第69話 ヘカテーとエリアル、申し出を断られざまぁされる
「ドミー殿、ひとまず指示された通りの働きはいたしました。これで、マンハイム城含む周辺地域の安定は保たれるでしょう」
「ありがとうございます、アマーリエさん。俺たちだけではどうにもなりませんでした」
作戦終了後に落ち合う地点として設定していた、とある平原。
俺、ライナ、ミズアの3人とアマーリエ率いる80人はそこで合流した。
誰一人負傷者もなく、数で上回っていたゴブリン500人を討滅。
大勝利である。
「すげえな、血だらけだよ…」
「うちらが担当したのは楽な仕事だけだからなあ」
「この3人、ムドーソ王国で一番強いんじゃね?」
とはいえ、お互い歓喜して健闘を称え合うというわけではなかった。
無理もない。
全く別々の場所で任務を行った上に、俺たち3人だけ凄惨な戦場の爪痕を残している。
ケムニッツ砦周辺の川でなるべく汚れを落とした(特にライナとミズア)とはいえ、流石に元どおりとはいかなかった。
3人で砦を攻略するというAランク並みの活躍(ムドーソ王国では強すぎるAランクの冒険者は歓迎されない)をしたこともあり、Cランク冒険者80人のほとんどは畏怖の感情を抱いた。
まあ、俺は大したことはしていないのだが。
というか、右腕が痛え…
体格の小さいゴブリンとはいえ、族長を盾で思い切り殴ったのは良くなかったようだ。
連携が綺麗に決まったとはいえ、ライナのこととなると熱くなってしまう。
そういえば、うちのパーティは回復役がいないのが難点だな…
「ふんふんふ〜ん♪ミズアの髪はムドーソで一番サラサラ〜♪」
「ラ、ライナ…恥ずかしいです」
戦場では無双というべき活躍を見せたミズアとライナも、今はすっかり平時に戻っている。
俺の後ろで、ライナがミズアの乱れた髪型を治していた。
ー女性はどんな時も身だしなみに気を使う生き物なのよ。
昔ロザリーがこんなことを言っていたが、どうやらその通りらしい。
「それで、この後はどうするの?ドミー殿」
ライナとミズアに気を取られていると、ゼルマに話しかけられた。
いつのまにか、「殿」が付いている。
「とりあえずエンハイムに戻った方が良さそうですね。ゼルマさんのスキルと地図のおかげで、作戦がスムーズに進みました。ありがとうございます」
「おだてられても…と言いたいけど、今日は少し嬉しいかな」
「ゼルマさん…」
「あたしも、もう少し頑張らなくちゃって気分になったよ。こんなクソッタレな世界でもさ」
ゼルマには、どこか
過去に何かあったのだろうか。
もう少し関係が深まれば、話してくれるかもしれない。
無論、無理強いすることではないが。
「さて!それでは総勢83名、エンハイムに凱旋いたしましょう!」
アマーリエが全員に呼びかけ、移動する体制が整う。
が、そこに歓迎しない来客が現れた。
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「いや〜〜〜ドミーさん。本当にすごいです〜〜〜」
「ゴブリン500匹を討伐するとは、このヘカテーも驚きました。ははは…」
私が訪ねた時は姿を現せなかった【アーテーの剣】の2人。
ゴブリン500匹討伐が終了してから、のこのこと現れてきた。
【ドミー団】に話があるというので、アマーリエ率いる連合軍は離れた場所で待機している。
「再戦に来たってわけ?エリアル」
私は【ルビーの杖】を構え、エリアルを威嚇する。
こいつらは、エンハイム城でドミーを殺そうとした経歴がある。
ここでそんなことをする度胸があるとも思えないけど、もしそうだとしたら容赦はしない。
「…」
ミズアも、【竜槍】を静かに構えて警戒している。
「い、いや〜ライナちゃん。そんなわけないでしょ〜〜〜ね、ヘカテー?」
「そうそうエリアル、あくまで平和的な話し合いをだな」
信じられるか!
