第133話 撃退
レムーハ記 戦争伝より抜粋
かくして、【ドミー軍】と叛乱軍は【最後の30分】と呼ばれる正面衝突へと突入する。
王はムドーソ王国を守護する任務を命じられたわけではなく、【叛逆者】カクレンはオーク民族全体の代弁者ではない。
むしろ、両名とも少数派として排斥され、虐げられる身であった。
それでも、己が信じる信念とそれに付き従う者たちのために、争いを続けた。
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「街道を突破しろ!!!」
「賊将ドミーを殺せえええええ!!!」
「女どもは皆殺しだ!!!」
敵の3分の1の2000名とは言え、こちらに向かってくる姿は壮観だ。
なにせこちらは80名しかいない。
だが、1つ重大な弱点があった。
すなわち、戦場の狭さである。
たった80名が展開する陣に2000名が殺到しているのだ。
しかも、森に阻まれ左右から包囲することも難しい。
よって、俺たちが気にするべきなのは最前列の数百名程度ということになった。
ほぼ全員が、街道に陣取る中央軍に向かっている。
俺を殺すために。
それが、この戦いに勝利する最短の道なのだから。
だからこそ、挑発する甲斐があった。
「ドミー将軍!本当に首魁を監視するだけでいいのね!?」
「もちろんだゼルマ!ここの戦場の目は俺が務める!最終的な勝利をもたらすのはお前の情報だ!」
「分かったわ!」
「将軍!先ほど依頼した通りの防壁は作れますが、動かすことはできないようです」
「それでも構わん!敵に気取られるなよアマーリエ!」
「はっ!」
最後に、傍に控えている【魔法系】スキル使いに命じる。
「エデルガルト!カルラ!【ブルサの壁】に登っている弓兵に攻撃を続けろ!当てる必要はない!牽制して敵に攻撃を断念させればいい!」
「「はっ!!!」」
準備は整った。
ー非戦闘員や弱者を巻き込まない戦争なぞ存在しない!
それでも戦い続けると若きオークは宣言した。
「さあアマーリエ!今日は最後まで働いてもらうぞ!!!」
「お望みとあらば!」
その覚悟に、俺も応じよう。
「防壁を展開しろ!!!」
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「おお!敵が丸裸になったぞ!」
2000名の先端を走るオーク兵の1人が、喜びの声を上げる。
森と街道に潜む憎き敵約100名。
その前面と側面を守護する防壁が消失したからだ。
「接近戦に持ち込めば魔法攻撃は意味を成さない!急げえええええ!」
足を早め、たった30名ほどが封鎖する街道に迫る。
多少の犠牲は仕方ない。
街道を中央突破し、敵の大将を殺害すればー
だが、その想いはむなしく阻まれる。
「がっ!?」
「ぐがっ…」
「…!」
敵の目前まで達したとき、半数以上の者が足を止めたからだ。
いや止めざるを得なかった。
見えない壁に阻まれたからである。
直前までまったく視認できなかったため、勢いよく突進したオーク兵の多くがそのまま激突し、一部はそのまま命を落とした。
「待て!一旦前進を…」
生き残った者にも残酷な運命が待ち受ける。
後ろからは総勢2000名の歩兵が続いているのだ。
悲鳴や懇願は届かず、全員続々と壁に向かって突撃していく。
結局、ほとんどが見えない壁と兵士に阻まれ命を散らした。
「壁がある!通れる場所を探せ!!!」
数十名の犠牲でようやく事態に気付いた叛乱軍は、手探りで通行可能な場所を数か所発見する。
「何としてもたどり着くのだ!!!」
百名ほどが潜り抜けるも、もはや突撃の威力はほとんど失われていた。
それでも、前進を続けた。
後から続く者が通る道を切り開くために。
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アマーリエに展開させた巨大な防壁8枚には、オーク1人分が通行できるすき間を用意した。
敵を分断し、1人1人狩るためである。
【アーテーの剣】が、馬のように簡単にはひるまないオークに対応する、防壁のヒントを与えてくれた。
俺自身を囮とし、防壁をこれ見よがしに解除する偽装工作も行っている。
左翼、右翼からの援護を最大限受けられる中央へ誘引するため。
