第153話 【将軍】ドミー、女性17000人を洗脳する
カクレン、好敵手であったお前の願いは聞き届けてやったぞ。
わざわざ【征服門】まで破壊してな。
オーク民族はお前を【叛逆者】ではなく【英雄】と称えるだろう。
表向きだけでも人間とオークの間に対等な関係を築き、交易による繁栄をもたらしてやる。
だから許してくれ。
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こりゃ壮観だな。
草原に集結するオークの女性たちを見て、そう思う。
バラバラになっては効率が悪いので、総勢17000人を80列に分けて、ひとまず整列させた。
ー幼児を抱えた母親。
ー不安そうにこちらを眺める少女。
ー杖をついた老婆。
ー友人同士ひそひそ話をする妙齢の女性。
ー黒い喪服を着た未亡人。
目に見えるだけでも多種多様な女性がいる。
誰1人として同じ者はいない。
「さあ!!!平和を希求する者同士、手を取り合おう!!!」
ひとまず、前列にいる者たちに呼びかける。
普通なら、こんなワケのわからない呼びかけにはなかなか応えられない。
だから、整列に工夫を施した。
「ど、ドミー将軍!」
最前列の女性オーク1人が呼びかける。
ぐったりとした5歳ぐらいの少女を1人、抱えている。
「おお、どうしたのだ?」
「私はモラオといいいます。1人娘のコラオがー」
そう言うと、少女のお腹をめくり上げる。
紫のアザがあった。
ミズアも感染していた不治の病、【紫毒】。
「不治の病にかかってしまいました…私の、たった1人の子なのです。治せないでしょうか?」
工夫の第一は、病や怪我に苦しむ女性を前列に集めること。
俺は数日前、病に苦しむオークの女児を治療している。
一瞬のうちに。
すでに噂として部族の間に流れていたため、俺の治療を求める者を優先的に前列へ配置した。
「おお!何をしている!早く俺の元に持ってこないか!」
「は、はい!!!」
モラオはコラオを抱えてやってきた。
「い、いたいよお…」
コラオは【紫毒】の痛みに耐えかねえて泣いている。
辛かったろうに、苦しかったろうに。
今から俺が【支配】による救済を与えよう。
コラオの腹に手をかざした。
わずか数秒。
最後に、一瞬だけ力を込める。
「あっ…?」
コラオが本来その年齢では体験することもない感覚に身を震わせる。
手を離すと、【紫毒】は影も形もなく消えていた。
「コラオ?」
オークの母親は信じられないといった声を上げる。
「なおった…」
コラオは信じられないといった声を上げる。
そして、自ら立ち上がり、俺にかけよった。
「ありがとうおにいさん!あたし、おにいさんのおよめさんになる!!!」
可能性に満ちた少女 コラオ(【強化】後)
種族:オーク
クラス:子供
ランク:C
近接:0
魔法:0
統治:0
智謀:7
スキル:なし
個性:【盲従】
一口コメント:可能性は未知数
服従条件:びょうきをなおしてくれたひとのいうことならなんでも
どうやら、命を救ってくれた俺に【盲従】してくれるらしい。
ありがたいことだ。
「すまない。俺はもう好きな人がいるんだ」
「えー、つまんないの。なにかおかえしがしたいのに」
「じゃあ、俺のお願いを聞いてくれるかい?」
「うん!」
俺は、この年端のいかぬ少女にお願いをすることにした。
今後コラオとその血を継ぐ女性が200年に渡って継承する、祝福と呪い。
「好きな人ができたら、その人とたくさん子供を作ってくれ」
「こどもをつくる?わからないけどわかった!」
コラオは俺の話の意味も分からないまま了承する。
その瞬間、200年に渡る【永遠の平和】の契約の1つが結ばれた。
残酷な話だが、子供の方が洗脳しやすい。
「そして、女の子も男の子と負けないぐらい可愛がるんだよ。教育もきちんと施して、女の子もきちんと発言できる社会を作ってくれ」
「…?」
「ははは。難しい話だったかな。とにかくうんと言ってくれればいいんだ」
「うん!」
要するに、俺と俺が作り上げた王国に好意を持つ女性を世に生み出して欲しい。
決して悪いようにはしないから。
「そして、みんなが仲良く暮らし、争いなく暮らす世界の大事さを、子供たちに伝えてほしい」
男性であれ女性であれ、子供のうちから闘争心に目覚めることがないように。
カクレンの仇を打つなどという企てを起こさないように。
「うん!」
コラオは全て了承した。
どれ一つとっても、オークの女性にとって悪い話ではない。
戦争による惨禍をもっとも受けるのは、他ならぬ女子供なのだから。
俺がカクレンを早期に討ち取らなければ、非戦闘員も多くが犠牲となっていただろう。
だから、服従条件を満たさない人物でも承諾できる命令のはずだ。
コラオは偶然服従する形となったが。
「ドミー将軍!私の子供も治療してください!」
「1年前の怪我で歩けなくなりました…このままでは家族の役に立てません」
「どうか、どうかこの老婆に命を与えてくだされ…!」
奇跡の御業を見て、前列の女性たちは色めき立った。
「さあ!!!来るが良い!!!このドミーが命を与えてやる!戦争で奪った命よりも多くの命を、いずれこの俺が救おう!!!」
俺もそれに応え、治療を求める女性の元に駆け寄る。
