第134話 愛する者
「続けえええええ!【オークの誇り】を取り戻し、歴史に名を残すのは今ぞ!!!」
【ドミー軍】が構築した、重厚な防御陣の右翼方面。
ウエン公から離反し、1000人を率いて参陣したノインはひたすら突き進んだ。
敵の【魔法系】スキルが無数に飛び交い、多くの同胞が一瞬で命を落としていく戦場を。
すでに何箇所か負傷していたが、戦場がもたらす興奮によって痛みは感じない。
「ノインさまに後れを取るな!!!」
「動けるものは這ってでも歩け!!!」
付いてくる部下は志願した約100名ほど。
残りは後方に預けている。
部下のほとんどに生存の可能性を残す代わりに、自分は最前線に赴く。
それが新参者としての交換条件であった。
ほかの右翼攻撃隊はほとんどが討たれるか負傷し、退却している。
最も兵力を集中させた右翼がこれでは、左翼と中央は言うまでもないだろう。
ノインと彼が率いる部隊は、それでも諦めない。
「さあ!我らが一番乗りだぞ!!!」
奇跡的にたどり着いた【奇跡の森】の直前で、ノインは走り出す。
最初から全力疾走すると目立ちすぎるため、ギリギリまで耐えた。
奇襲の効果を生み、森がみるみる近づいていく。
「通すな!」
察知した敵兵の1人が炎魔法を放つが、すんでの所で回避。
なんとか、森にたどり着いた。
「ノインさまに続けえええええ!」
続いて、わずかに生き残った部下も突入する。
「さあ!最後の一兵まで暴れようぞ!!!」
森内部を見たところ、【近接系】スキル使いは数名ほどのようだ。
ほとんどが木に登り、【魔法系】スキルを放っている。
1人だけでも道連れにー、
「将軍が援軍に現れたぞ!」
敵兵の1人がそう叫んだ。
声がした方を見ると、離れた場所で5人ほどの人間がこちらに殺気を向けていた。
先頭には、プレートアーマーと盾を構えた大柄の人物。
間違いない。
敵の大将だ。
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右翼をなんとか突破した敵兵約30名は攻勢の限界に達しており、疲弊していた。
それでも、大将である俺を見て色めき立つ。
「あれが大将だ!!!討ち取れえええええ!」
わき目もふらず突進を始める。
それしか選択肢がないからだ。
生死を度外視した捨て身の攻撃。
よってー、
背後から迫っていた【近接系】スキル使い、残り5名には気付けない。
「【スラッシュ】!!!」
ある者は剣で一刀両断されー、
「【アイス・ランス】!!!」
ある者は槍に接触した瞬間に凍り付きー、
「【咆拳】!!!」
ある者は拳で骨ごと砕かれる。
射程距離は短いが、その分味方を巻き込む恐れが少ない【近接系】スキル使い。
躊躇なく全力をふるい、背後から打ち倒した。
「なっ!?」
「卑怯な!」
何人かが奇襲に気づき足を止めるが、それは死への入口に他ならない。
「残らず仕留めろ!!!」
「「「はっ!!!」」」
俺を先頭に、残り5名も敵を葬らんと突入する。
ー俺が先頭に立って敵の攻撃を引き付ける。その隙に倒せ。
ーそんな、危険すぎます!
ー案ずるな。もう何度もやっていることだ。
「お前だけでも!!!」
部下からノインと呼ばれたオークが、俺の相手だった。
挟み撃ちにされても怯むことなく、槍を構えて突進してくる。
胴体を確実に刺し貫く、必殺の一撃。
だからこそ読みやすい。
体を反らしながら、右腕の盾に槍を当てる。
槍は鋭い金属音を立てながら盾の表面をえぐるが、俺の急所には届かない。
「くそおおおおお!!!」
敵が激昂する声を聞きながら、左手で初めて使う武器を抜いた。
護身用の短剣。
こんな戦いでは、ライナとミズアに叱られるな。
こちらに向かっているであろう2人の身を案じながら、ノインの首に短剣を突き立てた。
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オーク兵30名を仕留め切るまでに、1人の負傷者が出た。
腕を切り裂かれている。
接近戦はやはりリスクが大きい。
「申し訳ありません…」
「謝罪する必要はないぞアルビーナ。予備軍の隊長として、立派に責務を果たした」
「はい…あっ…」
腕に触れることで、傷を治した。
アルビーナは恍惚とした表情を浮かべる。
「続きは、勝利を得た後でお願いします…」
「ああ」
続いて、俺は倒れ伏した人物に近寄る。
先ほど倒したノインだ。
まだ、かすかに息があった。
「1つ、聞きたい」
「…殺せ」
「愛する者はいるか。伝えたいことがあれば聞く」
「…お前に、何の関係がある」
「…ただの偽善だ」
ノインは少し戸惑ったが、話した。
「勇敢なる戦士よ。妻と娘に、申し訳ないと伝えてくれ…」
「分かった」
そして事切れた。
ー人もオークも、左手に愛する人を抱きながら、右手で憎む存在を殺すことがあります。
ー例えここに戦士しかいなくても、誰かが傷つき命を落とすたびに、非戦闘員や弱者の人生さえも破壊される。それが戦争というものだ。
せめて、自分が直接手にかけた者だけでも、最期の願いを聞き遂げてやりたかった。
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「敵が接近してきます!」
感傷にひたる間も無く、戦争は再開された。
6000名のうち、すでに4000名は手酷い打撃を受けているにも関わらず。
再び右翼からだ。
だが、敵に唯一無傷で残った2000名ではない。
「最初の攻勢で撃退された者の残党のようです」
無謀だ。
中央だけで無く右翼への攻撃も失敗した以上、もはや勝ち目などない。
無駄に屍を晒すだけ。
後方に無傷の2000名が待機しているが、不気味に静まり返ってる。
もはや何かを待っているかのようー
「いや…そういうことか」
「は?」
アルビーナが困惑の表情を浮かべる。
「奴らが姿を見せないのはおかしいと思っていた」
「敵の作戦が分かったぞ!」
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