第88話 ドミー、新たな才能を見出す(前編)
朝。
腰の腰痛が引いていることを実感しつつ、俺は起きようとする。
昨日の夜何があったか覚えていないが、まあ結果オーライだ。
がー、
「んん…イラート、あなたに話したいことが…むにゃむにゃ」
「ドミーさま、お腹ばかり触るのはずるいです…すー…」
うつぶせで寝ている俺の背中に、2つの暖かい感触。
ライナとミズアだ。
なぜかは知らないが、俺の背中の上で寝ていたらしい。
どちらも柔らかな感触だが、特にミズアの胸の感触がー、
「いででででで!」
寝ているはずのライナが俺の背中をつねる。
その後は何の動きもないので、本当に寝ているらしい。
無意識に何かを感じ取ったというのか…
本来ならどちらかが寝ずの番をしなければならないのだが、酒に酔って3人とも寝てしまったようだ。
まあ、結局ローブの暗殺者はあれ以来現れていないし、連合軍の何人かが見張りをしているはずだ。
1日ぐらいは許してやろう。
「さて、問題はどうやって2人を寝かしたまま起きるかだが…」
部下の安眠を邪魔するのは王者の道ではないからな。
ゆーっくりと動いて脱出しようとする。
「ど、ドミー将軍。お話があるんですが…」
突然の声。
ローブの暗殺者か!?
どうやら頭上から声を掛けられているようだが、うつ伏せ状態なので顔が見えない。
なんとか首をひねって頭上を確認しようとする。
ぐきり。
「おほおおおおん!」
腰の次は首が…
いや、そんな場合ではない。
そのまま無理やり頭上を見る。
ついでにライナの腋、ミズアのお腹の中心を触る。
一瞬で【強化】を施すための【クイック絶頂ポイント】だ。
「ふえ!?」
頭上にいたのは、連合軍に所属する冒険者の1人だった。
名は確か、レーナ。
紫の長髪が特徴的な17歳の少女。
剣を得物とするスタンダードな【近接系】スキルの使い手だが、目立った功績はないとアマーリエのリストに記されてあった。
なぜこんな朝方に…
「くふうううん!」
「ああっ!」
だが、それをじっくり考える暇がなかった。
俺が【クイック絶頂ポイント】を触ったことで、ライナとミズアの2人は強制的に【絶頂】する。
「敵!?ドミー、暗殺者はどこ!」
「【竜槍】 で刺し貫きます!」
普通なら何が起こったか分からずキョロキョロするところだが、俺とはスキルを通じて感覚を共有(緩やかだが)している2人の行動は素早い。
ただちに武具を携え、レーナに殺到しようとする。
「ひいいいいい!?」
Cランク冒険者であるレーナに対抗するすべはなく、怯えながら尻もちをついた。
「落ち着け!この娘は敵ではない!」
俺のせいで罪のない人間が殺されてはたまったものではない。
レーナを守るため、飛び込んで覆いかぶさる。
「くうううううん!?」
強い力で抱きしめてしまったため、レーナも【絶頂】する。
急な感覚で動揺したのか、俺の首に手を回し、力をこめる。
ぐきぐきぐき!
「あっ…」
そして、俺の首にさらなるダメージを与えた。
俺は短い悲鳴をあげ、昏倒する。
「…」
「ドミー!?」
「ドミーさま、お気を確かに!」
「あわわわわ、すいません!」
訓練3日目の朝は、波乱の幕開けとなった。
==========
「…で、どういう話なんだ」
首をさすりながら、俺は野営地から少し離れた場所にいた。
レーナと1対1で話をするためだ。
訓練開始まで少し時間があるので、よほど込み入った話でなければ間に合うだろう。
念のためライナとミズアを付近に待機させている。
「…」
レーナは迷っているようで、なかなか口に出さない。
「案ずるな、この場で話したことは誰にも口外しない」
「あ、アマーリエさんにもですか?」
「…当然だ」
「では、単刀直入に言います」
「うん」
意を決して話し出した。
「実家に、帰らさせていただきます…!」
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「…要するに、連合軍を辞めたいということか?」
恐る恐るレーナに尋ねる。
「あ、はい。そうです」
「なんとなく意味は伝わったが…こう、表現の仕方がな。今後気を付けるように」
「すいません、レーナはドジでダメな女です…」
「まあいい。どうしてだ?」
「レーナは、連合軍の足を引っ張ってしまいます。訓練についていけません…」
そういうことか。
事情は大体分かった。
アマーリエに言いづらいのも分かる。
元々、こういう人物が1人ぐらい現れるのではと危惧していた。
個々がバラバラになって戦っていた状況から、いきなり集団戦をやれというのだから。
「他のパーティメンバーと相談しなくていいのか?」
「…辞めてきました。みんな引き留めてくれましたけど、どうしても自分で納得がいかなくて」
「そうか…どうして冒険者になったのだ?」
「お母さんが昔、【俊足のケーテ】と呼ばれる冒険者でした。レーナもそうなりたかったんです」
レーナはそう言うと、俺の前から姿を消した。
いや、少し離れた場所に一瞬で移動した。
「【近接系】スキルとして地上限定で高速移動できる【ヘルメス】を使えますが、Cランクなので距離が短いんです。武器を使いこなしてこそ真価を発揮するのですが、どうもそれが苦手で…ミズア補佐官のように空も飛べませんし」
「うーん、そうか…」
「連合軍が密集して戦うなら、実質【ヘルメス】は死にスキルとなります。ですから、辞めさせてください…」
難しい問題だった。
Cランク全員が活躍できるよう集団戦法を実行すると言う構想だったのに、そこからあぶれてしまう人間が出るとは。
俺も想像力が足りていなかったようだ。
「話はわかった」
だが、なんとかしてあげたい。
母に憧れて冒険者になったと言うのに、このまま夢破れて帰るのは悲しいではないか。
ナビ、レーナのステータスとスキルを表示してくれ。
ー分かりました。
というわけで、生かせる道がないか確認することにした。
1.兵士レーナ(【強化】後)
種族:人間
クラス:剣兵
ランク:B
近接:6
魔法:0
統治:15
智謀:37
スキル:【ヘルメス】【アキレス】
個性:【持久】
服従条件:連合軍をやめさせてください…
一口コメント:【強化】の恩恵が薄いタイプも存在する
うーん、なかなかに難しいな。
俺の【ビクスキ】によって【ヘルメス】を純粋に強化した【アキレス】というスキルを取得しているが、それ以外に大きな差はない。
戦闘能力はほぼ皆無で、敵の攻撃は避けられるが、敵を倒すことはできないだろう。
ミズアの個性【高速】のように空中移動もできない。
与えられる役目がないわけではないが、逆に傷つけてしまいそうな気がする。
その時、俺はある1点が気になった。
ナビ、この部分はどういう意味があるんだ?
ーその部分ですがー、
聞いてみて、とあるアイディアが浮かんだ。
本人にも聞いてみよう。
「なあレーナ。1つ聞きたいのだがー」
レーナは疑問の表情を浮かべるが、質問に答えた。
==========
…なるほど。
俺は、どうやら貴重な才能をみすみす見逃す寸前だったらしい。
「分かったレーナ。お前は今日から連合軍の訓練に参加しなくていい」
「じゃ、じゃあー」
「その代わり!」
新たに発見した才能に向け、高らかに宣言した。
「レーナには新たな役割を与える!」
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