第71話 ミズア、自らの考えを伝える

「ふぁ〜あ…」


 ミズアとドミーを2人きりにして、私は寝ずの番を務めていた。

 ローブの暗殺者が襲撃した後、就寝時間は3人交代で見張りを行うルールとなっている。


 だが、今日はミズアとドミーが寝室で1日を過ごせるよう、私が朝まで見張る。

 

 「ね、ねえライナさま。ドミーさまとミズアさまは中でなにをしているんですか?」

 「女性が変な声を上げるようですが、なんか痛いことでもやるんですかい?」

 「うちらも体験できないんですか!?」


 …口うるさいCランク冒険者数名と一緒に。

 1人では心細いし寂しいので、いないよりはマシと思うか。


 「いずれ分かるわよ、あなたたちも」

 

 ー軍の中核を成す存在は、きちんと訓練してから支配する。


 ドミーはそのような方針を打ち出してるため、アマーリエとゼルマを除くCランク冒険者たちに事情を教えていない。

 支配することで変にやる気を出して、統制の取れないまま敵に突っ込んでいくようじゃ困るしね。


 「ちょ、ちょっとぐらい見てもいいですよね?」

 「その時は、なぜこの私が【蒼炎のライナ】と呼ばれているか身をもって知ることになるわ…」

 「ひい!?嘘です嘘です」

 「冗談よ。とにかく見張りを続けて」



==========



 ーミズア、今日はドミーと1夜を過ごしなさい。あなたにはその資格があるわ。

 ーは、はい…でもライナは?

 ー私は、次の日でもいいから。


 本日ミズアとドミーを2人きりにしたのは、ケムニッツ砦での出来事が胸に引っかかっていたからだ。


 私が意識を失った時、ドミーは私をずっと抱きしめてくれた。

 それは、もちろん嬉しい。

 でも、その間ミズアはずっと1人。

 ドミー自身も反省してたけど、ミズアを置き去りにしていた。 


 ーミズアもちゃんと可愛がってあげて。


 私が声をかけなければ、もっと続いていただろう。

 それで【断金の交わり】と言えるだろうか。

 もう、私とドミーだけで旅をしているわけではない。


 「ドミーにも、一応声をかけたほうがよかったかな…」

 

 そんな考えは、すぐに振り払う。

 ドミーならうまくやるだろう。

 私は、2人が関係を深め合う時間を作るだけ。



==========



 「本音…?」

 「ああ。だから、今日は2人でゆっくり話そう。をやると、お互いどうも冷静ではいられないからな」

 「…わかりました」


 ミズアは不思議な表情を浮かべながらも、脱いでいた服装を着始める。

 最後に、お腹を名残惜しそうに撫でた。


 「…座って話でもしよう」

 「はい」


 寝台のそばに用意された、2人分の長椅子にミズアを呼ぶ。

 お互いに腰掛けて、天窓から見える星を眺めた。

 詩人ではないので、満点の星の美しさを言葉で例えるようなことはできない。

 1つ言えるのは、俺の野望も、天空から見下ろせばちっぽけな出来事に過ぎないということだ。


 「ケムニッツ砦では、すまなかったな。ミズアも多大な貢献をしたのに、置き去りにしてしまった」

 「いえ…ライナを救うことが出来て、ミズアも涙が止まりませんでした」

 「…」

 「…」


 いかん、話が途切れてしまった。

 次の話題をー、

 

 「ミズアの、どのような本音を知りたいのですか?」

 俺より先に沈黙を破ったのは、蒼い瞳を輝かせる美しい少女だ。

 少し不安そうな表情を浮かべている。

 早く安心させてやらないと。


 「ケムニッツ砦でライナを救った時、確かミズアはこう言ってたよな。って」

 「…!」

 白い髪が揺れ、ミズアに動揺した表情が浮かんだ。


 「あの時は俺の未熟でミズアに気をかけてやれなかったが、どうもその発言が引っかかってな」

 「…申し訳ありません、ドミーさま」


 ミズアは、俺の顔を覗き込みながら話した。


 「ミズアには、1つ隠し事があります」



==========



 ーその恋は、恐らくかなわぬぞ。あやつには、すでに強いきずなで結ばれた【女性】がおる。


 ミズアが【竜槍】を抜いたとき、力を授けてくれた【ファブニール】が発した言葉。


 ミズアは、そのことをドミーさまに伝えます。

 

 「叶わぬ恋になると、【ファブニール】さまは言っておりました…」


 体が熱くなるのを感じ、俯いてしまいます。

 墓場まで持っていくつもりだった想いを、全て話してしまうのですから。


 「つまり…俺のことを愛していると?」

 「はい。これはドミーさまの【スキル】によるものではありません。ミズアの、心からの想いです」

 「…」

 「ですが、ミズアは諦めることにしました」

 「ま、待ってくれ。俺は別に嫌だとはー」

 「違います。まず第1に、ミズアはライナも大好きだからです。何かと人見知りで迷惑をかけてしまうミズアを、ライナはいつも気にかけてくれます。強さだけでなく、優しさを備えた素晴らしい友人です」


 ミズアは、ドミーさまの想い人をライナと仮定して話を進めます。

 それに対し、反論はありませんでした。


 「第2に、人は皆を平等に愛することはできません。ドミーさまがスキルで皆を平等に支配していないように」

 「…!」

 「ドミーさまは、いずれ王となられるお方です。無血でも、いずれは冷たい判断を下す日が来ないとは言えないでしょう。ライナはともかく、特別な存在が2人もいてはいけません」


 これも、ドミーさまのため。

 ミズアのせいでドミーさまの野望が達成できない日が来たら、死んでも死に切れない。


 「ミズアのことは、1臣下として扱ってください。そばに置いてさえくれれば、悔いはありません。ライナとドミーさまのお姿を見るだけで、ミズアは幸せなのです…」


 胸が張り裂けそうになりながらも、ミズアは自分の考えを伝えました。

 

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