第91話 支配は終わるも…

 「3日間の訓練、ご苦労だった」


 まず、連合軍を労った。


 「俺に対しては含むところもあっただろうが、よく訓練を耐えてくれた。最終的には、俺の予想を超える成長を見せていると断言する」


 「ドミー将軍!」

 1人の冒険者が前に進み出た。

 「どうした?」

 「短い期間ではありましたが、訓練を通じて、連合軍は大幅に強化されたと思います。ですが…」

 「遠慮するな。言え」

 「…分かりました。ムドーソ王国軍の復活という大任、我らCランク冒険者たちで良いのでしょうか?ミズア補佐官やライナ補佐官のような優れた使い手ならともかく」

 

 的を得た疑問かもしれない。

 もちろん、俺にとってランクやステータスは大きな問題ではないのだが。


 「それについてはー」


 「私は元々C+ランクよ」

 「ミズアもBランクです」


 俺が口を開く前に、そばにいたライナとミズアが進み出た。

 事前の打ち合わせにはない行動だ。

 内心驚いたが、成り行きを見守ることにする。

 この2人が、俺の期待を下回る行動を取ったことはない。


 「みんなは誤解してるみたいだけど、私のランクはその程度しかないわ。【アーテーの剣】にいたのに恥ずかしい話よね。でも!」


 さらにもう一歩前に出る。

 

 「このドミー将軍のお陰で私は立ち直り、強力なスキルと生きる希望を得たわ!だから、ドミー将軍のためには命を捨てる覚悟でいる」


 ミズアも負けじと前に出た。


 「このミズアも、ドミー将軍に命を救われ、【竜槍】を抜く力を与えられました。ライナと同じく、ドミー将軍に命を捧げる覚悟です」


 「どういうことだ…?」

 「CランクやBランクがAランクに?」

 「そういえば、訓練中にスキルが弱まったところを見たことがあるぞ」

 「ドミー将軍が駆け寄って触るんだよな」

 「腋とかお腹とかな!変態だと思ってたのに…違うのか?」


 「静かに!」

 一旦、群衆を落ち着かせる。

 なるほど、こういうことか。

 俺が口で説明するよりも理解されやすい。

 あとでお礼を言っておかないとな。


 「この2人の言ってることは事実だ」


  両手を振りかざす。

 「俺の手に触れれば、ほとんどの人間がB+からAランクまで【強化】される!そこまで至らなかった者も、新たなスキルを得るのだ!」

 レーナの件も考慮しつつ説明を行う。


 「お前たちCランク冒険者たちは、長年落伍者として嘲笑われてきた!だが、俺はそうは思わん。アマーリエやゼルマを含め、みんな優秀な人間である。その優秀さを受け入れる寛容さが、ムドーソ王国になかっただけだ!」


 「諸君には黙っていたが、私もすでにドミー将軍の【強化】を受けている!」

 アマーリエが【ウォール・アドバンス】を発動し、堅固な壁を10枚展開する。


 「あたしもね。この鳥が作り物だって気づいてた人いる?」

 ゼルマが鳥を呼び出し、静止状態で連合軍に見せた。


 ライナ、ミズアの説明を補強し、実例として示したわけだ。


 連合軍は一瞬沈黙したがー、


 「ドミー将軍、あたいの手を触ってくれ!!!」

 「一生ついていきます!!!」

 「【アーテーの剣】を一緒に見返しましょう!!!」

 「ムドーソ王国軍の一番槍となるぜ!」

 「【魔法スキル】には自信があります!!!」


 すぐに大歓声となった。

 

 「分かった!!!ならば力を授ける!だが約束してくれ!!!」


 俺は、一歩ずつ連合軍へと近づいていった。


 「1つ!常に仲間と力を合わせること!この力には定められた期限があるからな」


 連合軍は一斉に手を伸ばす。


 「2つ!力を無闇にひけらかさないこと!敵に情報を与えず、必要最低限の力で倒せ!」


 俺も右手を出し、連合軍に手を伸ばす。


 「3つ!その力を、悪しきことには使わないこと!その場合は、俺自らが処罰を下す!」


 「「「ドミー将軍の命に従います!!!」」」


 契約は成った。

 俺は連合軍78人を完全に手中へと収めるため、その手に触れた。



==========

  

 その夜。


 支配した78人に対する詳しい説明やささやかな宴会(【エリュマントス】の乾燥肉とパンが振る舞われた)は、深夜まで続いた。


 「お疲れ様!ドミー」

 「お疲れ様です、ドミーさま」

 「ああ。2人もありがとう。あそこで前に出てくれたからスムーズに行った。でも、自分の本当のランクを言っても良かったのか?」


 草原の野営地で、俺含む【ドミー団】は野営の準備をしている。

 寝ずの番は行うが、その前に3人揃って憩いの時間を取ることにした。


 「いつまでも隠し通せるものじゃないでしょ。ね、ミズア」

 「そうですね、ライナ。ドミーさまがいれば問題ありません」

 「そうか…」


 ランクは、この世界では重要な意味を持つ。

 だから、自分の低いランクを堂々と表明する人間は多くはない。

 勇気をもって話してくれた2人の気持ちが嬉しかった。


 「しかし、これでムドーソ城に戻ったら3人とも貴族昇進間違いなしだな!ははははは!」

 「ふふふ。ドミーさま、そのような場合は叙爵じょしゃくというのですよ」

 「おお、そうだったかミズア」

 「でも、エンハイム城の件は表沙汰にできないし、連合軍乗っ取りは勝手にやってること。ケムニッツ砦のゴブリン討伐ぐらいじゃないの?」

 「そのことだが、実はもう1つあってなー」


 俺は現在進行形の計画を話す。


 「なるほど。悪くない案ね」

 「流石です」

 「だろう?あ、アマーリエとゼルマに言うのを忘れていた。まあ後でいいか。もう遅いし、寝るとしよう」

 

 すでに旅を終えたムードを醸し出している【ドミー団】だが、【ブルサの壁】に到達してからが本番だ。


 腐敗している王国のことだし、どうせ問題だらけに決まっている。

 とりあえず体力だけでも温存しとおかないとな。


 と思ったのだがー、


 「…せっかく4日目は休暇としたのに、さっさと寝るなんてひどいじゃない。ねえ、ミズア?」

 「そうです、ミズアもライナも、お待ち申し上げております。寝ずの番は、その後でもよろしいかと」


 隣の2人を待たせてしまったらしい。

 「すまなかったな。そうしよう」


 「じゃ、じゃあ」

 「お願いします…」

 

 ライナとミズアは目を閉じ、唇を少し突き出した。

 口づけしてほしい、ということか。

 

 「…」

 もはや言葉はいらないだろう。

 どちらから先に口付けするか迷いながら、俺は2人の顔に近づいていった。



==========



 次の日。 

 特に特筆することはなく、休暇とした4日目は過ぎていった。

 

 そして、改めて【ブルサの壁】へ向かう。

 2日あれば余裕を持ってたどり着く行程だ。


 だが、連合軍はたどり着くことができなかった。





 【ブルサの壁】が占拠されたからである。

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