第124話 決闘

 「は、はやく逃げるのよ~~~」


 【奇跡の森】のムドーソ王国方面出口。

 私は数時間前【ドミー軍】と潜入した森を離れた。

 ムドーソ王国を守る冒険集団【アーテーの剣】の構成員17名、およびミズアとだ。


 「森を抜ければ、戦いに巻き込まれない!」

 「私たち、生きて帰れた…!」


 長時間森に潜入して疲弊していたのにも関わらず、【アーテーの剣】の足取りは素早い。

 一刻も早くムドーソ城へと戻りたいのだろう。

 手かせをはめた囚人であるはずの私たちを最後尾にして、先に進んでいく。

 

 「ねえ、アライダ。そんなに急がないでよ」


 私の腕をつかんで連行する【アーテーの剣】の女性に声をかけた。

 腕はしっかり掴んでいるものの、逃げ帰るのに必死なのか、どんどん前に行こうとする。

 

 「うるさい!この裏切者。黙って歩け」


 こちらを振り返ることもなく、アライダは足を早めた。

 

 「…我慢できそうにないの」

 「は?」

 「言葉通りの意味よ、ほら分かるでしょ?」


 わざとらしく色っぽい声を出して、体をくねらせる。


 「このままじゃ下着を汚しちゃう。そこの草むらでー」

 「そのまましろ!」

 「…はいはい」


 けんもほろろだった。

 だが、と分かったのは幸い。


 そろそろ始めよう。


 私は【炎魔導のドレス】の袖に隠していたあるものを滑らせた。

 何の変哲もない、金属製の鍵。

 人差し指と中指で掴み、手枷の鍵穴に差し込もうとする。

 さすがに一度ではうまくいかないので、何度か試行錯誤を重ねてだ。


 私は炎魔法しか使えないので、スキルで生み出した産物ではない。


 ムドーソ城のラムス街で手に入れた便利グッズ。

 久々にエリアル、ヘカテーと再開した日の午前中、道具屋【ミョルニル】で購入したもの。


 ーこいつには特殊なスキルがこめられていてね、普通の金属製の鍵穴ならなんでも開けれるよ。ただし、2回分だけ。

 ー本当に?

 ーなんなら、この宝箱を開けてみな。

 ー…開いたわね。買うわ。

 ーまいどあり!150ゴールドね。

 ーちょっと!100ゴールドじゃないの?

 ー今宝箱の鍵を開けたでしょ?それで開けると鍵はダメになっちゃうの。その分の補修費50ゴールドも追加ね。

 ー…


 【縄抜けの鍵】だ。



==========



 よし。


 数分間の格闘の末、枷はあっけなく開いた。

 枷が落ちないように支え、次なる目標達成を目指す。 


 1つ目が、私と同じく【アーテーの剣】1人に連行されているミズア。

 私のすぐ後ろを歩いているため、ちらりと後ろを振り返ってみた。 


 視線が合う。

 お互い軽く頷く。


 意図は充分に伝わっただろう。

 任せてもいいはずだ。


 2つ目が、私の前を歩く【アーテーの剣】2名が持つ武器。

 すなわち、【ルビーの杖】と【竜槍】だ。

 これを取り戻さない限り、ドミーの所に戻っても意味がない。


 隙を見てー、


 「おい!ちんたら歩いてるんじゃねえ!」

 その時、アライダがこちらに振り向いた。

 枷を見られるのはまずい。


 「きゃっ!」

 とっさに、こけたフリをして前のめりに倒れ込む。

 そのまま地面に激突し、【炎魔道のドレス】が土で汚れる。


 アライダは倒れた私をじっと眺めていたがー、


 「ふん、Cランクの落ちこぼれにはぴったりの姿だな。さっさと来い!」

 笑うだけだった。

 最終的な目標を達成できるなら、いくら笑われても構わない。

 無言で立ち上がり、チャンスをうかがおうとした時それは起こった。




 爆音と振動。

 かなり近い。

 おそらく、【ドミー軍】と叛乱軍の衝突によるもの。


 直接的な被害はないものの、【アーテーの剣】にとってそれは脅威だった。


 「きゃあああああ!」

 「敵襲だ!!!」

 「怖い、怖いよおおおおお!」


 17名の構成員は恐怖し、一時的に我を失う。


 「なんだ!?」

 アライダも、周りを見渡して状況を確認しようとした。

 こちらから注意がそれている。


 私は、それをチャンスと見た。



==========



 まずは手元にある武器を利用する。

 【縄抜けの鍵】で解除したばかりの金属製の枷。


 それを振り上げ、アライダの頭部に振り下ろす。


 「ぎゃあっ!?」

 アライダは短い悲鳴を上げ、恐らく気を失った。

 まずは1人。


 手に枷を握ったまま、前方へと走る。

 目標は、【ルビーの杖】と【竜槍】を持つ【アーテーの剣】2人。


 「お前!」

 1人が【風神の杖】で【魔法系】スキルを放とうとしたため、枷を投げつけた。

 顔に命中し、悲鳴も上げずのけぞっていく。

 2人目。


 「く、来るなあ!」

 もう1人は【金剛の剣】を抜こうとするも、動揺の余り反応が遅れる。

 素早く懐に飛び込むが、近すぎて有効な打撃技がない。

 こういう時は、頭を使おう。


 「ぐがっ!?」

 すなわち、頭突き。 

 頭蓋骨で、相手の急所である鼻をしたたかに打つ。

 鼻から血を流しながら、相手は倒れこんだ。

 これで完了。


 【アーテーの剣】で学んだ格闘術が役に立つなんてね…


 複雑な思いを抱きながら素早く【ルビーの杖】と【竜槍】を回収し、後ろにいる友人の元へ向かう。


 「さすがです!ライナ!」

 ミズアのかたわらには【アーテーの剣】が1人倒れていた。

 枷に血がついている所を見ると、手にはめられた枷でそのまま殴りつけたらしい。

 ミズアらしいやり方だと思う。


 「【ファイア】!」

 ミズアの腕に飛び火しないよう、枷に炎魔法を掛ける。

 力を一点に集中させると、枷はすぐに溶けた。

 そして【竜槍】を渡す。


 これで、2人とも自由の身になった。

 


==========



 「エリアルさん、あいつらが逃げ出します!

 「まずい!まずいって!」

 「もういいじゃねえか!逃げよう!」


 ようやく最後尾での騒動に気付いた【アーテーの剣】が、私たちと相対した。


 だが、明らかに怯えている。

 Aランククラスと言われた2人と対峙しているから当然だ。


 このまま脅かして逃走させようと思った矢先、思わぬ邪魔が入った。


 「落ち着けよゴミども!!!」

 エリアルだ。

 これまでと話し方が違う。

 【リバイアサンの杖】を構え、血走った目でこちらに近づいてきた。


 「こいつらには弱点がある。あのドミーとかいう汚らしい男がいないと、力を発揮できない。ランケがそう言ってた」


 「だから、今なら【アーテーの剣】で勝てる!!!嬲り殺しにしろおおおおお!!!」

 

 まずい。


 完全なる正解ではないが、確かに私たちは力が弱くなっている。

 ドミーの【強化】の効果が切れていたからだ。


 もう少し早く脱出したかったが、失敗すれば確実に殺される場面だったため、チャンスを慎重にうかがうしかなかった。


 「ライナ」

 「いや、待って」

 「…?」

 ミズアは【竜槍】を構えて応戦するつもりらしい。

 だけど、私は別の道を選ぼう。


 「ねえ、エリアル」

 「…あん?」




 「決闘しましょう」

 

 

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