第104話 【ドミー城】でオーク歩兵をざまぁする4.逆落とし
「【オークの誇り】を取り戻すために散った、アルティパ族の勇敢なる兵士たちに黙祷」
僕は【ドミー城】から引き揚げた兵士を休息させた後、犠牲者に祈りを捧げた。
カサ率いるアルティパ族の兵士たちは全滅している。
敵に全力を出させるための生贄として。
想定内だが、罪悪感を感じた。
いや、こうするしかなかったんだ…
無理やり自分にこう言い聞かせ、黙祷を続ける。
【オークの誇り】に過剰なほど執着するカサたちは、今回挙兵に参加した集団の中でも孤立していた。
いずれ今回のように猪突して壮烈な戦死を遂げるか、内部で粛清されるかしかなかっただろう。
80年前虐殺された同胞の恨みを晴らし、【オークの誇り】を取り戻す。
このような大義を掲げる以上、いずれは発生する問題。
人もオークも、感情に訴えかける大義の前に皆理性を失うのだ。
自分もその大義に酔っているのに、愚かなものだね…
自嘲しているうちに、黙祷は終わった。
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「僕の指揮がまずかったことを認める。今は撤退しよう」
集合したオーク歩兵の前で、僕はこう宣言した。
約100名の損害を出したが、ほとんどがカサの部族からだ。
【イトスギの谷】の確保には失敗したものの、敵の力量を知り、本隊にほとんど損害を出さなかった。
頃合いだろう。
だがー、
「何を言われます!死者を冒涜する気はありませぬが、カサが素直に引いていればもう少し戦いようがあった!」
「そうです!トゥブさまに責任はございませぬ!」
「一度撃退されたとはいえ、冒険者はほとんどCランク相当の実力!」
「「「トゥブさま、我々にもう一度再戦の機会を与えて下され!!!」」」
兵士たちは引かなかった。
カサ程ではないが、【オークの誇り】を取り戻す気持ちは皆強い。
「みんなの気持ちは僕も痛いほど分かる。だが、今は引こう。」
「「「いいえ!引きませぬ!!!」」」
「もし命令に従わないならー」
僕は剣を抜き、対立してでも兵士たちを押しとどめようとする。
が、すんでの所で仲裁が入った。
「兵士たちよ!この大事な時期に仲間割れはやめたまえ。トゥブさまも剣を収めてください」
「…すまない、ギンシ」
歩兵を組織することになった当初から突き従う、ギンシだった。
オーク歩兵500人の中でもっとも古株と言える存在。
ギンシの仲裁により、兵士たちも落ち着きを取り戻す。
「トゥブさま、このまま帰っては敵は勝利を喧伝するでしょう。アルハンガイ草原の勝利で集結している諸部族に動揺を与えかねません」
「…」
「我に50名だけ兵をお貸しください。本日の夜、1つの策を実行します。それが成功しなければ撤退しましょう」
「何をするつもりだい?」
ギンシの目が鋭く光った。
「逆落としです」
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「もう少しだ。もう少しで【ドミー城】とやらを見下ろせるぞ」
「はっ」
「オークの身体能力を舐めている人間たちに思い知らせましょう」
「【イトスギの谷】を敵に渡すわけにはいきません」
【ドミー城】での初戦が終わった日の夜。
ギンシは志願者50名を率い、とある場所にいた。
敵に弱点が看破されている鎧は全員脱ぎ、最低限の武装で険しい岩山を横断している。
ー敵が【ドミー城】と呼ぶ城は、険しい岩山に挟まれた谷を封鎖するよう築かれています。
-だからこそ少人数でも堅固な守りとなっているね。
-その岩山を越えて奇襲を掛ければよろしいかと。
-それで逆落としか…【ドミー城】の左側にある岩山は標高が低い。
-ならば右側から侵入いたします。敵の警戒も薄いでしょう。
-無理をするのはダメだよ。火の手が上がれば、本隊も攻撃を開始する。
-はっ。
うまくいけば、トゥブさまの名誉も回復できる…。
危険な任務であったが、ギンシに迷いはない。
会議では諸部族の動揺を防ぐと話した。
それも一理あるが、本当の目的は、自分が敬愛する人間のためである。
「さあ、いよいよ頂上だぞ!」
ここまで敵の姿は無い。
兵たちを励まし、いよいよたどり着こうとしたとき、それは起こった。
閃光。
暗闇に包まれていた岩山が照らされ、ギンシたち50人の姿があらわになる。
そして、何かが飛んできた。
「伏せろ!!!」
先頭にいたギンシは間一髪の所で回避するが、すぐ後ろにいた兵士に激突し、音もなく岩山から落ちていく。
「石が飛んできます!」
「分かっている!」
頂上から降ってくる大量の石。
伏兵の仕業に違いないが、正確性が人間技ではない。
ということはー、
「やい、オーク兵ども!」
あと一歩の所にある頂上から、人間の声が響いた。
「ここからは【ダイダロスの手足】が相手だ!」
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「援軍の必要はなさそうだな」
閃光に照らされる敵を【ドミー城】の見張り櫓で確認し、安堵する。
「そのよう…ね!」
ライナが追加で【グリント】を放つ。
敵がさらに視認できるようになり、【ダイダロスの手足】の約半数50人は石で攻撃を続けた。
小さな物体を浮遊して操れるCランクスキル【フローティング】を使って。
-【ダイダロスの手足】のみなさん、わざわざ城に籠るより良い方法がありますよ。
-なんだいそりゃあ。
-逆落としです。左右の岩山に登り、侵入してきた敵を【フローティング】で撃退してください。武器は石がいくらでも転がってます。
-おう、でも急にあそこに登るってのは…
-送り届ける手段はあるので安心してください。1度に2人までですが。合図も送れますよ。
高所、しかも正確無比な攻撃が加われば、いくらオーク兵といえでも手も足も出ない。
一応反対側の山にも待機させていたが、ゼルマの報告は俺の予想どおりだった。
ー敵兵50人、右の山から侵入を開始。
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「敵、引いていくわ」
「ああ。ライナもご苦労だった」
こうして策の第4、「逆落としを試みた敵を逆落としする」も完了。
敵の士気はさらに低下しただろう。
「朝になったら、最後の策を実行するぞ」
これで最後だ。
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