第103話 【ドミー城】でオーク歩兵をざまぁする3.演技

「第3の策を披露するぞ!」

 「やれやれ、前に出たがるのは相変わらず」

 体の火照りを感じながら、私もドミーに続く。

 「それが、ドミーさまなのです」

 ミズアと合わせ、3人で城門の前に降り立つ。


 「何だお前たちは!」

 「ひるむな!たかがCランク3人ごとき押しつぶせ!!!」

 「【オークの誇り】を忘れるな!」


 総勢50名ほどのオーク兵は、私たちの姿を見てもひるまない。

 とにかく城門を破壊して突破口を開くつもりのようだ。

 

 「われらアルティパ部族の誇りを見せてやれえええええ!」

 集団中央にいる巨漢のオークが、おそらく指揮官だろう。

 やたらうるさく叫んで、かなり目立っていた。


 「ライナ、頼んだぞ」

 「…やっぱりやらないとだめ?」

 「代わりに俺がやることもできる」

 「それはもっと嫌!…分かったわよ」


 仕方ない。

 演じてやるとしますか。


 「ミズア、じゃあ行くわよ!」

 「分かりました!」


 突撃しようとするオーク兵達に向かって、まずはけん制の一撃を放つ。

 「【ファイア・ダブル】!」

 Bランク相当の炎魔法で壁を作り、足を止めた。

 

 そしてー、


 「あなたたち~~~~~?この私を誰だと思ってるのかしら~~~~~?」

 

 ー元々所属してたギルド【アーテーの剣】のリーダー格の1人。

 ー呪いをかけられた私を追い出そうとした、語尾の長い性悪女。

 ー今は、生きているかもわからない行方不明者。


 「連合軍のギルド【アーテーの剣】のリーダー、Bランクのエリアルよ~~~~~」 

 この世で一番嫌いな女の内の1人を、私は演じた。


 「同じくリーダーでBランクのヘカテーだ!…です」

 ミズアはもう1人のリーダー格を演じたが、完成度はいまいちだった。



==========



 ライナはなかなかの完成度だな、ミズアは…まあいいだろう。

 俺は2人の演技を見ながら油断なく盾を構える。

 

 「あなたたちオークなんて、けちょんけちょんなんだからね~~~~~」

 「そうだぞ!…です」

 とにかく、ライナとミズアがBランクであるとアピールできればいい。


 「連合軍、やはり来ていたのか…!」

 「【アーテーの剣】は聞いたことがあるぞ!Bランクだけで構成されるギルドだ」

 「ひ、ひるむなあああああ!」


 オーク兵も【アーテーの剣】の存在は知っていたようで、少しひるんでいる。

 Cランクで手も足も出ないのだ、Bランクと聞けば動きも止まる。


 付け焼刃だが、なんとかなりそうだな。


 多少回りくどいことをしているのは、理由があった。 


 ー私たちの存在を、秘匿したいねえ…

 ーああ。ライナとミズアは、この紛争を終結に導く切り札だ。隠しておくに越したことはない。

 ーそうですね。ですが、ミズアたちもCランク程度まで力を抑えるとなると…

ー問題ない。お前たちはBランク程度まで力を出しても大丈夫。その代わり、【アーテーの剣】のエリアルとヘカテーを名乗ってもらう。

 ーえええええ!?嫌よ!あんな世界最悪最低最凶の2人なんて!

 ー我慢してくれ。Bランクというだけで、オークには警戒される存在だ。決戦の日まで、誰かを装っていた方がいい。

 ーミズアは演技をするのは初めてです。楽しみ。

 ーんあああもう分かったわよ!その代わり、勝ったら私を30回ぐらい【絶頂】させなさいよね!

 ーわかった、約束する。


 【アーテーの剣】の誰か、というだけでも良かった気はするが、2人の新鮮な姿を見れたのでよしとするか。


 とにかく、第3の策である「こちらの戦力を過少にアピールする」は実現した。



========== 



 「私たちはこの城をCランク80名たちと守ってるわ〜〜〜残りの【アーテーの剣】はムドーソ城に援軍を要請しに行ってる〜〜〜」

 「それまではここを1歩たりとも通さない!…です」


 私たちはドミーの筋書き通りに話しながら、オーク兵を威嚇する。

 Cランク80名とBランク2名が籠る城砦。

 戦力差を考えれば、ここに来たオーク兵はおそらく撤退するだろう。

 そして、【ブルサの壁】に終結する数千人のオークたちを援軍として呼ぶはずだ。

 その時こそ、私たちが全力を出す時。


 「ええい!小娘2人何するものぞ!かかれかかれ!」

 ただ、先の構想はともかく、今ここにいるオーク兵は退かない道を選んだ。

 ラグタイトの鎧の弱点を、看破されているにも関わらず。


 巨漢のオークが先頭に立ち、叫ぶ。

 「我らがもし死んでも、【オークの誇り】として語り継がれるに違いない!進め進めえ!」


 武具を改めて構え、私たち2人に迫る。

 

 「仕方ない…か。ミズア、用意はいい?」

 「はい」

 オークたちは、この前討伐したゴブリンより人間と似ている。

 だから気が引ける、というのは傲慢だろう。


 相手はこちらを殺しに来ている。

 だから、こちらも応じるしかないのだ。


 「援護する」

 ドミーが前に出た。

 「別に私たち2人でも大丈夫なのに。ちゃんとBランクのように見せかけるわよ」

 「お前たち2人だけ手を汚すのは、気が引けるからな」

 「そういうと思った」


 私は、【ルビーの杖】に力をこめる。

 

 「じゃあ、さっさと終わらせましょう」

 そして、オークめがけて火を放った。



========== 



 俺たち3人が50人のオーク兵を殲滅した直後、角笛が鳴り響いた。

 おそらく、撤退の合図だろう。

 すでに士気が低下していたゴブリンたちは、慌ただしく撤退を始める。


 【ドミー城】周辺には、オークの遺体が100体ほど残されている。

 こちらの損害は、負傷者が数名のみ。

 それも、俺が触れることで完治。


 5つの策のうち3つを遂行しつつ、【ドミー軍】は初戦に勝利した。

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