第148話 正体

 「◯ック◯ってなんだ?」

 

 まず口をついて出てくるのは疑問。

 そして軽い失望。


 ー以前、コンチさまに映像を見せられたかと思いますが。


 「そういえば、そんなことがあった気がするな…」


 もはや昔の記憶。

 俺が【ビクスキ】を授けられた日の夜、こことは別次元の世界と称して見せられたさまざまな光景。


 その中に、裸の【男性】と【女性】が抱き合って何かをしていた。


 だがー、


 「それが、今の俺にとって役に立つのか?例えば、この面倒な戦後処理が簡単になるとか」


 ー即何かの役に立つ要素はありません。


 「はあ…おいナビ」


 コンチもつまらん真似をするものだ。


 「俺がスキルを授けられてはや半年。あの小癪な神の言うことに従って…るかは分からんが、数千人の女を【支配】し、期待に応えてきたつもりだ。そうだろ?」


 ーそうですね。コンチさまもやっとと喜んでおいででした。


 「それに対する報酬が、このよくではあまりに寂しいじゃないか。俺は民族の征服などというに取り組んでるというのに。まあ、この前の治癒の能力はかなり役に立ったがな」


 ー申し訳ありません。


 「いや、お前が謝ることではない。次のレベルアップはもっとマシな特典をくれとコンチに伝えてくれ。レベル2はライナ1人の【支配】で達成できたが、レベル3は2000人。レベル4まで6000人。次はレベルアップまで何人かかることやら…」


 ードミーさま!


 「なんだ?」


 ー聡明なあなたならお分かりになるはずです。なぜか。


 「そんなことは分かり切っている」




 「子が生まれず人口が減っているからだろ?ロザリーと大陸中を回ったから承知している。そんなことは俺にどうこうできる問題ではないがな。歴史上【男性】が子孫繁栄に関与したことは一度もないし」


 ー…


 「とにかく、コンチには文句を言っておけ、それじゃあな」


 

==========



 コンチさま向け報告


 【男性】ドミー。レベルアップするも、覚醒まで至るには未熟と判断






 【女性】側からの働きがけが必要



==========



 「俺にとって、権威とは自称するものです。誰かに認められる必要はありません」

 

 というわけで、哀れなランケと【道化】を【奇跡の森】の出口で迎えるまで、俺は寝る間もなく戦後処理を数日間続けていた。

 ランケは不要なので、早々に追い払う。

 正直クタクタではあるが、疲れるわけにはいかない。


 ランケではなくこの【道化】とどのように対話するかで、【ドミー軍】全体の運命は変わってくるからだ。

 

 【アーテーの剣】所属エリアルの証言によって、ランケは俺の排除を狙っていると判明している。

 というわけで、正直信用できない。


 あの場で【支配】してやろうかとも思ったが、ムドーソ城での顛末を見る限り、それだけの値打ちは薄いと見た。

 精々、秘書官という名目で、貴族どもの使い走りでもやらされているのだろう。

 【支配】して使い捨てることもできるが、王国の無血占領を狙う方針と相反する。

 たとえランケのような小物でも、王国滅亡の日まで生きていなくてはならないのだ。


 そこで、俺は【道化】を交渉役に選ぶことにした。

 俺の叛逆まがいの謁見行為にとして。


 【道化】は公的な権力を持たない文字通りの道化を装っているが、恐らくー


 「で、どうしたらいいの?」


 考えを巡らせていると、しびれを切らして【道化】に話しかけられた。

 いかんいかん、隙を見せては。


 「ひとまず、【ドミー軍】の陣営にてお休みください。何もなくて恐縮ですが」


 「そして、夜に改めて話し合いましょう。オークと結ぶ和平条約の内容を」

 


==========



 「ふはははは!久々に俺の【ジャンピング土下座】が冴えわたるぞおおお!」

 「やれやれ、【道化】は私とは違うのよドミー」

 「いざとなれば、このミズアも【ジャンピング土下座】します」

 「いややらなくていいから!」


 夜となり、俺はライナとミズアと共に会見場所へと入った。

 人気のない草原地帯に、コウトから借りたオーク民族の移動式住居【ユルタ】を1つ設置している。

 聞かれたくないこともあるからな。


 とりあえず初手は土下座でもしてやろう。

 有利な立場だからこそ、あえてこちらから下手にでるのが交渉の鉄則だ。


 あとは【道化】を待つだけ。


 「…来たか」

 人の気配。

 背の小さい道化服の女性。

 さて、俺の秘技をー


 「おねがい!!!」

 「えええ!?」


 俺が体制を整えるより早く、【道化】は【ジャンピング土下座】を発動した。

 並みの使い手ではない。

 素早いだけではなく、所作も完璧だ。


 「どうか、むどーそにはんらんだけはおこさないで…!」

 「…」


 どうやら、思ったより評価されているらしい。

 もちろん俺の人格をではない。

 7年ぶりにムドーソで復活した軍事勢力、【ドミー軍】をだ。


 なら話が早い。

 だがその前にー、


 「【道化】さま、そろそろ道化を装うのはやめましょう」

 「…え?」


 「あなたはただの道化ではない」




 「恐らく、Aランク相当の戦闘スキル保有者だ」


 



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