第87話 選んだ未来

「うーん。腰が痛い…」

 「大丈夫ですか?ドミーさま」

 「俺は王となる男。なんのこれしき…あひいいいん!」

 「ライナ、どうしましょう。ドミーさまが変な声を上げています」

 

 「やれやれ…少し待ってなさい。酔いがさめたら揉んであげるわよ」

 

 星を眺めながらミズアに返答した。


 酩酊するのはいつぶりだったろう。

 過去に思考を巡らせると、すぐに思い出した。

 確かまだ【アーテーの剣】にいた頃の話だ。


 -ライナ先輩!誕生日おめでとうございまああす!

 -イラート!?あんたこのご馳走、どこで?

 -先輩のために買って来ちゃいました!


 15歳の誕生日。

 訓練を終えて戻った私を、イラートが祝ってくれたんだっけ…

 その時のお酒の味は、まだ覚えている。

 そのあと【成長阻害の呪い】を掛けられて、それでー、

 

 ダメ。

 暗い思考を払しょくしようと、頭を左右に振る。

 でも、イラートと最後に話した時の光景が、私の抵抗を無視して脳裏に浮かんできた。


 ースキル、ギルド、連合軍、戦果。もうみんな嫌になりました。上を目指してもすぐ限界が来るし、ギスギスした人間関係やしがらみが待ってるだけ。


 あの時は言えなかったけど、イラートの気持ちも良くわかった。

 ドミーに合う直前の私もそうだったから。


 少しタイミングが噛み合わなければ、私も逃げ出していたかもしれない。

 仮にドミーと出会っていても、もし私が逃げ出すと決めたら、反対しなかったのではないだろうか。

 口では野望野望と言ってるけど、ドミーはそう言う人だ。


 その時は、まったく違う展開となっていただろう。

 

  ドミーと一緒に田舎の農村でのんびり生活してたかもしれないし、雑貨屋でも開いてるかもしれない。

 あるいは野良の冒険者として活動しながら、「影の実力者」と呼ばれたりとか。

 誰かが絡んできても、ドミーのスキルがあればぎゃふんと言わせられるだろう。


 ムドーソ王国が本格的に崩壊するまでの期限付きだけど。

  

 それでも、ドミーと一緒なら、幸せな日々だったに違いない。


==========



 でも、私はそう言う未来を選ばなかった。 


 ドミーが、私を助けてくれたからだ。

 エルンシュタイン王とギルド本部で相対し、【青の防壁】を破る力をくれた。

 自分の弱さと向き合い、誇りを取り戻すチャンスを与えてくれたドミーには、感謝しかない。 

 だから、ドミーの野望についていくことにした。

 ドミーは、そんな私を友人として、最終的には恋人として接してくれた。


 そしてミズアと出会い、3人で大きな事を成し遂げられるようになった。


 ミズアの個性を生かし、エンハイム城を無血で占領した。

 私のせいで危ういところもあったけど、ケムニッツ砦のゴブリンを犠牲を出さず討伐した。

 連合軍の掌握という簡単じゃない任務に苦労しながらも、なんとか成果を出して【ブルサの壁】にたどり着きつつある。


 最後がどうなるかは分からないけど、この道を選んでよかった。


 綺麗事ばかりじゃないのはわかってる。

 ケムニッツ砦では、ゴブリンの血で自らの体を汚した。 

 これからも、綺麗事だけじゃない場面に直面するだろう。


 それでも、色々な人の命や生活を守れたこの未来が、私にとって最上の道なんだ。

 【断金の交わり】を結んだ2人と成功と失敗を分かち合えるなら、どうなっても後悔はしない。

 

 きっと、ミズアもそう思っているだろう。

 

 「さあ、酔いが覚めたわ」

 私は、伸びている男性と、そのかたわらであわあわしている白い髪の女性に声をかけた。

 「ドミーの力になりましょう」



==========


 「ほへええええ!?」

 「なに変な声出してるのよ変態ドミー!美しい少女たちが腰をさすってあげるんだから、光栄に思いなさい。ほら、ミズアも!」

 「はい、ドミーさま、お覚悟を!」

 「あへええええん!2人とも、もう少しゆっくり…」

 「いつもは触りっぱなしなんだから、少しは触られなさい!」

 「お、俺のスキルでそんなに触れないはずじゃあ…」

 「今は、両手に布を巻いております。生身で触れなければ問題ありません」

 「そ、そんなあ…誰か助けてえええええ!」


 私とミズアのマッサージは朝方まで続き、ドミーの腰痛は大分良くなった。

だが、ドミーはその時の記憶を失っていた。

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る