「腕に自信がない者も心配ない!!!撃てば敵に当たるぞ!!!」
「「「「はっ!」」」
「放てえええええ!!!」
そのため、勝負は一瞬だった。
敵を狙える位置にいる【魔法系】スキル使い全員が、先ほどのようにCランククラスの魔法攻撃を乱射する。
こちらの方が効率が良い。
「【ソイル】!」
「【ポイズン】!」
「【サンダー】!」
まずは防壁を突破できた者からだ。
「ぎゃあああああ!!!」
「うわあああああ!!」
命中、命中、命中。
色とりどりの元素からなる攻撃がラグタイトを装備していないオークたちの肉体をえぐり、その生涯を一瞬で終わらせていく。
前進も後退もまままらない。
続々と倒れ、地面を血で染めた。
「防壁を解除しろ!!!足を止めたオークどもに火力を集中!」
「はっ!」
防壁を突破できたものはたちまち全滅し、本格的な殲滅に移る。
「い、いったん後退しろお!」
いまさら怯もうがもう遅い。
「スキル斉射!!!」
「「「街道を侵さんとする者に死を!!!」」」
後退する間もなく弾丸が奔流が迫り、先行した者の後を追った。
なんとか射程外に出たとき、前列にいたオークはほとんど死亡していた。
中央を強行突破するのは難しい。
短期決戦への希望と俺の挑発に半ば釣り出された叛乱軍をそれを理解するまで、数百名が命を落とした。
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叛乱軍の第一次攻勢はこうして失敗を迎える。
多大な損害を負った部隊を後方に下げ、新たに2000名が前面に出た。
だが、突撃してこない。
「放てえええええ!!!」
弓兵を前に出し、ひたすらこちらに矢を浴びせかける。
先ほどの惨状を見た上の行動であろう。
「アマーリエ!!!ドロテーアの前に矢が飛んでくるぞ!!!」
「はっ!!!」
今度は俺の出番だ。
上空を監視し、【ドミー軍】に降り注ぐ矢のみを防壁で防御させる。
アマーリエの操作は的確で、叛乱軍の矢を寄せ付けなかった。
「今日はやけに精度がいい!流石【ドミー軍】初代総司令官だけのことはある!」
「先ほど愛する人と誓ったのです!!!【ドミー軍】は私が守ると!」
「なるほど!ゼルマもお前のような恋人を持てて果報者だ!」
【ドミー軍】総出で大々的に撃ち返してもよかったが、悩んだ結果最小限の反撃にとどめている。
一旦戦士に休息を取らせるため。
そして、痺れをきらした敵の突撃を誘うため。
もちろん、先ほどのような無謀な突撃ではないはずだが。
結局、【ドミー軍】に損害を出さないまま、敵射手100名ほどを倒した。
「エデルガルト!カルラ!【ブルサの壁】にまだ射手が潜んでるぞ!南側の狭間に3人!」
「将軍、この距離から見えるのでー」
「早く撃て!!!」
「「は、はい!」」
「あ、本当に当たった」
「人間の視力じゃないぞ…」
俺はスキルを持たずして生まれた代わりに、身体能力だけは女性を凌駕している。
とにかく、殺戮の小休止と言える遠戦はやがて終わった。
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痺れを切らしたのか、弓矢を放っていた2000名が前進を開始する。
「ムドーソ王国軍を殺せえええええ!!!」
後方から弓兵による援護射撃を受けながら、絶叫して突進してくる。
「1人も通すな!!!撃ち殺せ!!!」
再び【魔法系】スキル使いに攻撃させ、多くの死者を出すが、それでも止まらない。
弓矢が間断なく撃ち込まれるため、アマーリエは防壁による防御で精一杯だ。
防壁を無効化すれば突撃のチャンスが生まれる。
先ほどの教訓を得た敵の攻撃であった。
「右翼に敵が集中します!」
アマーリエが叫ぶ。
中央突破は無謀と見て、攻撃方面を変えたらしい。
敵も対応してきている。
「アマーリエ、留守を頼むぞ」
「将軍!?まさか…」
「ああ」
俺は、後方で待機していた予備10名に呼びかけた。
「今から右翼の援軍に行くぞ!!!」
「「「はっ!!!」」」
右腕に力を込めた。
「俺に続け!!!」
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