第89話 ドミー、新たな才能を見出す(後編)

 「レーナ。【ブルサの壁】からムドーソ城まで、何日かかる?」


 ドミー将軍にそう質問されて、少し戸惑った。

 そんなことを聞く人は、連合軍の中には誰1人いなかったのに。


 「えーと…6日ぐらいです」

 「6日だと!?」

 「休憩を入れなければ、4日ほどです。しばらく動けなくなりますが」

 「お、おお…」

 「戦闘にはなんの役にも立ちませんけど…それがどうかしたのですか?」


 自分でも気づいていたけど、短距離も持久走の方が得意だった。

 他の人が休憩を挟みながらようやく完走するような距離を、ほとんど息も切らさず走れる。 

 連合軍に入る前は、依頼を受けて物資や手紙を届ける運び屋をやってたぐらいだ。

 もしレムーハ大陸で持久走を競う競技があれば、上位を取れる自信がある。


 でもー、


 ー【俊足のケーテ】と呼ばれた母に比べると、どうもね…

 ー武器の扱い方もまるでなってない。

 ー長い距離を走れると言ってるけど、冒険者の役には立たないでしょ。


 村の人や周りの冒険者たちは、評価してくれなかった。

 仕方ないのかもしれない。

 つまるところ、モンスター1体も倒せないのだから。

 

 なのにー、


 なんでドミー将軍はこんなに嬉しそうなんやろ…。



==========



 ー個性【持久】は、常に一定速度での移動を可能とする個性です。常人では疲弊してしまう距離でも、ペースを保ち続けられます。長距離の移動ほど効果的です。


 ナビから個性に関する話を聞いてまさかと思ったが、レーナは異常なほどの健脚だった。

 俺たち【ドミー団】含む連合軍が【ブルサの壁】にたどり着くまで、約1ヵ月ほどかかっている。

 もちろんケムニッツ砦の戦いといった寄り道を繰り返しているためだが、それがなくても20日は掛かるだろう。

 足に自信のある人間が単独で走っても、10日は下るまい。

 ムドーソ王国軍は機動力の高い動物(馬など)を使役していないので、どうしてもそれぐらいはかかってしまう。

 それを最短4日とは…


 この世界で人物の個性を確認できるのは、【ビクスキ】を保有する俺だけ。

 ほかの人間は、ランク及びスキルしか確認できない。

 人の才能を細部まで見極め、命令を下せるのは俺しかいないのだ。



==========



 「レーナ、お前には【伝令】を任せたい」

 「で、伝令?」

 「そうだ。連合軍の動向や意思を、他の部隊や都市へ伝える役割となる。頼まれてくれるか?」

 「そんなものが、連合軍の役に立つのでしょうか?」

 レーナは少し疑問を抱いているようだ。


 「当然だ。戦いに直接関連しないものを軽視する人間は多いが、それは偏見に過ぎない。レーナは、通常の戦士よりはるかに価値ある働きができる」

 戦争とは、始める前の段階からすでに勝敗はついているのだ。

戦う前から勝敗をつけるために、情報伝達は欠かせない手段である。


 「…そんな言葉を言われたのは初めてです」

 「俺が今読んでいる本によると、昔ムドーソ王国には情報伝達のための狼煙台や旗振り信号の設備があったらしい。だが、軍事費削減の煽りで今は機能していないし、すぐ復活させるのは難しい」

 「…」

 「頼りになるのは、レーナだけだ」

 レーナはしばらく黙った。

 そして、口を開いた。

 

 「ほんまにレーナでいいんですか?」

 「…ほんま?」

 「あ!つい田舎の言葉が…」

  

 恥ずかしがって口を押さえている。

 「気にするな。言葉なぞ大意が伝わればなんでもいい」

 「は、はい…でも、『めっちゃ』とか『そんなん』とか言っても全然意味伝わらなくて、そういうのもあって連合軍で結構浮いてたっていうか…」

 「なら、俺の前ではそのままでいい。本当の自分を隠す必要はないぞ」

 「わ、分かりました」 

 「もし良ければ、レーナには頼みたいことがある。エンハイム城に向かって欲しいのだ。ユリアーナという女性がいるから、その者に俺の指令を伝えて欲しい」

 「…うちでいいなら、やりたいです。いえ、ぜひやります」

 

 レーナの表情に、明るさが戻っていた。

 その意気だ。


 「じゃあ、触って欲しいところを言ってくれ」

 「…」

 「【強化】のためだ。他意はないぞ」

  

 レーナはすでに【絶頂】したため、俺の【ビクスキ】の支配下に置かれた。

 つまり、俺がどういうことができるかも知っている。

 本来は連合軍80人を一斉に支配する予定だったが、まあ良いだろう。

 

 「じゃあ、ふくらはぎで…」

 「そこが【クイック絶頂ポイント】で良いか?」


 レーナはコクリとうなずいた。

 30分限定とはいえ、レーナのスピードは大幅にアップするだろう。

 エンハイムには1日未満で到達するはずだ。





 

 「では、頼んだぞ」

 「…」

 「こほん。事後に言うのもなんだが、俺は支配した女性の中で、寝食を共にするものと【断金の交わり】を…」

 「行ってきます!!!」

 「あっ、まだ話は…」

 「また後で聞くんでー!!!」

 「…帰ってから聞くとするか」

 


==========



 「さあ!今日で訓練は大詰めだぞ!」

 和解の宴を終え、士気が高まった連合軍を勢ぞろいさせる。

 レーナの件は、アマーリエに報告済みだ。


 訓練結果次第ではー、


 本日中に支配を終えてしまおう。


 

 


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