「俺の手を触れ!!!」
重大な疾患や怪我に苦しんでいた女性約1500人。 過酷な草原地帯では、その多くが1年以内に亡くなっていただろう。
俺は彼女たちを救う代わりにー、
当人とその子孫たちの意思を得た。
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前列はあらかた終わり、新たな女性たちが姿を表す。
まず現れたのは20代の女性オーク。
「お前がクズべか」
「は、はい…」
「お前の才能を見てやろう。手を差し出せ」
「手を…あひゅん!?」
差し出された手を触り、【支配】を完成させる。
ーコウトさん。病人や怪我人は後は、才ある女性を連れてきてください。
ー才ある女性…
ーオークは男性中心の社会。才あれど認められず、鬱憤を抱えている者もいるでしょう。
ーそこまでご存知でしたか。このコウトが連れて参りましょう。
クズべの腕を触り、ステータスを確認する。
認められぬ才女 クズべ (【強化】後)
種族:オーク
クラス:独身女性
ランク:B
近接:3
魔法:0
統治:91
智謀:78
スキル:なし
個性:【算術】【農学】【工学】【鬱憤】
一口コメント:統治に適したスキルを複数有している
服従条件: 一度でいいから、才能を発揮したい
「素晴らしい!!!」
俺は素直に感嘆する。
「草原地帯でどのようにして学を積んだ?」
「こ、交易でムドーソの書物がいくつか流れてきました。それを読んで…」
「ただ読むだけではなく、しっかり会得している。世に出なかったのが不思議なぐらいだ」
「ドミー将軍!」
クズべは叫んだ。
「私は女です。草原ではいくら女が学を積んでも、誰も認めてくれませんでした…たかが女風情がなにをしているのだと」
「やれやれ、周りの男共は、よほど見る目がなかったらしいな」
「そんな私を、本当に見出してくれるのですか!?」
「もちろんだ!!!」
俺はクズべの想いに負けないよう叫んだ。
「コウトのもとへ行け!お前の才を生かす場所を与えてくれるはずだ」
「ありがとうございます…!」
「その代わりー」
【支配】を完成させてクズべに微笑みかける。
「俺のお願いを聞いてくれ」
こうして、クズべとその子孫たちにも、俺の因子が受け継がれた。
「さあ、クズべのほかにも、自らの才を認めて欲しい者はいないのか!?」
「あたしには狩猟罠を作る才能がある!!!」
「家畜のことなら誰にも負けない!!!」
「ドミー将軍、お願いします!!!」
クズべをきっかけとして、才ある女性たちは次々と立ち上がる。
その数約1000人。
いずれも俺が才能を見出すかわりに、【永遠の平和】へ参加することとなる。
もちろん、当人はそれを知らなかった。
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ここで夜が来る。
当然だが長丁場だ。
1日で終わることはないだろう。
だが、最後までやり遂げるつもりだ。
「ドミーさまは皆に命を下さった!!!」
「才能も見出してくれますよ!!!」
「早く、早くこの手を触るのです!!!」
「草原に繁栄と平和ともたらしてくれるのは彼しかいない!!!」
「ドミー将軍に栄光あれ!!!」
【支配】した女性の中でも、特に好意的な者は俺を手伝ってくれた。
その数、約800人。
迷っている者を俺の元へ手際よく送ってくれる。
800人の女性が尽くしてくれるとは、男性として悪くない経験だ。
そうか。これが、そうなのだな。
俺は、このスキルを行使して初めて楽しいと思った。
俺が内心に秘めていた欲望を解放してくれるからだ。
俺自身の欲望、それはまさしくー、
背後に殺気。
想定内だ。
迫りくる短刀を交わし、俺を暗殺しようとした女性オークを確認する。
昨日ノインの娘ホーチョに襲われてから、もう1人ぐらいいると思っていた。
俺は、数千人の未亡人を作っているのだから。
「…誰の妻だ?」
「タンセキの妻、ホジエン!!!早く殺せ!!!」
「殺さない。和議に反するからな」
「ならばー」
ホジエンはせせら笑った。
「いずれ再婚して男子を産み、私の代わりに復讐させてやる!!!女の私の代わりに!!!」
「まだ新婚だったのか…せっかく生んだ子供に殺人者の道を選ばせるのは感心しないがな」
「うるさい!!!」
結局のところ、口先だけの和議では、平和は20年と持たないだろう。
ホジエンのような女が男児を産めば、復讐を囁くはずだ。
男児も、それを無邪気にそれを聞くだろう。
戦争の恐ろしさをなにも知らないのだから。
俺は、再びオークを鎮圧しにいくような真似はごめんだ。
だからー
「積極的に協力しろとは言わない」
俺はホジエンにも手を伸ばした。
頭に触れる。
「あ…」
「恨みを忘れ、幸せに生きろ」
呪いを掛けた。
==========
レムーハ記 戦争伝より抜粋
幾度かの小休止を挟みつつ、王はオーク女性17000人と手を結んでいった。幾人かの未亡人が抵抗するも、王が手に触れると、たちまち敵意を消失させたという。
結局、すべての女性と接触するまで、7日を要した。
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