旧約第4章 ゴブリン500名を討伐し、辺境地帯を手中に収める

第51話 ライナ、朝帰りに女を連れ帰るドミーと遭遇する

 朝を迎えた宿場町イラストリア郊外。

 鬱蒼とした森が広がっているが、モンスターは生息しておらず、至って平穏そのもの。


 その森の中を私はー、


 「私としたことがああああああ!」

 全力疾走していた。

 「ドミー!死ぬんじゃないわよおおおおお!」


 端的にいうならー、


 寝坊である。



==========



 前日の夜。


 「お花を摘みに」といって【やどりぎ亭】の部屋を出たドミーを待っていたが、なかなか戻ってこなかった。

 心配になって様子を見に行こうとしたのだが、そこに一人の客人が訪れる。


 「イラート…!?」

 「えへへ、来ちゃいました先輩。ちょうど任務が終わったので」

 「そ、そう。実はね、今からドミーを探しに行こうと思っていてー」

 「ドミーさんは…さっき見かけましたよ。少し周辺を走ってくると言ってました」

 「あ、そうなんだ。確かに、最近体鍛えるのに凝ってるしね…」

 「ですからー」


 イラートは優しく微笑んだ。

 「少し、お話しませんか?」


 

==========



 「そうそう、あの時の【ナーガ】、すごい大きかったわよね~」

 「先輩がいなければ、危ういところでした!流石です」

 「いやいや、それほどでもないわよ。えへへ…」


 というわけで、雰囲気に飲まれてついつい先輩・後輩トークに花を咲かせてしまった。

 「イラートとの時間を作れ」という、ドミーの指示もあったし…


 この世界では、【女性】同士で子供を作ることができる。

 おそらく、イラートは私を好いている。

 でも、いまはその想いに応えられない。

 それに対する罪悪感もあり、ついつい話が長引いてしまった。



==========



 周辺を走るにしても、遅すぎる。

 そう感じてきたのは、私とイラートの武勇伝を5つまで語り終わった時だ。


 「…やっぱり遅いわね。ごめん、少しドミーをー」

 その時、私は強烈な眠気を感じ、ベッドに倒れこんでしまう。

 無理もない、今日は1日中行軍だったし、マッサージ店なんてやって調子に乗ってたし…

 だめだ、動けない。


 「すみません。イラートもそろそろ戻ります」

 「うん…」

 急速に薄れゆく意識の中で、私はイラートの最後の言葉を聞いた。


 「まだ、諦めませんから…」



==========



 というわけでー、


 「起きたら朝だったあああああ!ドミーはいないし、なんか爆発騒ぎ起きてるしいいいいい!」


 私は、恐らく爆発騒ぎとドミーになんらかの関連があると感じ、全力疾走で向かっているのである。



==========



 「はあ、はあ…」


 爆発が起こった現場まで、もう大分近づいている。

 体力がある方ではないので、息が苦しい。


 その時私は、今の自分がCランク程度の実力しか持っていないことに気づく。

 ドミーの【強化】を受けていないからだ。


 「そんなこと、どうだっていい!」

 わざと大声を出して、自分を鼓舞する。

 ドミーは、私の全てなんだ。

 自分が寝ている間に何かあったら、死んでも死に切れない。


 「ドミー…」

 私は信頼するパートナーの名前を口に出した。

 するとー、


 「おお!ライナ!無事だったか」

 木陰からー、当のドミーが姿を現した。

 怪我もなさそうだ。


 「もう!心配したんだから…!!!」

 ドミーが爆発騒ぎとどう関連しているか、なんてことはどうでもいい。

 生きていてくれれば…


「…あの、ドミーさま。この方は?」


 という感傷に浸っていた私に冷や水をかけたのはー、


 白い髪をした、自分と同じ歳ぐらいの少女だった。


 

==========



 「…なるほど、状況は分かったわ。今日からこのミズアって子とも行動を共にするのね」

 「すいませんでした!」

 「別に謝ることないじゃない。ドミーは、最善を尽くしたと思うわ」


 【やどりぎ亭】。


 土下座…まではしなかったけど、直立不動でお辞儀をするドミー、それを眺める私、そしてー、


 「…」

 ドミーの後ろに隠れて、ドキドキしている白髪の少女。

 名は、メクレンベルク・フォン・ミズア。

 ミズアでいいかしら。

 【竜槍】を振るうAランク相当の槍使いらしいけど、今は人見知りでもじもじしている少女にすぎない。

 ちなみに、私より1歳年下の14歳だそうだが、胸はこちらより大きい…なぜ?


 「本当はライナとも相談したかったのだが…状況が状況でな」

 「すみません!」

 ミズアも一歩前に進み出る。


 「お、お二人の仲を邪魔するつもりはありまひぇん!」

 少し噛んだ。

 「必ず役に立ちますので、どうか同行をお許しください!」

 そして、ドミーのようにお辞儀をした。



==========



 「気遣いは無用よ、ドミー。あなたは王となるんだから、腹心が1人や2人増えて当然。私にいちいち遠慮することないわ」


 半分本当で、半分嘘。


 正直、2人だけの旅が終わることに、少し寂しさは感じる。

 でも、それを言ってはいけないのだ。

 ドミーは王になろうとしてるのに、私が独占して良いわけがない。


 それにー、


 「…そういうわけにはいかない。ライナは、俺が最初に【断金の交わり】をかわした、最も信頼しているパートナーなんだから」

 「やれやれ、急に褒められてもうれしくないわよ」

 ドミーは、私が望んでいた言葉を、何も言わなくてもかけてくれるから。



==========



 「さて!湿っぽい話はこれくらいにしましょう」


 私は、おもむろに【炎魔導士のドレス】を脱ぎ始めた。


 「ラ、ライナ?」

 「…何をすればいいんでしょうか?」


 「決まってるでしょ」

 私はにっこりと笑った。

 「ビク◯ビクンよ!」


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