旧約第7章 【ドミー軍】、82名で7000人のオーク軍を破る

第115話 潜入

 レムーハ記 ドミー王の記録より抜粋


 【奇跡の森】は、【カクレンの乱】において2つの役割を果たした。

 1つ目が、カクレン率いる叛乱軍の攻勢を阻害したことである。

 「謎の気配を感じる」と報告を受けたカクレンは森への積極的な立ち入りを禁じ、集結した大軍のほとんどを【ブルサの壁】に留まらせてしまった。

 急速に膨張した烏合の衆であったため、人間の使うスキルの恐ろしさを警戒したためと言われている。

 歴史にもしはないが、大軍を積極的に前進させていれば、【カクレンの乱】の帰趨は大きく変わっていた可能性は高い。


 2つ目が、王率いる【ドミー軍】の攻勢を支援したことである。

 オークたちが恐れ、立ち入りを嫌がったこの森をー、


 王はとして利用した。



==========



 【ドミー城】を出発して2日目の夜。

 闇に包まれる草原地帯を【ドミー軍】は前進していた。

 俺、ライナ、ミズアから成る【ドミー軍】を先頭に、総勢82名が縦列となって【奇跡の森】へと向かう。

 

 言葉を発する者は誰もいない。

 ゼルマの偵察によって周辺に叛乱軍は展開していないと確認されているが、油断はできないだろう。


 ー周囲を警戒しながら足を早めろ。


 ある意味矛盾する命令を下しているが、異を唱える者はいなかった。



==========



 ひとまず、朝までには間に合いそうだな。

 

 ゼルマからもたらされた地図で残りの距離を把握し、作戦目標の1つ目「森を利用して叛乱軍の懐まで接近する」が順調であることを確認する。


 今回の作戦は、叛乱軍が【奇跡の森】を抜けるまでに攻勢を掛けなければ破綻してしまう。

 森と【ブルサの壁】の間に広がる狭い地形の中に叛乱軍がひしめいてる今こそ、【強化】した【ドミー軍】の打撃力を発揮する絶好の機会なのだ。

 背後に【ブルサの壁】があるため、敵に逃げられる心配も薄い。

 可能な限り討ち取って、今後の禍根を断つ。


 【ドミー城】で留守を預かる非戦闘員200人のため、いや、ムドーソ王国の国民50000人を戦闘に巻き込まないため、一撃でケリを付ける。

 

 後世の歴史家から【虐殺者】と呼ばれることになっても。


 「…」

 考えを巡らせていると、ライナとミズアがこちらに近づいてきた。

 【強化】の効果が切れたのだろう。

 

 まずはライナからだ。

 【クイック絶頂ポイント】に設定している背中を優しく触り、【絶頂】へと導く。


 「…あ」

 ライナの体は軽く震え、頬が朱に染まる。

 だが、すぐに表情を元に戻して行軍を再開した。


 次はミズア。

 【クイック絶頂】ポイントに設定したお腹を触る。

 

 「…」

 ミズアは唇を噛み、震えを我慢した。 

 お腹を名残惜しそうに撫でた後、行軍を再開する。


 その姿を見ながら、作戦を2人に説明したときのことを思い出した。


 ーライナとミズアが、この戦争を早期に終結させる最後の切り札だ。2人の手を、血で汚すことになる…

 ー申し訳ない、なんて今更言わないでよドミー。覚悟はできてるわ。

 ードミーさまのためなら、喜んでこの槍を振るいましょう。

 ー…ああ。

 ーただねドミー、一つ考えて欲しいことがあるの。

 ーなんだ?

 ー戦争を終わらせたらどうするかよ。絶滅戦争でもない限り、戦後処理は必ず必要となるわ。

 ームドーソのいまだに人間は姿を見せないし、場合によっては俺自ら、か。

 ーライナの言う通りです。ミズアは槍を振るうことしかできません。しかしドミーさまなら、この無益な争いの先にあるものを導き出せると信じております。

 

 2人は、俺が勝利をもたらすこと、血で血を洗うこの局面を終結に導くことを疑っていない。

 だからこそ、俺に判断を委ねている。


 負けられないな…


 無言で決意を固め、進軍を続けた。


==========



 「…」


 【奇跡の森】が目前に迫ったころ、俺は歩みを止めた。

 【ドミー軍】も連動して歩みを止める。


 後ろについているアマーリエとゼルマを振り返った。

 俺の無言の問いかけに、表情で応える。


 異常なし。


 いよいよ潜入の時だ。

 朝はすでに近づきつつある。

 【ブルサの壁】に退路をふさがれた哀れな叛逆者の大半は、復讐を夢見て眠っているだろう。

 だが、血に飢えた夢は今日で終わりだ。

 夢から醒めるのは、早ければ早いほど良い。


 ライナとミズアに合図を送る。

 ミズアが右手に俺、左手にライナを抱え、跳躍の準備を整える。


 そして、飛翔。

 目立たぬよう、可能な限り低空で。

 滑空はほんの短時間で終わり、【ドミー団】は森の中に滑り込んだ。


 そのまま無言で警戒体制に移行。

 機動力の高いミズアが前列、俺とライナを後列とする【強襲】の連携だ。

 【奇跡の森】を踏破し、後続の【ドミー軍】が潜入する空間を確保する。


 敵は、いない。


 俺はライナに合図を送ると、強烈な光を放つ【グリント】のスキルを行使した。

 もちろん、普通に使えば目立ちすぎるので、【ドミー軍】の位置からギリギリ視認できる小ささに調整する。


 点滅が3回。

 すなわち、「前進されたし」の合図。

 

 それを受け、【ドミー軍】も続々と【奇跡の森】へと進軍していった。

 


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