第152話 民族【支配】に至る条件
レムーハ記 戦争伝より抜粋
王が【道化】と会談を行なってから2日後。
ムドーソ王国と【カクレンの乱】への参加者を出したオーク諸部族30000人の間に、【草原の和議】が結ばれた。
ムドーソ王国側代表として参加したのは、【将軍】ドミーと【道化】ドロテー。
オーク民族側代表として参加したのは、【女王】コウトを筆頭とした『和平のための連合』所属の16人。
ー【ブルサの壁】の放棄
ー【ザラプ合意】撤廃による交易正常化
ー降伏した叛乱軍3500人の恩赦
ー偶発的衝突を回避するための窓口設置
ここまでは無難な条件に見えたが、最後の1つはオーク側代表を驚愕させた。
だが、【女王】コウトの強力な後押しにより、やや強引ながら決定される。
数十年以上経過しても、王の真意は謎のままである。
実行だけで1週間以上の時を費やす、壮大な条件であった。
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【ブルサの壁】の【征服門】を境とし、人間(といってもほとんど【ドミー軍】だが)オークが向かい合う。
人間側は1000人、オーク側は30000人と、向こうのほうが圧倒的に多勢である。
だが、スキルの有無という絶対的な違いが、両者を対等の立場としている。
俺はライナとミズアの両者を護衛として伴い、【道化】と合流した。
「…いこうか」
「はい」
【道化】は素っ気ない態度で対応すると、【征服門】へと入っていく。
そして、門の上部に建てられた櫓へと向かった。
先日の戦いで半壊状態となったが、大急ぎで修繕して、なんとか本日の和約締結に間に合わせている。
『和平のための連合』は、すでに櫓の中で待機していた。
「「「【将軍】ドミーさま、お待ちしておりました」」」
「ご苦労」
「…よろしくね」
コウトに命令し、【道化】の名は呼ばないよう指示していた。
ムドーソ王国代表としてどちらか主か、はっきり示していく必要があるからな。
【道化】は少し表情を変えたが、何も言わなかった。
これも政治である。
中央に設けられた木のテーブルと椅子に全員腰掛ける。
ライナとミズアは、俺の背後に立って警戒を行った。
櫓の手すりには鳥が一匹。
ゼルマのスキルで召喚した人工の鳥である。
会議場および集結したオークたちを監視し、何かあればすぐ知らせる。
和議を結ぶ準備は整った。
「では、始めましょう」
「人とオークが争うことなく共存する、新たな時代を」
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とかっこつけたはいいものの、この会談そのものに大きな動きはない。
すでにムドーソとオークで条件に対する同意は得られている。
あとはそれを互いに確認し、【道化】が条約の中身を記した羊皮紙にサインするだけ。
人間陣営、オーク陣営それぞれ1枚ずつの2枚だ。
それを交換し、条約の発効とする。
ー人間の国家同士の条約で用いられる【誓いの紙】だ。劣化を防ぐスキルが施されているから、外交文書として末長く残ることになる。
ー…【道化】、じ、実は俺字はあんまり…
ーははは、ムドーソを滅ぼさんとする男とは思えないな。名前が書ければ良いから練習したまえ。
というわけで内心ヒヤヒヤしながら自分の名前を書いているのだが、なんとか形にはなりそうだ。
【将軍】ドミー
しかし味気ないな。
俺も、貴族のようにフォンの称号を名乗りたいものである。
良い案がないか、ライナとミズアに聞いてみよう。
そういえば、2人はどうしてるのだろうか。
振り返ってみると、やや離れたところに2人はいるがー、
「…すぴー」
ライナは立ったまま寝ていた。
「…」
ミズアは困ったような表情を浮かべ、声を出さず口を動かす。
ーどうしましょう?
俺も、声を出さず口を動かした。
ーライナはー、
ー腋が敏感だ。
ー…了解しました。
「ひふん!?」
ミズアがライナに刺激を与えたのを確認して、会議の場に向き直った。
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夕方。
会談はあらかた集結し、俺以外の人間とオークの代表は【征服門】を離れた。
そして、俺は【征服門】の上から、両陣営にあることを告げる。
やりたいことがあったからだ。
ーみなさん、この【征服門】は【ドミー軍】の手で破壊させてください。条約には関係ありませんが、どうしてもやりたいのです。いいですね?コウトさん。
ードミーさまが良ければ。
ー…そんなことしてどうするの?
ーケジメってやつですよ。
「この場所に集った全ての人間とオークに告ぐ!!!」
誰も声を発する者はいなかった。
そのまま続ける。
「オーク民族征服の記念として建造された【征服門】は、これまで血なまぐさい事件の舞台となってきた!80年前にはここでオーク側の使者16人が処断され、7年前には【英雄】カクレンの母が晒された!カクレンの乱でも、人間側の捕虜16人が殺害されている!!!」
要するに、【征服門】は人間とオークの報復合戦の象徴的存在だった。
だからこそ、カクレンもここで捕虜を斬った。
そのような歴史はここで終わりにしよう。
「平和を愛するムドーソの将軍として、いや、1人の人間として、せめてこの門だけでも我らの手で破壊する!!!」
そこまで言い切ると、俺は【征服門】を降りた。
門の入り口にたどり着くと、少し離れたところに、ライナが待機している。
ミズアも一緒だ。
「準備はいいな」
「うん」
すでに【強化】は終えてある。
軽く息を吐いて、俺は通達した。
「放て!!!」
「【ファイア・ダブル】!!!」
ライナは【ルビーの杖】から炎魔法を放った。
瞬時にスキルによる炎が【征服門】を包み込み、石造りのはずの城門が激しく燃え上がる。
スキルによる炎は通常の炎とは違う。
みるみる【征服門】は崩れ、崩壊していった。
オーク側からも、【征服門】が崩れていくさまがよく見えるはずだ。
抑圧された象徴である建造物が破壊され、内心は喜んでいるに違いない。
ついに人間とオークが対等になる日が来たのだと。
カクレンの叛乱には、意味があったのだと。
多くの者に、気の緩みがあるはずだ。
その間に、オーク民族【支配】の礎を築こう。
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「さあ!!!【草原の和議】も仕上げである!!!今こそ、平和のために手を取り合おう!!!」
約1時間後。
崩壊したばかりの【征服門】を超え、俺は草原に集結するオークに呼びかける。
前面に整列しているのは、全員女性だった。
「和議の最後の条件を、今こそ果たそうではないか!!!」
【草原の和議】の最後の条件。
集結したオーク30000人のうち、女性17000人と手を取り合うことである。
オーク民族50万人を俺のスキルで【支配】する事業の、第一歩であった。
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