第171話 ライナ、世界を託される
「すみませんでした!」
「じとー…」
「ライナ、ドミーさまはわざとではありません。お許しください」
「許す!」
「早いな!?」
「引きずるのは私の性に合わないしね」
老舗ホテル【フォンタナ】のスイートルーム【ローレライ】。
【ドミー軍】共同で行われた宴会も終わり、そこにいつもの3人は宿泊することにした。
4人掛けのテーブルに3人で座り、紅茶をたしなんでいる。
ー金をはめ込んだ大理石の床。
ーシャンデリアや天蓋付きのベッドなど、エレガントな調度品の数々。
ーあちこちに展示された、絵画や陶器。
ムドーソ城の【エルムスの館】に引けを取らない豪華さと言われるだけあり、なかなかのものであった。
奴隷上がりの俺にとってはやや居心地の悪さも感じるが、これは個人の感想と言える。
「でも、あそこがあんなに気持ちいなんて知らなかった。どうしてだろう…」
「俺も、不思議と触ることがなかったな。スキルのレベルアップと関係していると思うが…」
「ミズアも触って欲しいです。ごくり…」
「もちろんだ。ごくり…」
「じと…」
「だ、だが今日は休もう。一日中遊んで疲れただろうし」
「そうね。私も眠くなってきたわ…」
ライナがあくびをしたため、この日はお開きとなった。
「それでは、まずミズアが警戒に当たります」
「ああ、任せる」
ミズアが【竜槍】を携えた。
敵の襲撃を警戒するため、3人の内1人は起床して警戒を行う。
エンハイムでローブを着た謎の暗殺者に襲われてからの習慣だ。
だが、1度目の襲撃以降、姿を見せていない。
俺たちの前には。
==========
「ねえ…」
「うん?」
「イラートのことなんだけど」
まず寝台で就寝することにした俺だったが、ライナに話しかけられる。
「明日何事もなかったら、一度話し合ってみるね」
「分かった。俺には結果だけ簡単に報告してくれ。言いたくないことがあれば隠してもいい」
「…ちょっとは気にならないの?」
「もちろん、すごく気になる」
「ふふふ、ドミーはやきもち焼きなんだ」
「男ってのは、そういうもんなんだなきっと」
「…ねえ」
「うん?」
「いつまでも一緒にいようね。約束よ」
「ああ、俺もライナとずっと一緒にいたい」
「ありがとう…」
やがてライナは寝入ったようだった。
その間に、俺は【ブルサの壁】から帰還を始めたときのことを思い出す。
すなわち、イラートと合流した時のことだ。
==========
【奇跡の森】の中でイラートは倒れていた。
腹に傷を負った状態で。
その周辺にいるはずの仲間は誰もいない。
「イラート!!!」
ライナが駆け寄り、イラートを抱き寄せる。
「先輩…?」
イラートは目を覚まし、ライナを見て嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「幻じゃ、ないですよね…」
「当り前よ!どうしたの?【アーテーの剣】は?」
「ローブを着た人間に、襲撃されました…自分も戦ったけど、強すぎて…」
「イラート!?誰か回復魔法を!イラート、しっかりして!!!」
戦場でも冷静だったライナが取り乱していたのを、よく覚えている。
その後も捜索が続けられたが、【アーテーの剣】は誰も発見できなかった。
完全に、姿を消した。
==========
「イラートといったな。傷は痛むか」
「もう大丈夫です」
数日後、回復したイラートと話し合いの場を持つ。
銀色の髪は染めていたようで、黒となっていた。
「ドミー将軍。この度は僕を助けていただき、ありがとうございます」
「僕…まあいい。それで、これからどうする?」
「【アーテーの剣】のみなさんが行方不明となった今、居場所はなくなりました。もともとムドーソに忠誠心なんてありませんし、【ドミー軍】に加えていただきたい」
「それはいいが、そのためにはー」
「条件がある。それは俺の手を触ることだ。でしょうか?」
「…」
「触りますが、少し待ってください」
「何をだ?」
「ライナ先輩に想いを伝えさせてください」
数日間、慎重に監視が行われた。
怪しい行動をしていないか、利用するスキルはなにか、【ドミー軍】として行動する以外は何をしているか。
怪しいところは見つからなかった。
また、監視に当たっていた【ドミー軍】の面々は、口をそろえてこう言った。
ー休息時間は常に寝ています。食事を取る以外、起きることは滅多にありません。
結局、イラートを【ドミー軍】の末席に加えた。
==========
「ここは…?」
私が目覚めると、【フォンタナ】の部屋とは別の場所にいた。
あたり一面に広がる草原と、青い空。
見回しても、それ以外には何もない。
「ドミー?ミズア?」
呼びかけても、誰もいなかった。
【ルビーの杖】もない。
こんな所を襲われたらー
「やあ!君とは初めてだね」
上空に気配。
純白の服装と肩から翼を生やした女性が降り立つ。
神話の世界に出てくる、天使?
「僕の名前はコンチ。この世界でいう神さまみたいな存在だ」
「は、はあ…」
「早速だがー」
「お母さんになってくれっっっ!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます