第105話 【ドミー城】でオーク歩兵をざまぁする5.援軍と勝利

 「申し訳ありませぬ!!!」


 ギンシ率いる49人が、疲弊しながら戻ってきた。

 1人の戦死者を出したが、統率を乱さず、朝までに戻ってきたのは幸いである。

 また、戦況がさらに悪化したのはぬぐえない事実。


 「いや、この作戦を許可した僕にも非はある。とにかく、撤退の準備に掛かろう」

 「「「はっ…」」」


 さすがに、兵士たちの中で反対する者はいなかった。

 意気消沈しながら準備に取り掛かる。


 しかし、ドミーという者は何者なんだろうか…


 城に籠る女性兵士たちが叫んでいたドミーという名前。

 おそらく指揮官だろう。

 スキルによる強引な戦い方を好むのが人間と思っていたが、なかなか巧妙な戦術を展開するじゃないか。

 スキルの無いオーク兵相手とは言え、恐らくほとんど損害を出していないだろう。


 「そんな人材がこちら側に生まれていたら、カクレンももう少し楽が出来ただろうに…」


 自分に軍を率いる才能がないのを、ここまで痛感したときはなかった。

 蜂起するまでは、各部族への根回しやゴブリン500匹の追放などで貢献できたつもりだ。

 しかし、ひとたび戦争が始まればそうはいかない。


 「諸部族の中で信頼できる者を見つけるしかない。無能な僕よりよっぽど有能な人材をね…」


 これ以上の泣き言は、もう言うまい。

 兵士たちの指揮に戻ろうとしたとき、1人の兵士が走りこんできた。

 

 「大変です!敵に援軍が入っています!!!」



==========



 「さあみなさん!思いっきり叫んでください!!!」


 「「「我らは援軍に参った!!!これより敵を討伐しよう!!!ドミー将軍万歳!!!」」」

 ドミー城に来た援軍に、俺は指示を出した。

 数は約100名。

 多いとは言えないが、昨日から敗戦続きのオーク兵の心を折るには充分だろう。


 …どこから援軍が来たかって?




 一度避難させた非戦闘員の100名だ。



==========



 ーみなさん!合図が来たら【ドミー城】に援軍として入ってください。そうすれば敵は引いていくでしょう。

 ー最初から城に入っていた方が良いのではないですか?

 ーそうすると、敵が攻撃を控えて持久戦を仕掛ける可能性があります。それでは困るんです。オークたちに攻撃してもらって、敵が苦戦している所に援軍が来る。そんな筋書きにしたいので。

 ーよくわからないけど、ドミー将軍がそういうなら!


 【ダイダロスの手足】もそうだが、最初から見せびらかしておけばオーク兵は攻めてこなかっただろう。

 しかし、それでは偽の実力を明かしづらくなるし、遠巻きに包囲される可能性が高い。


 「さあさあ、次の言葉もみんなで叫びましょう。せーの!」

 「「「Cランク80名とBランク2名でオークなど恐るるに足らず!!!あと半月で援軍がやってくる!!!そうすればここの通過は困難!!!ドミー将軍万歳!!!」」」


 行きは偵察もかねてゆっくり行軍していたオーク兵だが、撤退時は恐らく2日ほどでたどり着くだろう。

 俺が援軍に叫ばせた言葉が届くかは分からないが、いずれにしろこう報告するはずだ。


 今すぐ攻撃せねば【イトスギの谷】を突破するのは困難である。

 敵のほとんどがCランク相当である今が最後のチャンスだ。

 それでも手強いが、追加の軍勢がくるよりはマシである。


 賭けの要素は強いが、勝機がある限り【叛逆者】は攻撃を命じるという確信がある。

 そうでなければ、このような大それた叛乱など起こさないだろう。

 【オークの誇り】を取り戻すという大義があるなら、なおさらだ。


 「ドミー将軍、敵が完全に退いていきます」

 「【ブルサの壁】に戻るつもりか」

 「恐らく」

 城壁で敵を監視していたアマーリエから報告が来る。

 ゼルマのように広範囲な視野を持たないアマーリエでも察知できるあたり、撤退は真実だろう。

 


==========


 「トゥブさま、我にしんがりを命じてください!作戦失敗の責任を取りまする!!!」


 撤退に取り掛かろうとしたとき、ギンシが懇願してきた。

 「せっかく拾った命を捨てることはないよ、ギンシ」

 「ですがー」

 「【叛逆者】は生きている時にしかなれない。もし死ねば、歴史書には敗者として記録されるだけだ。僕は、ギンシが敗者として記録されるのは耐えられない」

 「トゥブさま…」

 「あとー」

 

 僕は【ドミー城】をじっと見つめた。

 「恐らくあの援軍は偽物だろう。声ばかり上げているが、一向に姿を見せない。だから、追撃はしてこないはずだ」

 「…敵ながら敬服に値します」

 「ああ」


 「敵ながら大した人物だよ、まったく」



==========



 「みんな良く戦ってくれた!これは敗北ではなく勝利だ!!」

 

 僕は、最後に兵士たちを鼓舞した。


 「負け惜しみじゃない!スキルという圧倒的な能力を持ち得ながら、敵は僕たちを殲滅できなかった!逆に、僕たちは貴重な情報を持ち帰る!カクレン率いる本隊が改めてここを攻撃する時、その情報が助けとなるだろう!」


 「だから、胸を張って【ブルサの壁】に帰ろう!勝鬨をあげるんだ!!!」

 「「「オーク民族に栄光あれ!!!」」」


 次は必ずー。

 決意を胸に、僕たちは【ドミー城】から離れていった。



==========



 「やったあああああ!!!」

 「勝った!勝ったんだあああああ!!!」

 「ドミー将軍ばんざああああい!!!」


 オーク兵士が完全に去っていくのを確認すると、【ドミー城】は歓呼に包まれた。

 いまだ岩山にいる【ダイダロスの手足】、援軍を演じた非戦闘員たちも喜びの声を上げる。

 死者は誰もいない。

 敵は俺たちの真の実力を知らないまま、情報を得たと満足して帰っただろう。

 

 これぞ、完全な勝利である。


 「やったね、ドミー将軍!アマーリエも泣いてるよ!」

 「馬鹿!泣いてなどいない…」

 「ドミー様、このミズアも感無量です!」


 これまで頑張ってくれた【ドミー軍】の幹部たちも大喜びだ。

 しかし、あと一人がー、


 「ドミー!!!」

 背中から抱きしめられる。

 ライナだ。

 「おい、そんな抱きしめると…」

 「構うもんか!」

 

 逆に力を込められる。

 自らに強烈な快感が押し寄せるとしても。


 「…顔を見せてくれよ。ライナの可愛い顔が見えないじゃないか」

 「いやだ!」

 「泣いてるから?」

 「…うん」

 「大丈夫だ、俺は気にしない」

 

 ライナは顔を上げた。

 涙と鼻水が出ている。

 でも、それで美しさが損なわれたとは感じない。

 

 「えへへ、私また泣いちゃった。恥ずかしい」

 「いいんだ。兵士がいなければ俺も泣いてる。最後の仕上げを済ませて、またゆっくり泣こう」

 「うん!」


 ライナは一歩引いた。

 俺は城壁の上に登り、兵士たちに呼びかける。


 「さあ皆!!!勝鬨をあげよう!!!俺オリジナルの勝鬨を考えたから復唱するように!!!」


 「「「ドミー将軍の命ならば喜んで!!!」」」


 「さあ行くぞ!」

 俺は右手を振り上げた


 「ざまあああああああああああああああ!!!」

 「「「ザマーーーーーーーー!!!」」」

 「あれ、なんか発音がおかしい。ざまあああああああああ!!!」

 「「「ザマーーーーーーーー!!!」」」

 「いや、なんかこうー」

 「「「ザマーーーーーー!!!」」」

 「もういいや!ザマーーーーー!!!」 


 こうして、俺たちは完全勝利を果たした。

 



 レムーハ記 ドミー王の記録より抜粋


 王は一夜にして築いた【ドミー城】に入り、オーク兵を撃退した。

 小規模な戦いであったがその影響は大きく、この戦争の帰結に大きな影響を与えることになる。


 追記

 

 【イトスギの谷攻防戦】から、王は本格的に台頭するようになった。

 それを記念し、【イトスギの谷】は現在【ドミーの谷】と呼ばれている。

 

 


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