選択を行った。
誰からの命令ではない、自分の意思で。
目標はただ一つ。
愛する者が自分に守って欲しいと懇願した、チディメが残したもの。
ムドーソ王国を守る。
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「引いては、くれませんか」
最大のチャンス、疲弊した【竜槍】の使い手を圧殺する作戦は失敗に終わった。
【男性】と呼ばれる希少生物の妨害によって。
最後の突進もかわされ、上空から【竜槍】の使い手がスキルを発動する。
「【刺突】!!!」
だが諦めない。
約束を果たすまでは。
」
眼球の一つで、【竜槍】の使い手を補足する。その時ー、
メルツェルは朝日を見た。
ーここはね、レムーハ大陸っていうんだよ。私たちの住む、美しい世界。メルツェルには、色々な世界の風景を見て欲しいな。
それが、メルツェルの見た最後の風景だった。
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ーお疲れ様、メルツェル。待ちくたびれたよ~。何もないところで人を待つってのも大変だよね。
ー…ごめんね。あなたばかり辛い思いをさせて。
ーでも、もう大丈夫だよ。一緒に行こう。
ーあの人も、きっと待ってるから…
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ムドーソ王国の封印された記録より抜粋。
内乱に勝利したチディメが目指したのは、ムドーソ王国に代わる新たな王朝の創始だった。
だが、最終的にそれは阻まれる。
内乱終結からほどなくして、「カエナオはチディメに殺害された」といううわさが流れたのだ。
チディメがとある関係者の口止めに失敗し、情報漏洩を許したためといわれている。
「血塗られた王朝を刷新する」という大義名分を掲げていたチディメは名声を失い、新王朝の創設をあきらめた。
仕方なく、エルムス王を継ぐムドーソ王国の2代目として即位するも、落胆は大きく、崩御するまでさしたる功績を残さなかった。
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ーやっぱり、待っててくれたんだ。
ー…ううん、もう怒ってない。
ーその代わり!今後はメルツェルの教育にちゃんとつきあうこと!分かった?
ー…分かればよろしい!さ、メルツェルも行こう!
ー今度こそ、あなたの友達も作ってあげるね…
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