第160話 エルネスタ、【叛逆者】を探す 

 過去編残り4話+エピローグ2話で長かったオーク編も終わります!

 新1話も公開されましたのでよかったらどうぞ!



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 「【叛逆者】どもを逃すな!」

 「【70年の平和】に逆らう奴は皆殺しにしろ!」

 「へっ!オークの奴らびびってやがる!」


 ムドーソ王国軍は、数千人の同胞が包囲するように布陣した。

 その数、約300人。

 数で言えば、ほんの少数だが、オークと人間の間には抗えない差があった。


 それは、スキル。

 ここにいる者たちは、全員戦闘に適したスキルを保有しているはずだ。

 本気になれば、力の弱いオークの女性数千人などたちどころに殲滅できる。


 それだけでなくー、


 「ははははは!久しぶりに血が騒ぐなあ!!!我も父ノーラの偉業にあやかりたいぞ!!!」


 王国最強の兵器、【守護の部屋】を動かすエルネスタもいる。

 眼下に広がる同胞たちを品定めするように巡回しながら、誰かが逃げ出さないように威嚇していた。


 「誰か、誰か助けて…」

 「許可をもらったというのは嘘だったの?」

 「私たち、殺されるんだわ」

 「そんなのいやよ…!」


 この場所に小さな子供を連れてきた者はいなかったため、本格的な混乱はどうにか抑えられている。


 だが、それが起こるのも時間の問題だった。


 「【赤の裁き】よ!試し撃ちでもしてみようか!!!」

 エルネスタは草原に【赤の裁き】を放ったらしい。

 真紅の光が数発光ったと思うと、草原は一瞬でえぐれ、炎上を始めた。


 同胞たちはさらに悲鳴を上げ、エルネスタはそれを見て愉快そうに笑った。


 「この部屋で数千人を一挙に殺す機会が欲しいと思っていたが、どうやら今日らしい!!!」



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 (これが、【70年の平和】の正体かよ…!!!)


 俺は悔しさで手の震えが止まらなかった。

 表面上は対等を謳いながらも、何かあれば不平等が押しつけられる。

 それに平和的な対応で対話を求めても、軍事力で潰されるだけ。


 俺は草原に落ちていた石を拾った。

 このままやられっぱなしじゃいられない。

 なんとか一撃だけでもー


 その時、誰かに抱きしめられた。

 暖かな感触。

 生まれた時から知っている人。


 「だめよ、カクレン」

 母さんだった。

 小さな声で俺を諭す。


 「そんなことをしても、すぐ返り討ちにあうだけ」

 「放してくれ、俺はー」

 「あなたを失いたくない。お願い…」

 「…くそっ」


 説得に負け、俺は石を落とした。

 【守護の部屋】は同胞たちの上空をいまだに飛び回っている。

 赤子の時のように、しばらく母さんと抱き合った。


 「ごめんね、カクレン…」

 いつの間にか、大切な人の目から涙が流れていた。


 「あなたを連れてくるんじゃなかった…」

 


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 得意げに上空を旋回していた【守護の部屋】だが、【ブルサの壁】からとある人物が出てくるのを見て、静止した。

 【ブルサの壁】を守る守備隊の中でも、高位に属する者だったからだ。

 その人物は足早に【守護の部屋】の足下にたどり着き、訴えた。


 「王よ。これ以上の乱暴狼藉は、【70年の平和】の精神に反します。おやめくだされー」


 エルネスタは【守護の部屋】から【赤の裁き】を放ち、ラーエルの言葉を強引にさえぎった。


 「貴様には謹慎を命じたはずだぞ。我の断りもなく、勝手に蛮族どもの集会を許可しおって」 

 「…罪あるは承知しております。しかし、平和的な抗議すら許さないとあらば、将来的に禍根を残しますぞ」

 「叛乱したければするがよい!」


 ラーエルの説得にも、耳を貸さない。


 「王国の守護など、この【守護の部屋】1つだけあればよいのだ。軍人などもはやいらぬ!」 

 「国防は、1!【守護の部屋】だけでなくー」

 「くどい!貴様がだからいってこれ以上は許さんぞ!!!」

 「…」

 「…我は、名君になるのだ」

 「王…?」

 

 エルネスタは歪んだ笑みを浮かべた。

 

 「この国を再び繁栄させ、父のように【賢王】と呼ばれる王に…」


 そして【守護の部屋】を動かし、ラーエルの元を離れていく。

 



 「…王よ」

 その姿を見ながら、ラーエルはぽつりとつぶやいた。




 「そのお考えでは、【賢王】にはなれませぬ…」


 

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 【ブルサの壁】から現れた人物との話し合いは、意味を成さなかったらしい。

 エルネスタは、再び同胞の元へ戻ってきた。


 「面白いものを見せてやる。貴様らが永遠に発現しないもの。すなわちスキルだ」


 そういうと、1人の女性に【守護の部屋】は接近する。

 

 「や、やめて…」

 「動くな。まだ殺さない」


 そして、手をかざす。

 助けてあげたいのだが、母さんに手を繋がれてできない。

 女性は目を閉じるがー、




 「…青か。つまらん」

 エルネスタは背を向けた。


 女性は無事。

 その周囲には、青い膜のようなものが漂っていた。


 「我は生物の本質を色で表す【オーラ】のスキルを持っている。青は我にとって脅威にはならぬ。よって、今は殺さぬ」


 【守護の部屋】が再び上昇していく。


 「だが、真っ先に殺すと決めている色が1つある!それは、黒!!!」


 俺は嫌な予感がした。

 それは、的中する。


 「黒とはすなわち【叛逆者】を意味する色だ!この中で【叛逆者】の色をしていた者はー」


 「容赦なく抹殺する!!!」

 



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