第79話 草原地帯への到達

 アマーリエとゼルマと【主従の交わり】を結び、いくつか確認すべきことを話し合った。

 ヒルダの死を含む、過去起こったことも。

 哀悼の意を述べたが、それ以上は干渉しない。


 やがて話し合いは終了し、【シラーの宿】に割り当てられた自室へと戻る。

 警護任務を終えたライナとミズアも、俺の後から自室へと入った。


 「どうだった?ドミー」

 「なんとか目標は達成した。アマーリエとゼルマは、俺の臣下として活動することになる」

 「おめでとうございます、ドミーさま」


 2人の女性は喜んだが、同時にソワソワしているようだ。

 原因はわかり切っているため、安心させてやることにする。


 「…アマーリエとゼルマは【断金の交わり】ではなく【主従の交わり】となる。詳しい事情は後で話す」

 「えーと、じゃあ寝食を共にすることはないってこと?」

 「そうなるな」

 「ドミーさまは、それでよろしいのですか?」

 「ああ、人それぞれの能力と信条に沿った立場を与えるのが、俺の仕事だ」

 「ドミーらしいわね」

 「わかりました」

 「で、明日の行動だが…」


 少し疲れを感じ、寝台に腰掛ける。

 それがいけなかった。

 急速な眠気に襲われ、心地よい世界へと誘われそうになる。

 

 何を隠そう、ここ数日寝不足なのだ。

 【ハーレムの誓い】を発表した日は、疲れ切ったライナとミズアに代わり寝ずの番をした。

 エンハイムから出発した後も、硬い地面の下や毛布にくるまるだけの野宿が続いている。

 最後に、かなりの緊張を強いられたアマーリエとゼルマの会見ときた。


 今日ぐらい、ぐっすり寝てもいいよね…


 「ちょ、ちょっと…」

 むにゅん。

 そんな甘い思考は、とあるものを押し付けられた感覚に覆される。

 ライナの、慎ましくも柔らかい胸だ。

 どうやら、右腕に巻き付かれているらしい。

 「誰が慎ましいか!」

 「す、すみません」

 俺の思考を読んだライナに突っ込まれる。

 「ねえ。廃墟とはいえ久々に街で眠れるんだし、そのまま就寝ってのは…」

 

 ぼよん。

 次は、ミズアの成熟した弾力のある胸を押しつけられる。

 今度は、左腕だ。

 「そうです。ドミーさま、ミズアたちに愛をお与えください…」


 まいったね、こりゃ…

 しかし、【ハーレムの誓い】で大見得切った手前、邪険にするわけにはいかない。

 これも、支配者の義務だろう。


 「分かったけど、俺はかなり眠い…1人だけで許して…」

 「支配者にしては大分頼りない言葉だけど、仕方ないわね」

 「では、どちらを選ばれるのですか?」

 「…」


 明確にどちらかを選ぶのは、良くない気がする。

 ならー、


 「よし、レムーハの神に委ねよう」

 ポケットから、1枚のゴールドを出した。

 ろくな街もないこの一帯では、ほとんど用途がない。

 ただ、余興の役には立つ。


 「ゴールドの表裏を当てたほうが、俺を少しの間支配できる」

 親指で上に弾いて回転させたあと、落ちてきたゴールドを素早く左手の甲で受け止め、右手で覆い隠す。


 「さあ、どっち!」



==========



 「ドミーさま、少しの間ですが、よろしくお願いします…」

 「そうだな。警護とはいえ、ライナをあまり外で待たせるのは気が引けるし」

 

 勝者はミズアだった。

 実は、動体視力に優れるミズアに有利なゲームとなるよう意識している。


 【ハーレムの誓い】の朝、自分を差し置いてライナと俺がこっそり口づけをかわしてたことを、ちょっぴり根に持っていたからだ。

 これで、多少は償いとなるだろう。


 「ただ、その…」

 「どうした?」

 「ここ数日、汗を流しておりませんので、その…」

 

 寝台に横たわるミズアは、恥ずかしそうに頭を振った。

 確かに、ここ数日まともな入浴はできていない。

 付近の川で体を洗った程度だろうか。


 「俺は、まったく構わないぞ。さあ…」

 「は、はい」

 ミズアは上着をたくし上げ、お腹を俺に見せた。

 数か月前まで【紫毒】に犯されていたとは思えないほど艶めかしく、美しい。

 神の造形とは、まさにこのことを言うのだろう。


 「ああっ!」

 優しくなでたつもりだったが、甘美な嬌声を上げる。

 最近、ミズアは声を我慢しない。


 「お、おい。少し我慢をだな」

 「…それでは」

 ミズアは恥ずかしそうに体をよじりながら言った。


 「何か口を抑えるものを…」

 「じゃあ、何か布をー」

 「いえ、こちらでお願いします」


 ミズアは俺の右手に手を伸ばし、人差し指を優しく握った。

 「えーと…指?」

 「そうです。ダメでしょうか?」

 

 そんなうるうるとした目で見つめられたら拒否できません!


 仕方ないので、人差し指をゆっくりミズアの口腔に埋め込んでいく。 

 怪我のないように、ゆっくりと。


 「うむうううん!」

 ライナが悲鳴のようなくぐもった声を上げるが、特に逃げようとはしない。


 「大丈夫か?」

 「どみーひゃまの、いじわる…」

 言葉とは裏腹に、とても嬉しそうだった。


 控えめだったミズアは変貌しつつあるが、それが自らの本質であるとするなら、喜ぶべきだろう。


 …多分。


 その後しばらくして、ミズアは【絶頂】に至った。



 ==========



 「おお、おはよう、ライナ。もう朝か。今はミズアが最後の警戒にー」

 「…しい」

 「はい?」

 「羨ましい!ミズアにしたこと、私にもして!」

 「…はい」

 

 ミズアにとってかなり良い体験だったのか、俺の指で体験したことをライナにも話していた。


 …結局、睡眠時間は確保したとはいえ、俺は1日で2人相手することとなった。



 ==========



  イェーナを超えると、いよいよ周りの景色が変わっていく。


 ーどこまで続く草原地帯。

 ー雲ひとつない真っ青な空。

 

 昔はこの辺りもオークたちの生息、もとい遊牧地域だったらしい。

 80年前に発生したとある出来事により、ムドーソ王国の領地となっている。


 【ブルサの壁】までは、あと2日ほどの日程だ。

 かなり寄り道を繰り返しているが、予定の到着日まではあと1週間もある。

 元々、【アーテーの剣】が日程にかなり余裕を持たせていたらしい。

 もちろん、好き勝手振る舞いやすくするためだが。




 事前に【マグダ辞典】を読んで、俺は過去この地で起こったことを学んでいた。

 すなわち、虐殺である。

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