第100話 擬態こそざまぁへの道!

 「弱兵…ですか」

 アマーリエが腕を組む。

 「そんなことしなくてもいいんじゃない?ドミー将軍のスキルで味方全員を【強化】すれば、今【イトスギの谷】に来ているオーク兵士500人はたやすく打ち破れそうだけど」

 ゼルマも疑問の声を挙げる。


 「【強化】は行うが、できればこちらの真の実力を発揮せず勝ちたい。大半がCランク程度で構成される軍団と思わせたいのだ」


 「「「…」」」


 全員真意が分かりかねるといった様子なので、ライナに話を振ってみる。

「ライナ、もしお前がこの叛乱のリーダーとして、敵にB+ないしAランクから構成される80人ほどの集団がいたらどうする?」

 「すっ飛んで逃げるわね。私が言うのもなんだけど、Aランクからは人外の領域だし」

 

 俺が荷物持ちとしてこき使われていた【アレスの導き】にはAランク冒険者が3人所属していたが、15000匹のワーウルフを数日かけて撤退に追い込んだとされる。

 スキルを行使できる者とできない者には、それだけの差があるのだ。

 

 「だろうな。おそらく、ラグタイトをまとったオーク騎兵を中核とし、【ブルサの壁】も放棄して草原地帯の奥へと逃げてしまうだろう。今【イトスギの谷】にいるオーク兵を全力で叩くと、そのような事態を招きかねない」


 全力で草原地帯に逃げたオーク兵を追撃できるのは、おそらくミズアだけ。

 ミズアは人間1人なら抱きかかえて高速移動できるが、それでも2人。

 知性のないワーウルフのように全力で襲いかかってくるならともかく、草原地帯に逃げた敵を1つずつ潰すのは労力がかかりすぎる。

 そもそも俺の【強化】は30分しか続かないので、長期戦は危険だ。


 「しかし、そうすればオークからの声望を失うのではないでしょうか?」

 ミズアも話に加わる。

 「【ブルサの壁】を破ったというだけでも敵にとって英雄に違いない。おそらく数千人の勢力は維持しつつ、侵略の機会を伺い続けるだろう。一度叛逆した以上、ムドーソ王国を打倒しない限り生き残れないからな」

 そうすれば、せっかく俺が安定をもたらした辺境地帯も、再び不安定な状況となってしまうだろう?

 代理の支配者として、それだけは食い止めねば。


 「つまり」

 アマーリエが組んでいた腕を解いた。

 「短期決戦を挑もうというのですな。数千人のオーク兵たちと」


 「そうだ」

 俺は断言した。

 「おそらく明日会敵するオーク兵500人を撃破し、こう思わせるんだ。『敵はCランクないしBランクで構成される少数。敗北はしたが、今少し兵があれば勝利できる』とな」  

 「そうすれば、残りのオーク兵も【ブルサの壁】から出てくる…」

 「貧弱とはいえ防衛施設に篭られると分が悪いし、敵を引きずり出すに越したことはない。その時初めて」

 俺は両腕を広げた。

 

 「【ドミー軍】は全力を発揮する。そして、敵主力を打ち破る」

 

 「オーク兵が俺たちほぼ全員がAランク相当だと気付くのは、戦争に敗北した後でいいんだ」


 戦争で力を誇示する行為は、圧倒的な戦力差によって武力衝突を回避できる場合にのみ有効だ。

 だが、オークたちとの軍事衝突は始まっている。

 長年人間に虐げられてきた復讐心を燃やしているのは疑いなく、今回の争いをやすやすと止めないだろう。

 だからこそ、という希望をちらつかせるのだ。


 「すなわち!」

 俺は立ち上がる。


 「擬態こそざまぁの道である!」


 「第一目標は、オーク歩兵500人を死者0人で撃退すること!!!」


 

==========



 オーク歩兵500人が侵攻してくるまで残り1日。

 擬態した状態で敵を撃破するための準備を、【ドミー城】で進めていった。


 「いいぞアマーリエ。タイミングもぴったりだ」

 「78人とはいえ、かなりの正確さですな!」

 「「「ドミー将軍の訓練の賜物です!」」」

 

 【ドミー団】3人とゼルマを除く【ドミー軍総勢】78名は、の準備。


 「オークたちの侵攻速度に変わりはないわ。でも、1つ気になった点があってね」

 スキル【サイト・ビヨンド・サイト】で空中からオーク歩兵500人を監視していたゼルマから、を受ける。

 「…貴重な情報だな、ありがとう」

 それを受けて、戦術の一部を修正。


 「まさかこんなことをする日が来るなんてね」

 「ライナは完璧でした。明日もしっかり誤認させられるでしょう」

 「恥ずかしいけど…どうせやるならとことんやってやるわ!」

 ライナとミズアには、の準備を進めてもらっている。


 最後に、と話をつけにいくことにした。


 「ドミー将軍!いくら非戦闘員だからといっても、あたしらは腕っ節の強い工匠だぜ!」

 「そうだ!オーク兵なんて殴り倒してみせらあ!」

 「城壁の守りぐらいならできる!」


 アマーリエの派遣した職能集団【ダイダロスの手足】100人名だった。

 200名いた非戦闘員には退去を命じたのだが、半数が拒否した形となる。

 実は退去に応じた100名にはを与えているが、それはまた別の話。

 

 「もしあなたたちを【ドミー城】内での戦闘に投入すれば、命がけで戦うと誓うか?」


 「もちろんだぜ!!!」

 「さすが、話がわかる!」

 「辺境の救世主ドミー将軍最高!」


 この職能集団も、エンハイム〜ケムニッツ砦攻略の道中に【ビクスキ】で支配下に収めてある。

 自らの郷土を守りたいという気持ち、俺の役に立ちたいという気持ち。

 職能集団の士気は最高潮だ。


 俺の答えはすでに決まっている。

 いきり立つ女性たちの前で、俺は叫んだ。




 「だが断る!!!」


 こうして、オーク歩兵を無傷でざまぁするための準備が整う。


 次の日が来て約半日。

 昼ごろにオーク歩兵500名が【イトスギの谷】に到着した。

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