第159話 エルネスタ、弾圧する
※本日18時から新1話も投稿されます!よかったら見て下さい。
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延々と続く石の壁。
【ブルサの壁】を見た俺の第一印象だった。
80年前、オークとの戦争に勝ったムドーソ王国が、獲得した草原地域を確保するために建造した防衛施設。
中央には、和平を請うたオーク側の使者16人を処刑した地点に据えられた【征服門】が見えた。
(あんな建物に篭って、人間は窮屈じゃないんだろうか)
遮るものがない草原地帯なんだから、もっと自由に振る舞えばいいのに。
「カクレン!そろそろ始まるわよ」
背後で俺が母さんを呼んだ。
振り返るとー
女性、女性、女性。
数千人のオーク女性が草原に集結し、【ブルサの壁】を見つめている。
「ムドーソから許可は出たの?」
「さっき、【ブルサの壁】守備隊長ラーエルから許可が降りたとコウトさんが言っていたわ。3日間の活動を許すと」
「そう…よかった」
と言っても、雰囲気は穏やかそのものだ。
祭りの日に使う色とりどりの服を着て、白い旗や腕章を身につけて敵意がないことを示している。
「お互い大変ねえ」
「とりあえず3日分のお弁当は持ってきたわ!」
「かっこいい男とかいるのかしら…グフフ」
「本当は怖いけど、仕方ないわ」
「もうここにくることはないと思っておったのじゃが…」
ほぼ全員、【ザラプ合意】で生活が苦しくなる部族の関係者だった。
つまり、平和的な抗議活動なのである。
「母さん、俺から離れないでね」
「あなたこそ、私から離れちゃだめよ」
「子供じゃないんだから」
「何歳になっても、あなたは私の子供よ」
俺と母さんはぴったりと身を寄せ合い、他の女性たちと共に歩き始めた。
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「俺もいくよ」
母さんの決意を聞いた俺はすぐ決断した。
「カクレン!?」
「俺はまだ15歳になってない。もう数日でなるけど、まだ14歳だ。だから、特別な許可がなくても【ブルサの壁】に入れる」
「だめよ!危険すぎる」
「母さんを1人行かせるほうが危険だよ。ここで留守を守ったって状況は悪化する一方だし」
「…」
「大丈夫、変なことはしないさ。【不死の鎧】をつけて殴り込んだりとか。ただ、母さんを守るだけ」
「…いつの間にか、私もあなたに守られる身になったのね」
「当たり前だ!」
男として、母を守ることは当然のこと。
…ちょっと恥ずかしいけど
「フフフ…でも、私1人だけでいくわけじゃないのよ」
「あれ?そうなのか?」
「さっき話してた医者のコウトさんが、他の部族の女性にも呼びかけてくれるの。80年前の戦争のことを伝える活動もしているから、色々な部族に顔が利くんですって」
「女性だけの集会って、聞いたことないな…」
「だからこそよ。オークの歴史に名が残るわ。もちろん、争いではなく平和の使者として」
「俺も、歴史に名が残るかな」
「それは、あなたの心がけ次第ね」
「よし!早速準備してくる!」
その日の早朝に母さんと出発し、他の部族の女性たちと合流しながら【ブルサの壁】へと向かった。
ルティアには、言わなかった。
間違いなく、自分もついて行くと言って聞かないだろう。
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「【ザラプ合意】の見直しを求めます!!!」
「1月後に履行なんて生活できません!!!」
「せめて救済措置を!!!」
許可も得たことで勢いづいたのか、本格的な抗議が始まった。
徐々に【ブルサの壁】へと接近しながら、各々がここにきた理由を叫ぶ。
俺もそれに倣い、叫ぶことにする。
ムドーソなどくそ食らえ!
そう言いたいところだったが、抗議活動を貶めてしまう。
なのでー
「軍馬【ブアラ】の調達禁止はんたああああああい!馬は何かと役に立つぞおおおおお!!!」
とりあえず部族の商品をアピールする。
今まではムドーソの軍馬に使われるのに抵抗を感じていたけど、部族の将来がかかっているんだ。
全て白か黒かで分けられる問題ばかりじゃない。
「その調子よ!3日目の夜に直訴の書状を手渡す予定だから、それまで叫んじゃいなさい!!!」
「分かったよ母さん!!!」
「ちょうど抗議活動が終わる日があなたの誕生日だから、盛大にお祝いしなくちゃね!」
「いいよこんな時に!」
「こんな時だからこそよ!歴史がみんなに試練を与えたからと言って、へこたれちゃだめだわ!」
「そうなのかな?」
「そうよ!」
「「軍馬【ブアラ】の調達禁止はんたああああああい!」」
母さんと一緒に、声がかれるまで叫び続けた。
対話と平和を求めて。
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夕方となり、抗議活動も1日目が終わろうとした。
一度解散となり、簡易的な【ユルタ】の中で過ごしながら、明日を待つ。
みんな、そう思っていた。
でも、そうはならなかった。
【ブルサの壁】から、何かが飛来してきたからだ。
徐々に、抗議活動を行う俺たちのところへ近づいてくる。
ー金の玉座。
ー豪華な装飾の施された寝台
ー古書が積みあがった書斎
それは一見壁のない部屋。
金の玉座には、王冠を被った壮年の女性が座っている。
パウリーネと違って痩身だが、怒りと不審に満ちた表情は遠くからでも鳥肌が立つほどだ。
「あれは【守護の部屋】じゃない!!!」
誰かが叫んだ。
「【守護の部屋】!?」
「嘘でしょ!私たちは武器を持っていないのに…」
「みんな殺されるわ!!!」
「あなた、助けて…」
【守護の部屋】。
俺も聞いたことがある。
ムドーソ王国の王家のみが扱える最終兵器。
あらゆる攻撃を防ぐ【青の防壁】とあらゆるものを焼く【赤の裁き】で、30000人の同胞を殲滅した悪魔。
現在それを操っているのはー、
ムドーソ王国第4大国王、ムドーソ・フォン・エルネスタ。
「貴様らの腹など読めておる」
エルネスタは【守護の部屋】を地表すれすれまで降下させ、俺たちを嘲笑った。
「大方、平和だの対話などで油断させた後、【ブルサの壁】を奇襲攻撃するつもりだったのだろう。防備が弱いからな」
そこまで話した後、胸を抑え、激しく咳をする。
一瞬、弱弱しい表情を見せるも、次の瞬間には恐ろしい独裁者に戻っていた。
「だが、そんなことはさせん」
背後の【征服門】が開き、数百人の兵士が出撃してくる。
おそらく、俺たちを捕らえるために。
それを確認したエルネスタは、にやりと笑った。
「貴様ら全員、国家に対する叛逆の罪で捕らえる!!!」
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