第90話 訓練の終わり
波乱の幕開けから始まった3日目の訓練だが、その後は順調に進んでいく。
行軍はある程度形になったので、前半は個別訓練だ。
【近接系】スキルの使い手は近接戦闘時の立ち回り、【魔法系】スキルの使い手は攻撃を正確に当てる方法を改めて学ぶ。
全員ある程度の心得はあるが、改めて体系的に学ぶことはマイナスにはなるまい。
「前の人の頭上を飛び越えるような感じで【魔法系】スキルを放つ!難しいけど頑張ろう」
「ライナ補佐官、スキルの制御が上手いですね!こちらも見習いたいです」
「そ、そうかな?えへへ」
「アルビーナさん、ここはギャッ…ではなく敵の攻撃をうまく払いのけるようにお願いします」
「分かりました!ミズア補佐官」
ミズアは、自分の考えを分かりやすく伝えようと努力しているようだ。
【魔法系】スキルの集団はライナ、【近接系】スキルの集団はミズアが指導に就く。
その間、俺はとある人たちのスキルを確認していた。
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「【ウォール・アドバンス】で、従来より防御力が増した壁を最大10枚展開できるようになりました。大きさ、形態、特徴などを自由に変更可能です。大きさは限度があるようですが」
そう言うと、アマーリエは壁を5枚展開した。
【ウォール】ではその場に留めておくのが限界だったそうだが、空中を自由に移動し、さまざまな展開を見せる。
縦一列、横一列、五角形。
制御に問題はなさそうだ。
「特徴というのは?」
「今のところ表面温度を高温にしたり、弾力性を持たせたりなどです」
「なるほど…この10枚の壁で完全に守護できるのは、3〜400人程度だろう。それが、新生ムドーソ王国軍の中核となる」
「全力で彼らを守り、1人の死傷者を出さぬよう尽力いたします」
次はゼルマだ。
「【サイト・ビヨンド・サイト】を使うと、このように鳥が出るよ!作り物だけどね。周囲に生物がいなくても問題なし」
ゼルマの言う通り、鳥が現れた。
一見生きているように見えるが、よくみて見ると目に光がなく、動きもどこかぎこちない。
やがて羽を広げ飛び出すのだがー、
「…空中で静止できるのか」
「そうなの。生き物の鳥だと簡単に静止できないから色々面倒でさー製図とか。じっと周囲を観察できるだけでもありがたいね」
「ケムニッツ砦ではお世話になりました」
「ま、その必要もないんだけどね今後」
ゼルマは右手の掌を広げていたが、そこにどこからともなく羊皮紙とペンが現れた。
そして、勝手に地図を製図をしていく。
人間ではできない凄まじいスピードだ。
「この通り、鳥を通してみた映像が勝手に地図になります」
「…どういう仕組み?」
「ドミー将軍が知らなきゃ誰も知らないわ。これだけじゃないわよ」
次は左手の掌を広げる。四角い額縁が現れ、その中に何かが映っていた。
視界一杯に広がる草原。
「鳥が見ている景色か?」
「そうみたい。これまではあたしが見た光景を伝えていたけど、説明の手間が省けるわ」
「素晴らしい!アマーリエとゼルマがいれば、100戦100勝間違いなしだな」
「まだ1戦もしてないけどね」
「これからする!」
「ふふふ…相変わらずね」
アマーリエにせよゼルマにせよ、直接的な戦闘能力は乏しいが、連合軍に多大な貢献を行ってくれる。
戦いは、敵を殺傷するだけではないということだ。
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午後となり、今度は俺自身も訓練を受ける。
アマーリエと1対1で、再び盾を使った格闘訓練を受ける。
「攻撃を受け流すのがうまくいきませんな!そんな調子で突撃ばかりしていると、プレートアーマーと盾があっても負傷は免れませんぞ!」
「分かった!」
特に力を入れたのは攻撃を避けたり受け流す方法だ。
俺は、ライナとミズアから敵の目を逸らすために突撃する傾向にある。
これまでは運良く怪我を負わなかったが、今後もそうであるとは限らない。
入念に動きを学んでいく。
「ドミー将軍、まだ自分の訓練もしているのか」
「本当惚れ惚れする動きだよなー」
「あんたも教えてもらいなさいよ」
ぶっちゃけると、兵士たちの前でのパフォーマンスも兼ねている。
800、8000人ならともかく、80人では自らも戦う姿勢を示さないと話にならないだろう。
何かあったときは、自分で自分の身を守るのだ。
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夕刻。
陣形の最終チェックを行う。
アマーリエやゼルマに【強化】は施していない。
俺が王になれば、常に軍のかたわらにはいられないだろう。
最悪、俺が死んでも機能する集団でなくてはならないのだ。
最前列はアマーリエが【ウォール】を展開して敵の攻撃を防ぐ。
前列は【近接系】スキル使いが【ウォール】を掻い潜って接近する敵を叩く。
後列は【魔法系】スキル使いが魔法攻撃で敵を殲滅する。
後列にいる【魔法系】スキル使いは、【ウォール】や前の人間に攻撃を当てないよう、放物線軌道による曲射が必要とする
これができない冒険者が多かったが、ライナの指導によってなんとかできるようになった。
「右!左!」
アマーリエの掛け声と合わせ、陣形を保ちながらの方向展開も大分できるようになっていた。
もちろん、実際の戦闘に投入すると考えると頼りない部分はまだある。
特に、スキルを利用できる人間との戦いはするべきではない。
それでも一定の形ができたと言えるだろう。
「今日はこれで訓練を終了する!大事な話があるから整列するように!」
だから、やはり今日でケリをつけることにした。
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