仮にそうだったとしても、こいつらは自分に利益がある時しか動こうとしない。
数秒、気まずい空気が流れる。
「ライナ、ミズア。武器を下ろせ」
空気を変えたのは、ドミーだった。
「でもー」
「この2人はそこまで強力な使い手じゃない。大丈夫だ」
「ドミーがそういうなら…」
「ドミーさま、お気をつけください」
私とミズアは渋々警戒を解いた。
「…ちっ~」
「何か言った?エリアル」
「い、いえ~~~なんでも」
「強力な使い手じゃない」と指摘されたエリアルとヘカテーは不満そうだったが、何も言わなかった。
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「…なるほど。今までの遺恨を捨て、手を組みたいと言うのだな」
「そうです~~~【アーテーの剣】に恥をかかせたことも、ムドーソ城に帰ってから報告しません~~~」
要するに、叶わないと見て媚びを売ってきたらしい。
変わり身の早さには呆れるばかりだが、こういう存在の方が実が厄介だったりする。
恥を恥とも思わず、自らの利益のみを追求することで成功した人物も歴史上少なくない。
「その場合、俺にどんな見返りをくれるのかな?」
ライナからすればさっさと追い払って欲しいのだろうが、一応話だけは聞いておこう。
俺の目標は「ムドーソ王国の無血占領」であるため、こいつらも最終的には支配下に置くことになる。
…仕方なくだが。
「このヘカテーとエリアル率いる【アーテーの剣】は、アマーリエとゼルマ率いる80人よりよっぽど役に立ちます!なんせ、全員がBランクの冒険者ですから」
「そうです~~~固まって動くことしかできない亀集団より役に立ちます~~~」
「…それだけか?」
「い、いえ。まだあります!」
戦力アピールが流されたためか、ヘカテーは少し焦りながら話す。
「じ、実は…とある方から命令を受けたのです。出陣前に」
「どんな命令だ?」
「そ、それは…」
「早く言え」
「隙を見て、ドミー殿を暗殺しろと…」
「なっ…!」
「…!」
俺よりライナとミズアの方が衝撃を受けていた。
両名とも表情に怒りを宿し、武具を強い力で握りしめる。
だが、それ以上の行動を起こさなかった。
暴発すれば俺に迷惑をかけると思ったのだろう。
修羅場を潜り抜け、俺たち3人は確実に成長している。
「そ、その命令を下した人を明かします~~~。なので、【アーテーの剣】を仲間に入れてください~~~」
「…」
なるほど。
底は浅いが、何とか必死で考えた策と言えなくもない。
Bランク冒険者たちを味方につけられるだけでなく、自分を殺そうとした人物の名前までわかる。
だがー、
「悪いが、必要ない」
断ることにした。
「えっ。こ、こんなに譲歩してるのに〜〜〜」
「り、理由を聞かないことにはー」
「接触禁止令が出ている時点で、お前らが何者かの指示を受けて動いていることは分かっていた。暗殺を命じられたどこかの誰かさんもやる気を失った以上、そこまで貴重な情報とも思えないな」
もっと言えば、この2人を後から【ビクスキ】で支配下に置いて、情報を吐き出せばいい。
今はアマーリエやゼルマたちと関係を深めている最中なので後回しだがな。
支配下に置いて変に媚びを売られると、不協和音が生じかねない。
「で、でも!」
ヘカテーはあくまで食い下がる。
「Cランクの連中よりBランクの我らと行動を共にした方がー」
「そのことだが」
特に深い恨みはないので、ありのままの感想を述べることとする。
「お前らは、明らかにアマーリエさんやゼルマさん率いるCランク集団より劣っている」
「なっ〜〜〜!?」
「ゼルマさんは何度もスキルを発動し、ケムニッツ砦の地図を数時間かけて完成させた。効果の持続時間が短いので、何度も発動し直してだ。最終的に、文句のつけようのない地図が完成している」
「…」
「アマーリエさんも、一枚岩とは言えない集団をよく統率し、ゴブリン討伐に多大なる貢献をした。最後の掃討戦でも、遠距離戦に徹して被害を出させなかった」
「だが、お前らはどうなんだ?エンハイム城では強制的に物資を接収して住民の怒りを買った。ケムニッツ砦に篭る前のゴブリンを討伐しなかった。共同してゴブリン討伐に当たる要請も無視して逃亡した。全てが終わった今になって、今更俺に媚を売りにきている」
俺のスキルがあれば、Cランク相当の人物もたやすくAランクまで格上げできる。
つまり、俺が最も重視するのはそれ以外の要素なのだ。
「…最後に付け加えるなら、お前らは俺が信頼する友人、ライナとミズアの劣化でしかない。行使できるスキルが似通っている上に、実力も人格も貧弱だ」
「だから、この話はなかったことにする」
こうして、短い会見は終了した。
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