第144話 新たなる誓いと支配

「俺にとって、権威とは自称するものです。誰かに認められる必要はありません」


 俺は【道化】の前で言い切った。

 これも戦後処理の一環だ。

 【カクレンの乱】が終結した今、ムドーソ王国にとって最大の敵は

 粛清されぬよう、先手先手を打っていかねばならない。


 …ずいぶん強気じゃないかって?


 そりゃそうだ。


 【ドミー軍】に加え、俺は追加の戦力を手にしている。

 カクレンが敗死した日の夜に。



==========



 ライナとミズアは、夕方になって戻ってきた。 

 「カクレン、討ち取ったわ」

 「副官のトゥブもです。…ライナとミズアが来る前に亡くなっていましたが」

 「カクレンは、部下の降伏を口にしたか?」

 「ええ。立派な最期だった」 

 「ドミーさま、どうしてカクレンが部下の助命を口にすると分かったのですか?」

 「カクレンがもっと犠牲を厭わない戦い方を敢行していれば、俺たちは苦戦を免れなかっただろう。だが、【ブルサの壁】を占拠してからの行動は、慎重そのものだった」

 「彼は立派な武人でした。恐らく、ドミーさまの予想も当たっていると思います」

 「とにかくご苦労だった。遺体は【ドミー軍】数人に回収させている。ひとまず休んでくれ」

 「でもー」

 「しかしー」

 「後は俺の仕事だ」


 ライナとミズアが反対しようとするのをやんわりと諭す。

 「お前たちはもう1日分以上の働きをしている。…だから休んでくれ」

 「…そうね、そうする。ありがとう」

 「ドミーさま、後はよろしくお願いします」


 早朝から続いてきた【ブルサ回廊の戦い】も、ほぼ終焉を迎えたことになる。

 あとは【ドミー軍】とウエン公の軍勢で包囲している叛乱軍約3500人だがー、


 「ドミー将軍!よかった!死んでない!めっちゃ嬉しい!!!」

 その時、背後から声がした。

 この珍妙な話し方はー、


 「レーナ!!!」

 「将軍!!!」

 

 ムドーソ王国に援軍要請のため派遣した、長距離走に優れる【持久】の個性を持つ【ドミー軍】の一員である。



==========



 「よかったあ…将軍も【ドミー軍】の皆も無事で…めっちゃうれしい…」

 「ああ。レーナも無事でよかった」

 レーナは涙ぐむ。

 自らの任務を達成するためとはいえ、仲間のもとを離れ奔走していたレーナの苦労は相当なものだったろう。

 殺伐とした戦場で気を張っていた俺も、束の間安らぎを得られた。

 「って、泣いてる場合やなかった!将軍!もうすぐここに800人の援軍が到着するで!」

 「マジ!?」

 「大マジ!ムドーソの援軍やないけどな。各地から集まった義勇軍800人。レジーナって人が率いてる」

 「そうか!ちょうど人手が欲しいと思ってたところだ。やはり、この戦争の戦功第一位はレーナに決まりだ!」

 「そ、そんな!」

 レーナは戸惑った。

 「うちは何もしてません!ただ走っただけでー」

 「それで得られたものが大きいんだ。レーナがいなければ、【ドミー軍】は【ドミー城】に籠ることすらできなかった。戦場で武を振るうことが全てやないんやで?」

 「いや語尾移ってるし!…でも嬉しい。将軍の配下にいられてよかった」

 「よし!」


 俺はレーナとやろうとしてできなかったことを行う。

 「お前とは家臣として特別な誓いを結びたい。例えばー」

 「【ハーレムの誓い】じゃなくてええで」

 「お、おい。何も辞退しなくても」

 「ハーレムの条件は将、やろ?うちは使者としてムドーソ全土を走り回らなあかん。両方を満たすことは無理」

 「そうだな…」

 「だからー」


 レーナは胸を張る。

 「うちだけの、オリジナルの誓いがいい」

 「分かった!」

 

 「【将軍】ドミー!レーナの秘めたる才能を愛し、ムドーソ全土への使いを命じると誓う!!!」

 「【使番】レーナ!自らの才を愛する男性のため、ムドーソ全土を駆けると誓う!!!」


 何度か失敗したが、ようやくレーナと【使番の誓い】を交わすことができた。

 俺が全土に支配を広げるほど、レーナの役割は重要となるだろう。


 レムーハ記 人物伝より


 使番レーナ


 功臣序列第20位。【ドミー軍】の一員だったが、戦闘向けのスキルを持たず悩んでいるところを見出されたと言われている。戦闘には一切参加しなかったが、遠方への使者や味方の軍勢に対する使者として重きを成した。



==========



 というわけで、レジーナ率いる800人を喜び勇んで迎えたのだがー、


 「降伏勧告ですと!?あり得ませぬ!!ここまで来ればオークを皆撃滅し、王国の安全をはかりましょう!!!」

 

 端的にいうと、レジーナは敵の全滅を望んだ。

 なんでも祖父が軍人だったそうで、このような戦いの機会を密かに待ち続けていたらしい。


 「レジーナさん、もはや状況は戦後に向けて動いているのです。血生臭い行為は我ら【ドミー軍】が果たしました。今は武器を収めー」

 「いいえ!報復あるのみです!!!」

 「…」

  

 仕方ない。

 【ドミー軍】のように、お互い了解を得ながらというわけにはいかないようだ。


 「レジーナさん」

 

 「…あそこの木陰で話しましょう」 


 それに、レーナの面子を潰すわけにはいかない。



==========



 「くひいいいいん!?」

 というわけで、油断した隙に一瞬で支配を完了。

 念のためステータスを確認する。


 1.鉱山経営者レジーナ(【強化】後)


 種族:人間


 クラス:経営者

 

 ランク:C


 近接:3


 魔法:4


 統治:76


 智謀:42


 スキル:【ダウジング】


 個性:【金属発掘】


 一口コメント:軍人には向いていない


 服従条件:鉱山利権は絶対守り切る!


 …うん、【強化】してこれでは、報復などしないほうが本人のためだ。

 【ダウジング】は特殊な棒を使って金属の居場所を探知できるらしい。


 せっかくなので、試してみたいことがあった。


 「レジーナ。鉱山利権はこの俺が保証しよう。なんなら、後で誓約書も書いてやる」

 「本当ですか!?」

 「その代わり」


 肩に手を置いた。

 「俺に服従しろ」

 「はいいいいい!」


 服従条件を満たすことで、レジーナは完全に俺の支配下となった。

 その気になれば、自殺も命じられるらしい。


 「それじゃ…ジャンピング土下座!」

 「はい!」

 「普通の土下座!」

 「お手!」

 「喜んで!」

 「…分かった、もういい」


 事前の説明は嘘ではないようだ。

 だが、乱用するのはやめておこう。


 「レジーナ」

 時間がないので、本命の命令を伝える。


 「ここに、800人の内重要な地位にある者を10人ほど連れてこい。俺の【支配】が完了すればもう10人。それが済めばさらに10人だ」

 「わ、分かりました」

 「時間がない、急げよ」


 800人を手当たり次第に触っていくと、どれぐらいの時間がかかるのだろうか…

 そんな馬鹿げたことに挑戦した人間はいないので、実際にやるしかなかった。



==========



 久々のコンチさま向け報告


 【将軍】ドミー、796人の女性を【支配】成功

 うち1人は【服従条件】まで達成

 【支配】人数6000人を突破






 レベルアップ間近


 

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