第125話 勝因と理由
「決闘だと…?」
「そう、決闘」
【ルビーの杖】を構え、動きを止めたエリアルに歩み寄る。
「全部正解じゃないけど、私は確かに力が弱まってる。でも、例えCランクでもあなたには勝てるわ」
「何をいうかと思えば!!!イキがるんじゃねえよ!!!」
エリアルは怯まない。
自分より弱いと感じた相手にはとことん強気に出るのがこの女の生き方だ。
「この世界ではなあ、ランクが絶対なんだよ。ランクが強い奴が出世して、低い奴はゴミ!!!そう思ってランクを伸ばしてきたのに…」
感情が昂ったのか、涙を流し始めた。
「お前ばっかり人望を集めやがってさあ!!!ずっと憎かったんだよおおおおお!!!」
それが、本音なのね…
ずっと妬まれているとは思ってた。
私もエリアルも同じCランクだった時からずっと。
エリアルはひたすらモンスターを倒し続けてランクアップを目指したけど、私は仲間と協力する方が好きだった。
やがて私は【成長阻害の呪い】でランクが上がらなくなり、ひたすらランクアップを目指し続けたエリアルはBランクになる。
そして、約1年前【アーテーの剣】の団長になったエリアルは、Bランク未満の新規参加を禁止し、私を迫害した。
いずれにせよ、お互いが分かり合う時間はもうない。
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「じゃあ、その大好きなランクの差で私に復讐しなさい」
【ルビーの杖】から炎を少し出した。
「私の一撃をあなたが完璧に防御し、反撃して私を殺す。これで文句なしでしょ?」
「ライナ!そのような危険なことを…」
ミズアを制止して語り続ける。
「でも!Cランクの私はBランクのあなたを完膚なきまでに叩き潰すわ!!!だってあなたー」
「弱いから!!!」
そんなにランクにこだわるなら、最後まで付き合ってやろう。
ーあなた、【アーテーの剣】の新顔?私エリアルっていうの〜〜〜よろしくね〜〜〜 こっちはヘカテー!
【アーテーの剣】で初めて知り合った、旧知のよしみとして。
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「…上等じゃねえか底辺女」
エリアルは、闘志に火をつけたようだった。
「エリアルさん、こんな挑発に付き合うなんてー」
「手ぇ出すんじゃねえええ!!!」
「ひいっ!」
部下の制止を振り払う。
そして、スキルを唱えた。
「【ウォーターシールド】!!!」
エリアルの周囲に、水の防壁が4つ現れる。
「これは一番新しく生み出したスキルだ。当然だが、水の防壁は炎に対して絶大な威力を発揮する!Cランクのてめえに破られるものかよ!!!」
4つ全てが私の前に展開され、攻撃を防がんと立ち塞がった。
「全力で来いライナ!!!そのあと、お前を細切れにしてやる!!!」
「…分かったわ」
私は【ルビーの杖】を構えた。
そして目を閉じ、心の中で謝罪する。
ごめんね。
唱えたスキルはー、
「【グリント】!」
炎魔法ではなかった。
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「ぐがあああああ!!!」
エリアルの叫び声を聞き、目を閉じながら成功を確信する。
炎魔法の応用【グリント】。
威力をほとんど犠牲にした代わりに、強烈な光を放つ魔法だ。
殺傷能力と引き換えに、Cランクでも扱える汎用性を獲得している。
光を防いだ自分のまぶたを開けると、エリアルは【リバイアサンの杖】を落として倒れていた。
【ウォーターシールド】も消滅している。
4つの防壁のわずかな隙間から差し込んだ光は、エリアルの眼球を正確に捉えていた。
おそらく、数日は目が見えないだろう。
「なんで、なんで勝てないんだよおおお…!」
エリアルは嘆く。
「…簡単よ」
私は【ルビーの杖】を下ろしながら言った。
「あなたは、戦闘に慣れてない」
「…!」
「ランクアップのために知能のないモンスターを狩ることは知ってても、人間やオークみたいな知性ある存在と戦ったことがほとんどない。でしょ?」
「…」
