第172話 コンチは子孫繁栄の役目を譲りたい

 「お母さんになってくれっっっ!!!」


 コンチはそう叫んだ。

 それを聞いた私はー、




 「変態天使撃滅!」


 この天使とやらの頬を右手でつねった。

 割と強めに。


 「いででででで!な、なにするのさあああああ!!!

 「どうせ夢でしょ」


 見たこともない風景に非現実的な存在。

 その正体は1つしかないだろう。

 どうせならドミーともっと色々なことする夢を…って何言ってるんだ私。

 とにかく早く目覚めなくちゃ。

 

 「自分の頬をつねるなんて嫌だから、あなたの頬をつねるわ」

 「ほ、ほんとうなんだって!僕はこのレムーハの神様なのおおおおお!」

 「…神様なら、私の体を成長させられる?」

 「ごめんそれは無理。君の控えめな体は一生そのままー」

 「じゃあ用はないわ!!!左手も参加させてもらうっ!!!」

 「あんぎゃあああああ!!!」


 ひとしきりつねったが、なかなか夢から醒めない。

 もう少し力をー、


 「ライナさま、おやめ下さい!」

 その時、誰かに制止させられた。


 振り返ると、コンチをそのまま小さくしたような天使がいる。

 まだ4~5歳といったところだろうか。

 小さいながらも私を一生懸命止めようとする姿が可愛い。

 

 「わたしをご存知でしょう。ドミーさまのサポート役を務めている者です」

 「というと…まさかあなたナビ?」


 ドミーから何度か話を聞いたことがあった。

 【ビクスキ】について、脳内でアドバイスを行ってくれる存在。


 「はい」


 ナビは頷いた。


 「ドミー役の【案内役】にして【神造天使】」

 「【疲弊した天使】コンチさまに仕えております」


 

==========


 

 「大丈夫ですか?コンチさま」 

 「頬がトマトのように腫れあがる以外は軽傷さ…まったく、すびばせんとは言わないからね」

 「あはは、ごめんなさいコンチさん。で、ここは私のせいしんせかいってやつなのね」

 「精神世界というと難しいから…夢の中でもいいよ。一応、君が支配している世界だ」


 私はこの天使たちの話を聞くことにした。

 ずっと前の話だが、ドミーから天使に関する話を聞いた覚えがある。

 自分にスキルを与えてくれた存在。

 

 「…なんで自分の頬をつねっているんだい?」

 「これでおあいこかなって。それに、やっぱり夢じゃなさそう」

 

 頬にひりひりした痛みを感じるけど、目覚める気配はなかった。


 「で、私に何をさせたいの?」

 「もちろんお母さんさ!」

 「それは聞いた。でも、【生命降臨の儀式】じゃダメなの?」

 「機能を失いつつある。君も知っているだろ?」

 「ええ…」

 

 レムーハ大陸の人間は、女性同士のパートナーで【生命降臨の儀式】を行うとどちらかが妊娠する。

 妊娠した方が母親、妊娠しなかったほうが父親と呼ばれ、その子を育てるのだ。




 ただし、近年それに異変が起きている。

 【生命降臨の儀式】を行っても、半数のパートナーは子供が出来ない。

 それにより、レムーハ大陸全土で人間の数は徐々に減りつつあった。


 特にここムドーソでは顕著で、7万人だった人口が5万人程度まで落ち込んでいる。

 辺境地域は過疎化が進んでおり、【ブルサの壁】から帰還する途上にもいくつか討ち捨てられた街が存在していた。


 「怒らないんで欲しいんだけどね」

 コンチは笑った。




 「通常、人間の女性同士で子供を作るのはだ」

 

 

==========



 「ど、どういうこと!?」


 レムーハ大陸数千年の掟が覆されて、私は驚きを隠せない。


 「言葉通りの意味だ。少なくとも、この世界の科学技術ではね。ああ、科学は魔法みたいなものと思ってくれ」

 「じゃあ、なぜレムーハに今まで子供は生まれてきたのよ」

 「ややこしいからかいつまんで説明しよう」


 コンチは上着をたくし上げる。

 そこにはー、


 「これは【シックスパック】!?」

 

 ドミーのものに負けず劣らず立派だ。

 通常、女性はここまで立派な【シックスパック】を獲得するのは難しいはず…


 つまりー、


 「そう。両性具有の…いや、これはややこしくなるから止めておこう。とにかく僕は男性!僕が男性として、【生命降臨の儀式】を行った女性たちにを提供していたのさ」

 「とあるもの?」

 「これはそうだな…【因子】ということにしておこうっっっ!!!男性である僕が【因子】を女性に提供することで子供が作られるんだっ!!!に過ぎないっっっ!つまり!!!」






 「このレムーハ大陸で生まれた全ての人間は、みーんな天使である僕の【因子】を受け継いだ子孫!!!」


 「だからスキルなんても使えちゃうのさっ!!!」


 「もちろんライナ、君も僕の子孫だ!!!」

 


==========



 「待ってよ」

 くらくらする。


 「一度整理させて」

 「いや、まだ話は続きがある」


 コンチは強引に話を進める。

 ドミーといい、イラートといい、コンチといい、男性の【因子】がある者はみんなそうなのだろうか。


 「僕は数千年間【因子】を提供したわけなんだが、結論から言うと僕一人の【因子】で、2のは非常に労力が掛かる。これまで頑張ってきたけど、もう【因子】が出ないんだなこれが」

 「じゃあ、今後どうすればいいのよ!人間が全滅しちゃうじゃない!」

 「原始的な構造に戻すことにする。つまり、男性1人と女性1人による【因子】の交換だ。これが、人間が子供を作るための原初の形だからね」

 「男性1人ってまさか…」

 「そう。君の愛するドミーだ」


 コンチは両手を広げた。


 「今後は君の愛するドミーに【因子】の交換をやってもらう!!!だがこの世界の男性はねえ。自分ではなかなかできないんだ。だから!!!」


 「君が【創造計画】を成功させるため人類種の母となりー」


 「ドミーに童貞を捨てさせろっ!!!!!」



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