第131話 第二次ドミー城
レムーハ記 戦争伝より抜粋
【奇跡の森】に退却した【ドミー軍】を、叛乱軍は追撃しなかった。
騎兵隊を失うなど損害が大きく、部隊を再編する必要があったからである。
その間に、王も部隊を再編した。
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【奇跡の森】への後退、いや転身だな。
ー敵さんが追撃より部隊の再編を優先した
ー首魁のカクレンがちょうど不在中だった
ーこちらが80名と少数。
これらの幸運が重なり、無事森までの移動を成功させる。
…いくつかの集団とニアミスしそうで危なかったけど。
スキルで威嚇し、なんとか追い払った。
少人数の利点は、この時にも生きている。
大軍は何をするにしても時間がかかり、柔軟性を欠く生き物だ。
その分少人数を正面から粉砕できる破壊力を持つのだが、俺の【強化】により生み出したAランクスキル使い80名によって、その強みは潰された。
要するに、俺たちの優位は覆されていない。
そう思うことにする。
とにかく今やるべきことはー、
「道を塞げ!オークを一兵たりとも通すなよ!!!」
「アマーリエ司令官の盾をうまく使うんだ!!!」
「【魔法系】スキル使いは木に登れ!!!
【奇跡の森】中央に細く伸びている街道の入り口。
そこを封鎖するよう陣形を再編し、正面の【征服門】周辺で結集している叛乱軍6000名を待ち構えることだった。
人呼んで、第二次ドミー城だ。
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責任重大だな、これは…
スキル【ウォール・アドバンス】で陣を守護する防壁を配置しながら、私は緊張を抑えられない。
森の入り口で街道を封鎖するよう陣を構えるのは理にかなっているだろう。
街道を放置すれば、敵は森の中を移動しやすくなってしまう。
可能性は低いが、そのままムドーソ王国領方面に出てしまう危険性も否定できない。
街道は幸い20名ほどで封鎖できるため、【ドミー軍】でも守りきれそうだ。
王の指示により、陣形はこのようになっている。
中央軍ー街道を封鎖する役割を担う。総勢30人。敵主力が殺到してくることが予想されるため、【近接系】スキルの使い手を重点的に配置した。ドミー将軍、私、ゼルマ(戦闘力がないためかなり後方)も中央軍にいる。
左翼軍ー街道左手の森を固める役割を担う。総勢20人。指揮官はエディト。【魔法系】スキル使いを木に登らせ、接近する敵に魔法攻撃を叩きつける。
右翼軍ー街道右手の森を固める役割を担う。総勢20人。指揮官はヘルガ。同じく【魔法系】スキル使いを木に登らせ、接近する敵に魔法攻撃を叩きつける。
予備軍ー中央軍の後方で待機し、戦況の変化に応じて適宜投入される。総勢10人。指揮官はアルビーナ。
要するに、狭い街道と森を頼みにこじんまりとした陣を構築した。
といっても、大した防御力は期待できない。
防御の大半は、私の【ウォール・アドバンス】が担うことになる。
自由に動かせる10枚の防壁で、敵の攻撃を防ぎ切るのだ。
だが、6000名のオーク兵が繰り出す攻撃を捌き切れるかー
「あなたならできるわよ」
いつの間にか、ゼルマが背後にいた。
緊迫する戦場の中でも、平然としている。
彼女はこういう人間だ。
「おやおや。首魁の監視を任されたものがこんなところで油を売ってどうする」
「もう全然動きないのよ。かなり後方にいる。警戒されちゃってるみたい」
「なら仕方ない。この森で、亀のようにライナとミズアの到着を待つとするか」
「…ねえ」
「なんだ?戦勝の祝いなら後でいくらでもー」
「死なないでよ」
いつの間にか、ゼルマの目には涙が浮かんでいた。
「あたしは戦闘能力がないから、あなたを直接助けられない。悔しいけどそれが現実」
「…」
「でも、頑張って自分の任務を果たすから、だからあなたが帰ってこないなんて嫌…!」
ヒルデのことを、思い出しているのかもしれない。
3年前、ゼルマと私を絶望に叩き落とした友人の死。
「心配するな」
だが、ゼルマに同じ悲しみを体験させるわけにはいかない。
「私たちは生きて志を果たす。それをヒルデも望んでいるはずだ」
彼女を愛する者として。
ゼルマの手を取り優しく握った。
そして、掌に口づけをする。
これが誓いの証。
「うん…待ってるから」
ゼルマも微笑む。
彼女に涙は似合わない。
この素晴らしい笑顔を曇らせないためにも、【ドミー軍】は私が守り切る。
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「準備、完了しています」
「ご苦労アマーリエ…敵さんもそろそろだろうな」
オーク兵は6000名3つの軍団に分かれ結集しつつあった。
おそらく、事前に決定していた編成だろう。
武具を構え、殺気が漲っている。
一部は半壊した【ブルサの壁】の城壁に登り、弓を構えていた。
一度命令が下れば、矢を嵐のように降らせるのは疑いない。
そろそろ先制攻撃しておくか。
そう思った矢先、1人のオークが軍団同士の隙間を抜け、こちらにやってくるのが見えた。
武器の類は持っていない。
ということはー、
「ムドーソ王国軍指揮官に告ぐ!!!」
小柄で、若い男性だった。
「僕はカクレンの副官トゥブだ!!!話がしたい!!!」
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