「さっきの【ウォーターシールド】も、よくよく見ると隙だらけ。背後や上空から襲われてたら容易に倒されてたでしょうね」
ケムニッツ砦や【ドミー城】で自分の手を汚してから、なんとなく分かってきたことがある。
実際の戦闘では、常に冷静に、最小限の力で敵を倒さないといけないのだ。
力をいちいち振りかざしたら隙が大きいし、周りの味方を巻き込む危険もある。
エリアルは、恐らくそれを学ぶ機会がなかった。
いや、学ぼうとしなかった。
ランクさえあれば押し切れると信じていた。
「だから、あなたはAランクでもSランクでも私に勝てないわ」
背後でミズアが【竜槍】の構えを解除する気配がした。
決闘は終わった。
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「流石ですね、ライナ先輩」
沈黙を続けていた【アーテーの剣】の面々で、唯一進み出るものがいる。
短く切りそろえた銀髪と、小ぶりな戦斧。
【アーテーの剣】で、私と一番親しかった人物。
「イラート…」
「もしもの時は先輩を守ろうと思ってましたが、その機会がありませんでした」
「ありがとう…とにかく、私とミズアはこれでー」
「待ってください」
イラートがこちらに近づく。
「なんでオークを殺しに行くんですか?」
「殺しに…」
「結局はそういうことでしょ、先輩」
笑みを浮かべながら、後輩は話し続けた。
「【馬車の乱】以降、ムドーソ王国は軍をずっと弾圧し続けていました。だから、今の【アーテーの剣】のような無能しか残っていない。それでオークの叛乱が起こるとしたら自業自得じゃないですか」
「…」
「別に王国に忠義を尽くすわけでもない先輩が、命を張る理由なんてありませんよ。どうせ、ムドーソ王国はことが済めば先輩たちも切り捨てます」
「…そうかもね」
「だったら、イラートと逃げてー」
「それはできない」
「どうして!?」
イラートは声を荒げた。
刺激しないよう、ゆっくりと話す。
「…大切な仲間や、愛しい人を守るためよ」
「…!」
イラートは目を見開いたが、何も言わなかった。
本当は、いろんな言葉をかけてやりたい。
でも、今それはできなかった。
「行くわよ、ミズア」
「はい」
【アーテーの剣】たちに背を向け、私たちは去っていった。
森からだいぶ離れている。
急がなきゃ。
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「あーあ、また振られちゃったな」
「…どうすればいいんだろう」
「どんどん、思ってた方向から遠ざかっていく」
「…?誰?」
「!あなたはー」
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「ミズア!私のことは置いて行きなさい!」
決闘を終えて共に【奇跡の森】を目指す友人は、意外な言葉をミズアに掛けました。
「それはできません」
やんわりと否定します。
「どうして?【強化】されていないとはいえ、あなたの個性なら素早くドミーの元にたどり着ける」
確かに、ミズアには【竜槍】の加護によって【高速】の個性を獲得しています。
【強化】されてない状態ではかなり弱体化し、人を運ぶことはできません。
それでも、ライナよりは早いでしょう。
「勝利のためです」
熱くなっていた友人に、使命を思い出させました。
「勝利…」
「ドミーさまは、ミズアたちに叛乱軍の首魁を倒すという重大な任務を命じています。そのためには、1対1の戦闘に長けた槍しか使えないミズアだけでは不十分です」
「…」
「ミズアとライナ、両方が同時に戦場にたどり着くこと。これをドミーさまもお望みでしょう」
ライナは、軽く息を吐きました。
「ごめん、冷静さを失っていたわ。ミズアのお陰」
「大丈夫です」
ミズアは微笑みます。
「ライナのそういうところに、ミズアは惹かれるのです」
「ありがとう…じゃあ、行くわよ!」
「はい!」
紆余曲折を経ながらも、ミズアたちは戦場へと戻って行きました。
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