第121話 勇ありは

 ー6000名のオーク兵を撃滅する。


 【ドミー城】の作戦会議で俺が語った言葉。

 嘘ではないが、馬鹿正直に全員を相手にするわけではない。

 こちらが80人と少人数である以上、6000人全員と真正面から戦うのはリスクが高すぎる。


 故に、まず狙うのは各個撃破。


 敵の最精鋭部隊を正面から打ち破り、残った敵の士気を崩壊させる。

 それに該当する部隊は、この戦場に1つしか存在しない。


 アルハンガイ草原でムドーソ王国軍を撃破した、叛乱軍の主力にして象徴。


 Bランク相当のスキルを無効化する黒い金属【ラグタイト】を兵馬に装備させた、オークの重装騎兵だ。

 およそ1000騎。



==========



 来るか。


 周囲の攻城兵器を破壊しながら前進する【ドミー軍】の中央で、俺は騎兵隊の変化を感じ取った。


 前に進み出た隊長らしきオークが何かを叫んでいる。

 それに呼応し、全員が一斉に剣を抜く。

 そしてー、

 

 隊長を先頭に前進を開始した。


 【ドミー城】で戦ったオーク歩兵のように、部分的にラグタイトを装備した贋作ではない。

 文字通り馬からオークに至るまで過剰と言えるほどラグタイトを装備している。

 多少機動力を殺すことを覚悟で、叛乱の首魁が作り上げた部隊。


 「停止しろ!!!ここで迎え撃つ!」


 俺は【ドミー軍】の足を止めた。

 部隊を前進させたのは、助走距離が短くなるのを嫌う騎兵への罠。

 突撃してくるなら、あえてこちらから近づく必要はない。


 「作戦通りやれば勝てる!諸君、歴史に名を残せ!!!」

 アマーリエの号令の下陣形を整えさせ、あとは突っ込んでくる敵を待つ。

 

 その間にも、騎兵はこちらに迫ってきた。

 重装備とはいえ、人間を遥かに凌駕する速度で。


 ー巻き上げられる粉塵

 ー戦を前に昂るオークの叫び声

 ー馬とオークの突撃が生み出す地響き


 まさに黒い津波となって、隊長の命令のもと、俺たち【ドミー軍】を飲み込まんとする。


 「「「うおおおおお!!!」」」


 ムドーソ王国に復讐し、【オークの誇り】を取り戻すため。


 

==========



 「俺は、皆を誇りに思う!」

 

 そのような状況で、あえて全軍に伝えた。


 「お前たちは強力なスキルを与えられても奢らなかった!辛い訓練に耐えてくれた!【ドミー城】でも指示に従ってくれた!そして!」


 この戦争に勝つための最重要要素。


 「この瞬間まで、本当の実力を隠し通した!だがらこそ、今ここで勝利を手にする!!!」


 「ドミー将軍の真似をしただけです!!!」

 「将軍は常に先陣に立ち、私たちを守ってくれた!!!」

 「今こそ、その恩を返すとき!!!」


 「「「ムドーソのためでなく、将軍のために命を捧げます!!!」


 「よし!アマーリエ!!!」

 「はっ!!!」


 無傷で勝利するための立役者に、命令を発した。



 「最後の仕上げだ!!!」



==========



 すみませぬ、カクレンさま。攻城兵器の半数を失ってしまいました…


 100余名のムドーソ王国軍を目前にして、タンセキは心の中で謝罪する。

 おそらく、何らかのスキルを使ったのだろうと予測は付く。

 だとしても、自らの油断がなければ防げたはずだ。


 責任はお取りします。ですがその前にー、


 タンセキは憎き敵の集団に目を向けた。

 草原の真ん中で微動だにしない、ムドーソ王国軍約100名。

 いや、間近で見たところ約80名か。

 みるみるこちらとの距離は迫ってくる。


 「突撃いいいいい!」

 部下に最後の激励を飛ばす。

 抜いた剣を敵に向かって伸ばし、後は接触するだけ。

 馬に鞭を加え、さらなる加速を加える。


 たかがCランクごときの防壁3枚で、我が騎兵隊を止められると思うなよ!!!


 【イトスギの谷】を攻撃した部隊から得た情報で、敵が講じる策は読めていた。

 おそらく防壁3枚を展開し、騎兵隊の足を止めるつもりなのだろう。

 騎兵突撃の威力を知らぬ人間が考え付きそうな策だ。

 そもそも3枚だけでは正面を防御するのが精々、側面に一部を回せば容易に崩壊する。


 タンセキは、勝利を確信した。




 ゆえに、予想を遥かに上回る防壁に対処できなかった。


 壁は3枚ではなく10枚出現し、前面から側面までを覆い隠した。

 情報より遥かに巨大で、なんと騎乗したオークの背丈を上回った。

 なによりー、


 動物?

 

 タンセキは驚愕する。 

 

 ー牛数頭分の巨体

 ー馬を仕留めて捕食するための鋭い牙

 ー血走った目


 草原を生きる馬が恐怖する天敵。

 カクレンさまが自ら仕留めて武名を上げた猛獣。


 「なぜだ!!!」

 タンセキは叫んだ。



 「なぜ【エリュマントス】がここにいる!!!」



==========



 「よくやったアマーリエ!!!」

 ドミー将軍が叫ぶ前から、戦果は現れていた。


 を見て、馬の足が止まったのだ。

 あと十数歩の所まで【ドミー軍】に迫ったにも関わらず、恐怖の叫び声を上げ、前進を拒否しようとする。


 太古の昔から自らを狩っていた天敵の出現が、本能的な恐怖を呼び覚ましたのだ。


 「うわああああ!!!」

 その犠牲となったのは、騎乗するオーク兵に他ならない。

 

 体勢を崩す者、馬から振り落とされる者が続出し、突撃どころではなくなる。


 「後退をー」

 何人かのオーク兵は逃れたようとするがー、


 すでに後方には後続の騎兵が続いている。

 速度を殺しきれないまま両者は激突し、数十名が瞬時に圧殺された。


 ー馬は臆病な動物で、環境の変化に敏感だ。エルムス王が勝利した【ケカの戦い】のように、それをついて多数の騎兵を破った事例は多数ある。【馬に勇はなし】はエルムス王本人の発言だ。

 ーそのために、私の【ウォール・アドバンス】が必要と。

 ーああ。が可能なのだろ?少し難易度は高いが、【ドミー軍】風にアレンジして実践しよう。


 「解除します!!!」

 私は自らのスキルで生み出した防壁を消滅させた。


 【エリュマントス】は一斉に消え去り、恐怖に怯える馬と困惑するオークが残された。

 突進力は完全に失われている。


 つまり、単なる的だ。



==========



 「馬に勇はなし!!!」

 アマーリエが整えてくれた戦場。

 【ドミー軍】に手柄を立てさせるべく、事前に決めていた合言葉を叫んだ。


 「「「勇ありは人のみ!!!」」」


 【ドミー軍】もそれに応える。


 【魔法系スキル】の使い手が、これまで見たことがない巨大な奔流を生み出した。

 【近接系スキル】の使い手は、肉体を極限まで強化し準備を整える。


 「放てえええええ!!!」


 そして、騎兵狩りを開始した。



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